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絶対条件
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キャロルに一通り伝言すると三人でお茶にしようとスティーブンを誘った。
新しくお茶が用意されるとスティーブンは深々と頭を下げた。
「姉は昔から合理的思考だと主張してああいう行動をとる人でして」
軽くこめかみをもみながら呟く。
「あれって普通じゃないんですか」
「姉はやたら上昇志向の強い人でして」
コネをつけるのに血眼になっているらしい。男爵令嬢から子爵夫人になっているあたりそうなんだろうなと思うが。
「それにコネをつけるって、お父様もケーキのレシピで偉い人にコネをつけていますからそんなにおかしいことじゃないと思いますが」
「そうですね、とんでもない女性を結婚相手に連れてこられた時まではそう思っていましたよ」
思わず身を乗り出した二人にスティーブンの眉間に深いしわが寄る。
それは去年のこと、スティーブンは姉の紹介でお見合いすることになった。
姉の紹介ならと家族も乗り気になった。スティーブン自身も早く結婚しろと親族から圧力を受けていたので最初は嬉しかった。
その女性は、少し前に失恋して恋愛に消極的ということだが、女性の婚活できる期間は短いその期間を無駄に過ごすなどとんでもないことだということでお見合いがセッティングされたという。
その話自体にはそれほど真剣に聞いてはいなかったが、姉の話では資産家の娘だという。
資産はともかく、その失恋からどれほど立っているのだろうと考える。あまり時間を置かずに見合いなどしたら余計にこじれる可能性もある。
資産は魅力だが、こじれた結婚生活を送るのも困る。
その令嬢はあずまやで青ざめた顔をうつむけて座っていた。
長い金の髪と折れそうに細い肢体。見た目だけには文句のつけようのない美人だった。
見た目だけには文句のつけようのない美人だった。だが表情は虚ろ特に目が死んでいる。でどう見てもまだ立ち直っていない。しばらく自室にこもって静かに過ごすべきなのではないだろうか。
少し時間をおいてはどうだろうかと付き添いの母親に行ってみたが、すぐに結婚しなければならないの一点張りだ。
その時点で何かが引っ掛かった。
確かに一刻を争う婚活だが、それでも体調や精神状態の悪いのを押し切るほどのことだろうかと。
二三か月様子を見るくらいならそれほど時間を無駄にしたというわけでもない気がしたのだが。
その時初夏で梔子の花が咲いていた。
その清楚で白い花と甘い香りを愛でようとスティーブンはスティーブンはその令嬢を誘った。
その令嬢はそっとついてきたが、急に顔色が悪くなった。そしてうずくまりその場で嘔吐した。
やはり時間を置いたほうがいいとスティーブンは思った。彼女は病気なのだと。
しかし、それはスティーブンの無知から来た誤解だった。
その嘔吐する様子に違和感を感じたスティーブンの母親は即座に相手の令嬢の母親を問い詰めた。
そしてめでたく破談になった。
後日母親から詳しい説明を聞いたスティーブンは立ち眩みを起こしたそうだ。
その令嬢は病気ではなく妊娠していた。付き合っていた男性に二股をかけられたのだそうだ、それは同情するが、明確な婚約をしてもいないのに子供ができるような真似をしたのはやはり軽率としか言いようがない。
そして、妊娠が発覚する前に適当な男をあてがって子供の父親にしようとしていたのだという。その事実を姉も知っていた。
スティーブンの両親は激怒したが、姉はけろりとした顔だった。
「女だったらそのまま育てて、男だったら神殿にでも預ければいいじゃない。病弱ってことにすればだれも疑わないわ」
「そんな問題じゃない」
そうスティーブンが言うが、姉には通じなかった。
「あちらと縁続きになればうちにいい取引先を紹介してもらえたのに」
「お前はそんなことで弟を売ろうとしたの」
母親は激怒して、そのまま娘と絶縁を宣言した。以来二人は一度も会っていない。
話を聞いて、どのような表情を作ったものかとアメリアとキャロルは悩み果て、どこか虚ろで歪んだ笑みを浮かべていた。
「まあ、結局子供は生まれて子供のいない親戚に里子に出されたそうです。そして彼女は今神に仕えているようですね」
スティーブンはそう呟いてお茶を一口飲んだ。
「お前さえ我慢すれば二人の人間が助かると姉に言われましたが、ちょっと無理でした。私はその程度の器です」
「いや、それは貴方の責任じゃ」
責任があるとしたら、その見知らぬ二股の阿保しかいないとアメリアは思う。
「普通は無理だよ」
キャロルも同意する。
「私は、その時結婚というものを真剣に考えたんです。そしてそれは二人で考えるもの、二人で考えられる人がいいと思います」
「じゃあとりあえず、さっきキャロルと結婚について、絶対譲れないものがあるって結論が出たの」
アメリアは身を乗り出した。
「浮気する人は無理」
「絶対無理」
「浮気しない代わりに絶対貴方もしない、これは最低限の要求なんだけど」
アメリアは上目遣いになってそっと探るように言う。
「それは肝に銘じておきましょう」
スティーブンは厳かに宣言した。
新しくお茶が用意されるとスティーブンは深々と頭を下げた。
「姉は昔から合理的思考だと主張してああいう行動をとる人でして」
軽くこめかみをもみながら呟く。
「あれって普通じゃないんですか」
「姉はやたら上昇志向の強い人でして」
コネをつけるのに血眼になっているらしい。男爵令嬢から子爵夫人になっているあたりそうなんだろうなと思うが。
「それにコネをつけるって、お父様もケーキのレシピで偉い人にコネをつけていますからそんなにおかしいことじゃないと思いますが」
「そうですね、とんでもない女性を結婚相手に連れてこられた時まではそう思っていましたよ」
思わず身を乗り出した二人にスティーブンの眉間に深いしわが寄る。
それは去年のこと、スティーブンは姉の紹介でお見合いすることになった。
姉の紹介ならと家族も乗り気になった。スティーブン自身も早く結婚しろと親族から圧力を受けていたので最初は嬉しかった。
その女性は、少し前に失恋して恋愛に消極的ということだが、女性の婚活できる期間は短いその期間を無駄に過ごすなどとんでもないことだということでお見合いがセッティングされたという。
その話自体にはそれほど真剣に聞いてはいなかったが、姉の話では資産家の娘だという。
資産はともかく、その失恋からどれほど立っているのだろうと考える。あまり時間を置かずに見合いなどしたら余計にこじれる可能性もある。
資産は魅力だが、こじれた結婚生活を送るのも困る。
その令嬢はあずまやで青ざめた顔をうつむけて座っていた。
長い金の髪と折れそうに細い肢体。見た目だけには文句のつけようのない美人だった。
見た目だけには文句のつけようのない美人だった。だが表情は虚ろ特に目が死んでいる。でどう見てもまだ立ち直っていない。しばらく自室にこもって静かに過ごすべきなのではないだろうか。
少し時間をおいてはどうだろうかと付き添いの母親に行ってみたが、すぐに結婚しなければならないの一点張りだ。
その時点で何かが引っ掛かった。
確かに一刻を争う婚活だが、それでも体調や精神状態の悪いのを押し切るほどのことだろうかと。
二三か月様子を見るくらいならそれほど時間を無駄にしたというわけでもない気がしたのだが。
その時初夏で梔子の花が咲いていた。
その清楚で白い花と甘い香りを愛でようとスティーブンはスティーブンはその令嬢を誘った。
その令嬢はそっとついてきたが、急に顔色が悪くなった。そしてうずくまりその場で嘔吐した。
やはり時間を置いたほうがいいとスティーブンは思った。彼女は病気なのだと。
しかし、それはスティーブンの無知から来た誤解だった。
その嘔吐する様子に違和感を感じたスティーブンの母親は即座に相手の令嬢の母親を問い詰めた。
そしてめでたく破談になった。
後日母親から詳しい説明を聞いたスティーブンは立ち眩みを起こしたそうだ。
その令嬢は病気ではなく妊娠していた。付き合っていた男性に二股をかけられたのだそうだ、それは同情するが、明確な婚約をしてもいないのに子供ができるような真似をしたのはやはり軽率としか言いようがない。
そして、妊娠が発覚する前に適当な男をあてがって子供の父親にしようとしていたのだという。その事実を姉も知っていた。
スティーブンの両親は激怒したが、姉はけろりとした顔だった。
「女だったらそのまま育てて、男だったら神殿にでも預ければいいじゃない。病弱ってことにすればだれも疑わないわ」
「そんな問題じゃない」
そうスティーブンが言うが、姉には通じなかった。
「あちらと縁続きになればうちにいい取引先を紹介してもらえたのに」
「お前はそんなことで弟を売ろうとしたの」
母親は激怒して、そのまま娘と絶縁を宣言した。以来二人は一度も会っていない。
話を聞いて、どのような表情を作ったものかとアメリアとキャロルは悩み果て、どこか虚ろで歪んだ笑みを浮かべていた。
「まあ、結局子供は生まれて子供のいない親戚に里子に出されたそうです。そして彼女は今神に仕えているようですね」
スティーブンはそう呟いてお茶を一口飲んだ。
「お前さえ我慢すれば二人の人間が助かると姉に言われましたが、ちょっと無理でした。私はその程度の器です」
「いや、それは貴方の責任じゃ」
責任があるとしたら、その見知らぬ二股の阿保しかいないとアメリアは思う。
「普通は無理だよ」
キャロルも同意する。
「私は、その時結婚というものを真剣に考えたんです。そしてそれは二人で考えるもの、二人で考えられる人がいいと思います」
「じゃあとりあえず、さっきキャロルと結婚について、絶対譲れないものがあるって結論が出たの」
アメリアは身を乗り出した。
「浮気する人は無理」
「絶対無理」
「浮気しない代わりに絶対貴方もしない、これは最低限の要求なんだけど」
アメリアは上目遣いになってそっと探るように言う。
「それは肝に銘じておきましょう」
スティーブンは厳かに宣言した。
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