90 / 100
隠れた誰か
しおりを挟む
何が起こっているのだろう。
ゾディークは水差ししかないテーブルを目の前に立ち尽くす。
朝、起きて身支度をして、だが普段いつも付き添っている侍女たちがゾディークの許しもなく部屋を出て、そして、扉に鍵がかけられた。
朝食も何も出されない。空腹が限界を迎える。
しかしあるのは水差し一杯の水だけだ。
何が起きているのか。ゾディークは扉を叩きながらさんざん喚き散らした、しかし何も応えはない。
「どうして、この私が」
王妃亡き後、この国で最も高貴な女性であるはずのゾディークがこんな理不尽に耐えなければならないのか。
「このままどうなるのか、夫は、あの子は」
家族を案じるが何もできない。
ゾディークは唇をかんだ。
どれほど時が経っただろう。空腹も限界だったが。それ以上に状況が把握できない焦燥のほうが強い。
そして、ようやく扉は開いた。
「お前たちいったい何をしてくれたのです。王太子妃たる私に何たる無礼を」
そうまくしたてようとしたが、いきなり両脇を固められ腕をとられる。
「何を?」
背筋に冷たい汗が浮かぶ。
「妃殿下を、修道院までお送りします」
「何故、私が修道院に行かねばならないのです」
腕を振りほどこうともがきながら叫ぶ。しかし腕はびくともしない。
「修道院に向かわないとなれば。国家反逆罪で妃殿下を裁かねばなりません、さすがにそれは哀れだと陛下のお慈悲にございます」
「何故?」
私は幸福なままこの一生を送るはずなのに。そうゾディークは何度も自問した。しかしただ疑問を連ねるだけだ。
茫然としたままゾディークはずるずると引きずられていく
「行ったか」
老人はそう言って気のない顔で自らの机を指先でたたいた。
最初は何となくだったのだ。息子の花嫁となった女に感じた違和感。それは時を経るごとに肥大していった。
そして、生まれてきた孫、最初は愛らしいばかりだったが、徐々に異常性を感じ始めた。
そしてあの女はそんな孫に気づきもしない。
ほんの少しでもまともな気持ちがあればあの状況を何とかしようとしたはずだ。しかしあの女は全く動かなかった。
息子は当り障りなくあの女と付き合うようになった。すでに夫婦の気持ちも、親子の気持ちもなくなっているのだろう。ただ儀礼的に付き合うだけの関係。
そして息子自身孫の行く末を考え、あれを国王にするは孫のためにも国のためにもならないとそう思うようになったようだ。
苦く老人は呻く。
もっと早く気づいていたらと。
あの女は孫を玉座に着けるため動き出した。その中には売国行為と言ってもいいような内容すら含まれてた。もはや動かないという選択肢はなかった。
それにしてもわからないのは数人の男爵令嬢や子爵令嬢を殺害しようとする計画だ。
その令嬢たちは誰一人として、国家の重要な物事にかかわっていないしかかわろうともしていない。
「結局あの女は頭がおかしかったのだ、その頭のおかしさが孫に似てしまったのだ」
ずっと感じていた嫌悪感、それが最終的に憎悪にまで発展した。
ずっとあの女が嫌いだった。
何故最初から嫌いだったのだろう。
ゾディークは水差ししかないテーブルを目の前に立ち尽くす。
朝、起きて身支度をして、だが普段いつも付き添っている侍女たちがゾディークの許しもなく部屋を出て、そして、扉に鍵がかけられた。
朝食も何も出されない。空腹が限界を迎える。
しかしあるのは水差し一杯の水だけだ。
何が起きているのか。ゾディークは扉を叩きながらさんざん喚き散らした、しかし何も応えはない。
「どうして、この私が」
王妃亡き後、この国で最も高貴な女性であるはずのゾディークがこんな理不尽に耐えなければならないのか。
「このままどうなるのか、夫は、あの子は」
家族を案じるが何もできない。
ゾディークは唇をかんだ。
どれほど時が経っただろう。空腹も限界だったが。それ以上に状況が把握できない焦燥のほうが強い。
そして、ようやく扉は開いた。
「お前たちいったい何をしてくれたのです。王太子妃たる私に何たる無礼を」
そうまくしたてようとしたが、いきなり両脇を固められ腕をとられる。
「何を?」
背筋に冷たい汗が浮かぶ。
「妃殿下を、修道院までお送りします」
「何故、私が修道院に行かねばならないのです」
腕を振りほどこうともがきながら叫ぶ。しかし腕はびくともしない。
「修道院に向かわないとなれば。国家反逆罪で妃殿下を裁かねばなりません、さすがにそれは哀れだと陛下のお慈悲にございます」
「何故?」
私は幸福なままこの一生を送るはずなのに。そうゾディークは何度も自問した。しかしただ疑問を連ねるだけだ。
茫然としたままゾディークはずるずると引きずられていく
「行ったか」
老人はそう言って気のない顔で自らの机を指先でたたいた。
最初は何となくだったのだ。息子の花嫁となった女に感じた違和感。それは時を経るごとに肥大していった。
そして、生まれてきた孫、最初は愛らしいばかりだったが、徐々に異常性を感じ始めた。
そしてあの女はそんな孫に気づきもしない。
ほんの少しでもまともな気持ちがあればあの状況を何とかしようとしたはずだ。しかしあの女は全く動かなかった。
息子は当り障りなくあの女と付き合うようになった。すでに夫婦の気持ちも、親子の気持ちもなくなっているのだろう。ただ儀礼的に付き合うだけの関係。
そして息子自身孫の行く末を考え、あれを国王にするは孫のためにも国のためにもならないとそう思うようになったようだ。
苦く老人は呻く。
もっと早く気づいていたらと。
あの女は孫を玉座に着けるため動き出した。その中には売国行為と言ってもいいような内容すら含まれてた。もはや動かないという選択肢はなかった。
それにしてもわからないのは数人の男爵令嬢や子爵令嬢を殺害しようとする計画だ。
その令嬢たちは誰一人として、国家の重要な物事にかかわっていないしかかわろうともしていない。
「結局あの女は頭がおかしかったのだ、その頭のおかしさが孫に似てしまったのだ」
ずっと感じていた嫌悪感、それが最終的に憎悪にまで発展した。
ずっとあの女が嫌いだった。
何故最初から嫌いだったのだろう。
0
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい
海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。
その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。
赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。
だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。
私のHPは限界です!!
なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。
しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ!
でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!!
そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ
だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような?
♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟
皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います!
この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?【続編公開】
一番星キラリ
恋愛
「お前は何も悪くはない。だが、爵位も剥奪された。お前を養うことはもうできない。このまま身売りをするよりはマシだろう……」
号泣する父であり、元ベラスケス公爵を見て、私は唇をかみしめる。確かに私はまだ19歳になったばかりで、もちろん未婚。身売りすることになれば、高値で取引されるだろうと、容姿と美貌を見て自分でも分かる。
政治ゲームで父は負けた。ライバルであるドルレアン公爵は、父にやってもいない横領の罪をなすりつけ、国王陛下も王太子もそれを信じてしまった。しかもドルレアン公爵の娘カロリーナと私は、王太子の婚約者の座を巡り、熾烈な争いを繰り広げてきた。親同士が政治ゲームで争う一方で、娘同士も恋の火花を散らしてきたわけだ。
でも最初から勝敗は決まっていた。だってカロリーナはヒロインで、私は悪役令嬢なのだから。
え……。
え、何、悪役令嬢って? 今、私は何かとんでもないことを思い出そうとしている気がする。
だが、馬車に押し込まれ、扉が閉じられる。「もたもたしていると、ドルレアン公爵の手の者がやってくる」「で、でも、お父様」「パトリシア、元気でな。愛しているよ」「お、お父様―っ!」その瞬間、ものすごいスピードで馬車が走り出した。
だが、激しい馬車の揺れに必死に耐えながら、自分が何者であるか思い出したパトリシア・デ・ラ・ベラスケスを待ち受ける運命は、実に数奇で奇妙なものだった――。
まさか・どうして・なんでの連続に立ち向かうパトリシア。
こんな相手にときめいている場合じゃないと分かっても、ドキドキが止まらない。
でも最後にはハッピーエンドが待っています!
パトリシアが経験した数奇な運命を、読者の皆様も一緒に体験してみませんか!?
111話から続編を公開しています。もしよろしければご覧くださいませ(2024/1/15)
小説家になろうで3月より掲載しており、日間恋愛異世界転生/転移ランキングで22位(2023/05/16)を獲得しているので、きっとお楽しみいただけると思います。こちらのサイトでも続編更新が追いつくよう、投稿作業頑張ります。本サイトでは初投稿でいまだ緊張中&手探り状態。温かく見守っていただけると幸いです。第4回HJ小説大賞前期の一次選考通過作品。
◆模倣・盗用・転載・盗作禁止◆
(C)一番星キラリ All Rights Reserved.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる