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手から離れた
しおりを挟む事後処理として、謀反人をひっくくったり、落とし穴を埋めたりといろいろと後始末をした後、三人は帰路に就いた。
薄汚れたぼろぼろの下着姿で帰るわけにもいかずマントを拝借してくるまっている。
森から出たら、馬車が用意してあり、その馬車で王宮まで帰るのだ。
水浴びをしていたとしても多少饐えた臭いがするはずだ。
アストリッドは身を縮こまらせた。
「帰ったら風呂の支度をしてある」
その言葉にほっとした。
くたびれた姿の妃たちをそれぞれの侍女たちが迎えてきた。
バスタブに香油が浮かべてあるそれに足を突っ込んだ時、別々の場所でそれぞれ三人の妃が悲鳴を上げた。
麻布を編んだだけの靴を履いて舗装されていない道を散々歩き回ったのだ。脹脛から足の裏まで細かな傷がまんべんなくついていた。
そのうえ、浮かべてある香油がさらに足の痛みを増加した。
「我慢してくださいませ、入浴が終わり次第手当てして差し上げます」
侍女たちがよしと言わない限り、入浴は終わらない。
足だけでなく気づいていなかった細かな傷に呻きつつ、三人は入浴が終わるのを待ち焦がれていた。
ようやく入浴と手当てが終わり、侍女たちによる徹底した身支度が終わった後、三人はあらためて顔を合わせた。
それぞれ普段着用のドレス姿だ。
あのシュミーズ一枚の格好を思えばそれでも盛装といえた。
そして再び丸テーブルについて、お茶を手にした。
「なんだか、夢を見ていたような気がしますね」
ビアトリクスがそう言って、お茶を飲む。
しかし夢ではない証拠にビアトリクスの手入れをされていた爪はあちこちひび割れて痛んでいる。
いくら手入れをやり直しても欠けた爪はしばらく元に戻らないだろう。
「うん、そういえばほんの数日なんですわよね、で、コルセットってこんなに窮屈だったかしら」
ターシャが苦しそうに呻く。
久しぶりに締め上げられ、呼吸が浅くなっている。
「ああ、そういえば、捕まった連中はどうなりました?」
アストリッドは苦虫をかみつぶした顔で、答える。
「今牢屋、ほかのものも芋づる式にとらえられている」
「あの、考えたくありませんが、もしかして、裏にいたのは」
ビアトリクスが難しい顔をしてそう言いかける。
「当然、帝国の密偵だ。何年も前からうちの国に潜んでいたらしい、そちらも帰国したら大わらわなんじゃないか?」
「ですよねえ、というか今随行員の中にいませんか、こっちの予定とかいろいろ漏らしてる気がします」
ターシャが何とも言えない顔でそう呟く。そういえば自分が誘拐された時、いたはずのそば仕えとかあの時どこに行っていた。
今の身分は王太子妃、これが王妃ならいくらでもそういうことに首を突っ込めるが、いくら被害者でも王太子妃の身ではこれ以上の介入は難しいだろう。
アストリッドも独身の騎士時代はある程度話が通ったが、今は全くだ。
「なんだかうやむやですけど、最終的に同盟は結束したってことで話はまとまるんですかねえ」
ターシャがお茶をすすりながら呟く。
お茶菓子にはなんだか誰も手を付けない。このメンバーでお茶菓子を食べるのは。
「するしかないですわね」
ビアトリクスも重々しく頷く。
今後の展望を物悲しく感じながら、三人は盛り上がらないお茶会を続けた。
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