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第5話
親切な老婆
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辺りはすっかり夜も更けて町中の建物に次々と光が灯り出した。
宿屋を追い出された私は行き場もなく途方に暮れていた。
これからどうするか考えを巡らしていたところ、不意に誰かに肩を叩かれた。
私は咄嗟に振り返り距離を取るため後ろに飛んだ。ここは人通りが少なくしかもほとんど街灯が無い薄暗い夜道。いつ誰に斬りかかられても不思議ではない。私は懐に隠しもっていた短剣に手を添え、人影の動きを待った。
しかし人影に動きは無い。
きみが悪くなった私は勇気を出して話しかけてみることにした。
「貴方は何者?私に何か用なの?」
しばらく沈黙が続いていたが、急に高笑いがしたかと思うと人影が暗闇から姿を現した。
「あっ、ははは!こりゃ、驚いた。いやぁ、良いもの見せてもらったよ」
なんと人影の正体は背の低い白髪の老婆だった。老婆は名を悠然(ヨウラン)といい、この辺りの住人だと教えてくれた。
夜道にふらついている私を心配して声をかけるつもりだったそうだ。
「そうだったんですね。てっきり通り魔かと」
「悪いことをしちゃったね。お詫びにと言っては何だが、うちに泊まっていかないかい?」
「-え?」
「こんな時間にふらついてるってことはまだ宿は決まってないんだろ?」
「……はい。でも、ご家族にご迷惑じゃ……」
「なに、一人暮らしだから心配いらんよ。まあ、なにぶん古い家じゃから若い人には向かないかもしれんが」
「全然、寧ろありがたいです」
私は悠然からの誘いを受けることにした。
彼女の丁寧な案内で無事家にたどり着いたのだが………。
「--ここ、ですか?」
「そうじゃよ。ささ、入っておくれ」
案内されたのは普通の家では無く、今にも崩れそうな生活感など皆無のおんぼろの建物だった。引き返したくなる気持ちを必死に堪えて私は悠然の後に続いた。
靴を脱ぎ家の中に入ろうと玄関の敷居をまたいだ時、私の視界は一瞬にして真っ暗に変わった。
「ぎゃー!」
どうやら私は床を踏み外しそのまま落下したらしい。幸いにも怪我は無かったが、頭上に大きな穴がぽかりと空いている状態に頭の理解が追いつかなかった。
「あらまあ、床が腐っていたんだね。大丈夫かい?怪我は?」
私の落下に気づいた悠然が手を差し伸べてくれた。私はその手を取りなんとか床下から抜け出すことができた。
「私は何とも、でも床が……」
「気にしなくていいよ。わしなんてしょっちゅうさ!」
床を踏み外すのが⁉︎
「修理とか頼まないんですか?」
「生憎、うちには修理に回すお金が無くてね。ま、そのうち慣れるから!」
いや、慣れねえよ。天地がひっくり返っても慣れねえよ。それにしても、こんな危険な家に老人が一人暮らしって………。
不意にとてつもない悪寒が走った。人目見た時から薄々感じていたが、この家は普通じゃない。
私の直感は悲しいまでにも的中したのだ。
夕飯は硬くなった玄米と山菜のお漬物のみ。
身体を洗う時は近くの水路を使い汗を流す。
寝室は蜘蛛の巣や小さい虫が隅っこにうじゃうじゃ。最悪なことに襖は破れていて冷えた夜風が容赦なく侵入してくる。たいして野宿と変わらないような……。
「はっ、くしゅん!うぅ、寒いよ~」
私は心の中で悠然についてきたことを物凄く後悔していた。この家は呪われている!
そう思った罰なのか突然天井から大きな蜘蛛が顔面に落っこちてきたのだ。
「-⁉︎ …………」
虫が苦手な私はそのまま気絶したのである。
翌朝、ぴくりとも動かなくなった私を顔面蒼白の悠然が発見するのだった。
宿屋を追い出された私は行き場もなく途方に暮れていた。
これからどうするか考えを巡らしていたところ、不意に誰かに肩を叩かれた。
私は咄嗟に振り返り距離を取るため後ろに飛んだ。ここは人通りが少なくしかもほとんど街灯が無い薄暗い夜道。いつ誰に斬りかかられても不思議ではない。私は懐に隠しもっていた短剣に手を添え、人影の動きを待った。
しかし人影に動きは無い。
きみが悪くなった私は勇気を出して話しかけてみることにした。
「貴方は何者?私に何か用なの?」
しばらく沈黙が続いていたが、急に高笑いがしたかと思うと人影が暗闇から姿を現した。
「あっ、ははは!こりゃ、驚いた。いやぁ、良いもの見せてもらったよ」
なんと人影の正体は背の低い白髪の老婆だった。老婆は名を悠然(ヨウラン)といい、この辺りの住人だと教えてくれた。
夜道にふらついている私を心配して声をかけるつもりだったそうだ。
「そうだったんですね。てっきり通り魔かと」
「悪いことをしちゃったね。お詫びにと言っては何だが、うちに泊まっていかないかい?」
「-え?」
「こんな時間にふらついてるってことはまだ宿は決まってないんだろ?」
「……はい。でも、ご家族にご迷惑じゃ……」
「なに、一人暮らしだから心配いらんよ。まあ、なにぶん古い家じゃから若い人には向かないかもしれんが」
「全然、寧ろありがたいです」
私は悠然からの誘いを受けることにした。
彼女の丁寧な案内で無事家にたどり着いたのだが………。
「--ここ、ですか?」
「そうじゃよ。ささ、入っておくれ」
案内されたのは普通の家では無く、今にも崩れそうな生活感など皆無のおんぼろの建物だった。引き返したくなる気持ちを必死に堪えて私は悠然の後に続いた。
靴を脱ぎ家の中に入ろうと玄関の敷居をまたいだ時、私の視界は一瞬にして真っ暗に変わった。
「ぎゃー!」
どうやら私は床を踏み外しそのまま落下したらしい。幸いにも怪我は無かったが、頭上に大きな穴がぽかりと空いている状態に頭の理解が追いつかなかった。
「あらまあ、床が腐っていたんだね。大丈夫かい?怪我は?」
私の落下に気づいた悠然が手を差し伸べてくれた。私はその手を取りなんとか床下から抜け出すことができた。
「私は何とも、でも床が……」
「気にしなくていいよ。わしなんてしょっちゅうさ!」
床を踏み外すのが⁉︎
「修理とか頼まないんですか?」
「生憎、うちには修理に回すお金が無くてね。ま、そのうち慣れるから!」
いや、慣れねえよ。天地がひっくり返っても慣れねえよ。それにしても、こんな危険な家に老人が一人暮らしって………。
不意にとてつもない悪寒が走った。人目見た時から薄々感じていたが、この家は普通じゃない。
私の直感は悲しいまでにも的中したのだ。
夕飯は硬くなった玄米と山菜のお漬物のみ。
身体を洗う時は近くの水路を使い汗を流す。
寝室は蜘蛛の巣や小さい虫が隅っこにうじゃうじゃ。最悪なことに襖は破れていて冷えた夜風が容赦なく侵入してくる。たいして野宿と変わらないような……。
「はっ、くしゅん!うぅ、寒いよ~」
私は心の中で悠然についてきたことを物凄く後悔していた。この家は呪われている!
そう思った罰なのか突然天井から大きな蜘蛛が顔面に落っこちてきたのだ。
「-⁉︎ …………」
虫が苦手な私はそのまま気絶したのである。
翌朝、ぴくりとも動かなくなった私を顔面蒼白の悠然が発見するのだった。
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