SURVIVAL 井伊直虎

karon

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 婚礼が中止になり、次郎法師は寺から出て、そして家族の元に戻るわけにもいかず、庵を新た  に構えた。
 お花は使用人の中から婿を選び、通いでその庵に次郎法師のもとに世話をしに来ることになった。
 そして、寺から交代で護衛が通ってくることにもなった。
 次郎法師は水汲みをしていた。
 手桶に配分の水を水桶にためる。
 水は一日置けば傷んでしまう。だから毎朝水を汲まねばならない。
 交代でやってくる僧侶たちはあくまで護衛なので、次郎法師の生活の世話をするわけではない。お花が来るまでいろいろとしておくことがあるのだ。
 小さな庵なので掃除も楽だ。
 掃除をしていると、客が来る。
 近くの村の責任者のような立場の者が時々次郎法師に話をしにやってくる。
 次郎法師は寺でいろいろ学んだので知識人だと言われ、相談にやってくるのだ。
 それに井伊の血筋はこの地の守り手だという意識もある。
 そういうわけで次郎法師はこの場所で民衆の相談役のようなことを始めた。
 そんなことを周りの男達は成り行きで認めるような形となった。
 しかし、この相談事はむしろ次郎法師のほうがいろいろ学ぶ機会となっていた。

 畑の水路のことをいろいろと聞いているとお花がやってきた。
 お花は持ってきた食料を調理し始める。
 次郎法師の食料はお花を通じて、井伊の家から届けられる。
 それにたまに次郎法師が積んできた山菜や茸などを膳に乗せることもある。
 次郎法師は何となく気の抜けた気分だった。
 このゆったりとした暮らしは嫌いではないが、今までの張りつめていた気持ちがどこかに行ってしまった。
 小野も次郎法師にもはや利用価値はないと見捨ててくれたようなのでそれは有り難いが、家族と溝ができたようにも思える。
 母は泣いていたが、そして曽祖父に恨み言を延々と並べていた。
 曽祖父にとっては孫である直親のほうが、ひ孫である次郎法師より可愛いのだろう。言い分はそんな感じだった。
 確かに直平にとっては孫に家督が行くことに変わりはない。そして行き遅れよりもっと若い嫁を見繕ってやりたいと思ったとしてもおかしくない。
 そうこうしているうちにお花が食事の支度ができたと知らせに来る。
 膳を運びながらお花は浮かない顔をしている。
「どうかしたか?」
「亀の丞様が婚礼をあげられるそうです」
 お花は石のようにこわばった顔をしている。
「そう」
 次郎法師はそれだけ言うと手を合わせて箸をとる。
「もうかかわりのないことだ」
 そう言って無言で食事を始めた。
 お花はその場で泣き崩れたが、すでに気持ちは固まっていた。驚くほど動揺しない。
「私は私で、ここで静かに生きていくよ」
 そう言って再び食事を続けた。
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