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キャロルがもたらした困惑

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 家には帰らせてもらえるが、毎日のようにユーフェミアのところに行かされて、そのままメイド修行をする羽目になっていた。
 とはいえ公爵家ぐらいになると、騎士爵や男爵の家に生まれた使用人はそれなりにいる。そのためアメリアの存在は浮かなかった。
 行儀作法こそ厳しかったが仕事自体は窓枠を拭いたり置物にハタキをかけるなどの軽いものだ。そしてアメリアが一通りハタキをかけた後、もっと身分の低い商人や細工師や農家の生まれのメイドが床掃除を始める。
 公爵家とは言え貴族に生まれて使用人になるというのは子だくさんで面倒を見切れないかデレインの家のように経済破綻した家の出身者ばかりだ。
 そのため、そこそこ堅実に儲けている男爵家の娘は逆に肩身が狭かった。
 アメリアはまじめに働いていたが、結局これはただ働き、何でもするって言ってもこれはあんまりだ。
 ハタキ掛けをしているさなかアメリアはユーフェミアに呼び出された。
 ユーフェミアは応接セットのソファに座り、その反対側にはエクストラが座っている。
 エクストラの背後にはえキャロルが立っていた。
 とっさに近寄ろうとしたアメリアはそのキャロルの放つ異様な空気に思わずのけぞった。
 目が虚ろだ、それに少し痩せこけている。髪は結い上げたまま長時間そのままにしていたかのように崩れている。
 そんな状態なのにキャロルの唇は歪んだ笑みを刻んでいた。
「ちょっと大丈夫なの?」
「うっふふふふうふふふふふふふふふ」 
 虚ろな目のまま含み笑いをするその姿は思わず引いてしまうほど怖かった。
「大丈夫よ、だってたった三日しか寝てないだけだし」
「いや、それ大丈夫じゃない」
 キャロルはへらへらと笑っている。
 思わずエクストラを見た。エクストラはそっと視線を逸らした。
 ユーフェミアもその表情は強張っている。
「うふふふふふ、三日なんて大丈夫大丈夫。書類にまみれてそれくらい当然だからよくあることよくあること」
「あの?」
 エクストラは観念したように口を開いた。
「収支報告書を調べてもらったのよ、我が家の密偵が手に入れたものを」
「うわあ」
 この世界の帳簿自体がわかりにくく作ってある、わざとなのか知識がないのか知らないが。
「最初から分かりやすく整理をして書き直しまでしていたの、まさか不眠不休でやっていたとは気が付かなくて」
 エクストラは気まずそうにそう言った。
「少しぐらい目がいっているのも仕様なのかしら」
 ユーフェミアも少し戸惑いがちにキャロルを見ていた。
「大丈夫、ちょっとがんばったらちゃんと脱税の証拠をつかんだし」
「誰の?」
「バーミリオン公爵派閥の一番大きな家のよ」
 血走った目を大きく見開いて全開の笑顔でキャロルはそう言った。
「切り崩し作戦か」
 汚職の証拠を握って離反させるのかそれともダブルスパイでもやらせるのか、どちらでもそれなりに旨味がありそうだ。
「ついでに算盤も売り込んで一石二鳥!!」
 狂気を感じさせる笑顔でキャロルは叫ぶ。
「うちは樫が取れないでしょ、樫だけじゃなくて建物や家具になりそうな丈夫な気が極端に少ないの、でも算盤なら柔らかい木でも大丈夫、むしろ細工がしやすいかもってことで、増産体制に入ったのよ」
 なるほど、算盤は考えつかなかった。とアメリアは感心した。
「あれ、どうしてメイドの格好してるの?」
 ようやく気が付いたキャロルが訊ねる。実はアメリアもそれが知りたい。
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