62 / 100
新たな出会い2
しおりを挟む
貴族には当然のことながら、いろいろと王宮儀式などに出席しなければならない義務もある。
独身貴族女性はイベントの花とならなければならないのだ。
アメリアは父親と一緒に王宮内で適当なところをたむろしていた。
スティーブンは本日は仕事なので、今日会う理由もない。
父親は本日は宮廷内の儀式進行の仕事についている。アメリアは何となくそばで見ているだけだ。
父親の知り合いばかりが集まる中でアメリアは壁の花に徹していた。
いや、ちょっといたたまれない。何しろ父親の同僚たちは最近アメリアの婚約を知っている。娘を嫁に出す父親にめでたいながらも寂しい気持ちとやらを語り合ってくれたのだ。
そういうことは自分のいないところでやってくれ、頼むから目の前でやるなと苦言を呈したいのだが、さすがに若輩の身で口を出すことはできない。
そんなわけでアメリアだけが気まずい時間が流れていた。
そこに、キャロルを伴ったカーマイン男爵が現れた。同じく花として宮廷を彩る仕事をしていたキャロルはアメリアと合流してちょっと庭園に行くことにしたらしい。
「お父様ちょっと庭園にいますから、噴水の近くに」
そう言えばすぐに許可が立た。アメリアとしても異存はない。
二人は連れ立って、庭園の噴水に近づいた。
貴婦人は荷物を持たないものだが、キャロルはしっかりと大きな鞄を持っている。
鞄から画材道具一式を取り出して、噴水とその周辺の風景をスケッチし始めた。
今日はラフスケッチのみらしい。
シャカシャカ木炭で紙に風景を書き込んでいくのをアメリアは横眼で眺めつつ訊いた。
「絵って前からやってたの?」
「まあね、若気の至りでちょっと痛い絵もね」
アメリアはそのあたりはスルーしてあげることにした。
「絵を描くってそれで身を立てるわけじゃないでしょう」
「当たり前でしょ、貴族女性の嗜みの教養ってやつよ、前にやってたから楽できるかなとも思ったけど」
正直な発言だったが、そこは聞かないふりをした。
アメリアとしても聞いてどういうことでもない。
キャロルの絵は上手い部類には入るのだが、プロになるにはちょっと足りないぐらいだろうか。
アメリアとてそこまで審美眼があるわけではないが。
「あれ?」
アメリアはふと視界の中に動かないものがあるのに気付いた。
噴水の周りでは誰もが通り過ぎるだけだ。だが一人だけじっと動かない人影がある。
木の陰からこちらを伺っているようにも見えた。
瞬時にアメリアは緊張する。しかし気づいたことに気づかれてはならない。
アメリアはキャロルの絵を覗き込むようにして、そっとキャロルに囁きかけた。
「あの、木の陰にいる男わかる」
キャンバスに隠れて、その方向を小さく指さして見せた。
キャロルは怪訝そうにキャンバスから離れ、指を立てて構図を見るポーズをとってみながら周囲に視線を巡らせた。
アメリアの言っていた男はすぐに分かった。
木の陰からピッタリ身を寄せてこちらを伺っている。ポーズはともかく格好は怪しくなかった。あまり身分の高くない貴族、爵位は子爵家より下であっても上はない。
そして容姿も悪くない。きれいな金髪を撫でつけて整った顔立ちをしている。
そしてそういいう怪しげな行動をとる人間に対して、今は警戒心を二人は強めていた。
もしかして私に申し込みたいのかなどとお花畑な想像など薬にもしたくないくらい。
「どうする?」
「今は無視しよう、もし行動を起こしたら、とりあえず女でも二人いるからいつでも反撃に移れるように」
アメリアはこっくりと頷いた。噴水の周りの土の上にはいい感じに小石が落ちている。アメリアはわざとハンカチを落とし、ハンカチを拾うふりをして小石をいくつか拾い上げた。
ハンカチに小石を包めば即席のブラックジャックができる。
独身貴族女性はイベントの花とならなければならないのだ。
アメリアは父親と一緒に王宮内で適当なところをたむろしていた。
スティーブンは本日は仕事なので、今日会う理由もない。
父親は本日は宮廷内の儀式進行の仕事についている。アメリアは何となくそばで見ているだけだ。
父親の知り合いばかりが集まる中でアメリアは壁の花に徹していた。
いや、ちょっといたたまれない。何しろ父親の同僚たちは最近アメリアの婚約を知っている。娘を嫁に出す父親にめでたいながらも寂しい気持ちとやらを語り合ってくれたのだ。
そういうことは自分のいないところでやってくれ、頼むから目の前でやるなと苦言を呈したいのだが、さすがに若輩の身で口を出すことはできない。
そんなわけでアメリアだけが気まずい時間が流れていた。
そこに、キャロルを伴ったカーマイン男爵が現れた。同じく花として宮廷を彩る仕事をしていたキャロルはアメリアと合流してちょっと庭園に行くことにしたらしい。
「お父様ちょっと庭園にいますから、噴水の近くに」
そう言えばすぐに許可が立た。アメリアとしても異存はない。
二人は連れ立って、庭園の噴水に近づいた。
貴婦人は荷物を持たないものだが、キャロルはしっかりと大きな鞄を持っている。
鞄から画材道具一式を取り出して、噴水とその周辺の風景をスケッチし始めた。
今日はラフスケッチのみらしい。
シャカシャカ木炭で紙に風景を書き込んでいくのをアメリアは横眼で眺めつつ訊いた。
「絵って前からやってたの?」
「まあね、若気の至りでちょっと痛い絵もね」
アメリアはそのあたりはスルーしてあげることにした。
「絵を描くってそれで身を立てるわけじゃないでしょう」
「当たり前でしょ、貴族女性の嗜みの教養ってやつよ、前にやってたから楽できるかなとも思ったけど」
正直な発言だったが、そこは聞かないふりをした。
アメリアとしても聞いてどういうことでもない。
キャロルの絵は上手い部類には入るのだが、プロになるにはちょっと足りないぐらいだろうか。
アメリアとてそこまで審美眼があるわけではないが。
「あれ?」
アメリアはふと視界の中に動かないものがあるのに気付いた。
噴水の周りでは誰もが通り過ぎるだけだ。だが一人だけじっと動かない人影がある。
木の陰からこちらを伺っているようにも見えた。
瞬時にアメリアは緊張する。しかし気づいたことに気づかれてはならない。
アメリアはキャロルの絵を覗き込むようにして、そっとキャロルに囁きかけた。
「あの、木の陰にいる男わかる」
キャンバスに隠れて、その方向を小さく指さして見せた。
キャロルは怪訝そうにキャンバスから離れ、指を立てて構図を見るポーズをとってみながら周囲に視線を巡らせた。
アメリアの言っていた男はすぐに分かった。
木の陰からピッタリ身を寄せてこちらを伺っている。ポーズはともかく格好は怪しくなかった。あまり身分の高くない貴族、爵位は子爵家より下であっても上はない。
そして容姿も悪くない。きれいな金髪を撫でつけて整った顔立ちをしている。
そしてそういいう怪しげな行動をとる人間に対して、今は警戒心を二人は強めていた。
もしかして私に申し込みたいのかなどとお花畑な想像など薬にもしたくないくらい。
「どうする?」
「今は無視しよう、もし行動を起こしたら、とりあえず女でも二人いるからいつでも反撃に移れるように」
アメリアはこっくりと頷いた。噴水の周りの土の上にはいい感じに小石が落ちている。アメリアはわざとハンカチを落とし、ハンカチを拾うふりをして小石をいくつか拾い上げた。
ハンカチに小石を包めば即席のブラックジャックができる。
0
お気に入りに追加
349
あなたにおすすめの小説
転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!
つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが!
第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。
***
黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
他人の人生押し付けられたけど自由に生きます
鳥類
ファンタジー
『辛い人生なんて冗談じゃ無いわ! 楽に生きたいの!』
開いた扉の向こうから聞こえた怒声、訳のわからないままに奪われた私のカード、そして押し付けられた黒いカード…。
よくわからないまま試練の多い人生を押し付けられた私が、うすらぼんやり残る前世の記憶とともに、それなりに努力しながら生きていく話。
※注意事項※
幼児虐待表現があります。ご不快に感じる方は開くのをおやめください。
糞ゲーと言われた乙女ゲームの悪役令嬢(末席)に生まれ変わったようですが、私は断罪されずに済みました。
メカ喜楽直人
ファンタジー
物心ついた時にはヴァリは前世の記憶を持っていることに気が付いていた。国の名前や自身の家名がちょっとダジャレっぽいなとは思っていたものの特に記憶にあるでなし、中央貴族とは縁もなく、のんきに田舎暮らしを満喫していた。
だが、領地を襲った大嵐により背負った借金のカタとして、准男爵家の嫡男と婚約することになる。
──その時、ようやく気が付いたのだ。自分が神絵師の無駄遣いとして有名なキング・オブ・糞ゲー(乙女ゲーム部門)の世界に生まれ変わっていたことを。
しかも私、ヒロインがもの凄い物好きだったら悪役令嬢になっちゃうんですけど?!
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる