翠玲の幸福代行屋

黄瀬冬馬

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第2話

借金を背負わされた少女

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突然だが、次のようなことわざを耳にしたことはあるだろうか?
    《金は天下の回り物》
金銭は常に世の中を巡っていて一箇所にとどまっていることはないという意味である。簡単に言えば、裕福な者も貧しい者にもお金が巡る機会は平等に与えられているということだ。
なんとも無責任で都合の良い言い回しだと思わないだろうか?
少なくとも私はこの言葉が嫌いだ。
何故かって? だって、本当にお金が平等に巡ってくるのなら、今現在私はここまで大きな問題に直面することは無かったのだから………。
「それで、金の用意はできているんだろうな?」
「だから、何度も言ってるじゃない。そんな大金すぐに払えるわけないって!」
何度も何度も同じやり取りの繰り返し。流石に毎日これだとストレスが溜まる。
今、私の前にはいつものように借金返済を要求してくる3人の男の取り立て屋が家(酒場)を訪ねてきたところだ。
取り立て屋の頭領は開口一番に必ずさっきの言葉で脅してくる。私が借金を返せないとわかっているにも関わらず。
なるほど、確かに借金取りになっただけのことはある。
なんて関心してる場合じゃないでしょ、私!とにかく今日も何とかして追い払わないと………。
「ーーあの、取り立て屋さん?」
「何だ?いつもの追っ払い作戦でも実行するつもりか?」
うげっ、見透かされてる⁉︎ そりゃあ、毎回同じやり方は通用しないよね……(涙)。
頭領の言葉に取り巻きの肥満体質の男が痺れを切らしたように急に私に突っかかってきた。
「やい、てめぇ!どこまでもせこい奴だなあ。俺達の頭領を何だと思ってーー」
「静かにしろ」
「で、でも頭領!」
「聞こえなかったか?静かにしろと言ったんだが?」
「………っ⁉︎ ーー失礼しました」
肥満体質の男はやや不服そうだったが、頭領の命令に従っていた。
頭領は話を戻すため小さく咳払いをした。
「今日のところはこのくらいで観念してやる」
「え?どうして……」
「勘違いするな。2週間後またここに来る。それまでに金を用意しておけ。もし用意できなかったら……」
「ゴクリっ!できなかったら……?」
私は固唾を呑み頭領の言葉を待った。
頭領はニヤリと口角を上げ私に容赦無く次の言葉を吐き捨てた。
「ーこの酒場を売り払い、お前を連行し、一日中俺達の奴隷として働いてもらう」
「なっ⁉︎」
幻聴かと疑いたくなったが、私の耳には間違いなくそう聞こえた。
奴隷………冗談じゃないわ!
私が頭領に抵抗しようと口を開きかけようとしたが取り立て屋の姿はもう無かった。
恐怖から解放され安心したのか私は力が抜けてその場に座り込んでしまった。
「た、助かった~。今度こそ終わったと思ったわ」
完一発、あの頭領の気が変わらなかったら危なかったわね。でもまた2週間したら奴らはこの酒場に来ると言っていた。
「それまでに何か手立てを考えなくっちゃね、………痛っ⁉︎」
突然激しい頭痛に襲われ、近くにあった机に手をつき寄りかかった。
「うそ、こんな時に……」
私は急いで薬を飲もうと台所の水飲み場に向かおうとした。だが思ったように身体に力が入らず気を失ったように倒れてしまった。
このままでは不味いと思った時、店の呼び鈴が2回鳴ったのが聞こえた。
「やっほー!蓮花ちゃん、来たよ」
「蓮花ちゃん、今日もいつもの……蓮花ちゃん⁉︎ どうかしたかね?」
来店してきたのは私の店をひいきにしてくれている常連客のおじさん2人だった。
2人とも村の住人で母が生前だった頃からの付き合いだ。
2人は店に入るなり私に気づき血相を変えた様子で駆け寄ってきた。
「気分が悪いのか?」
「………あ、頭が……」
「頭が痛いのかね?」
私がゆっくり頷くとすぐに水と薬を用意してくれた。私は喉が渇いていたこともあり湯呑みに入っていた水を余すことなく薬と一緒に飲み干した。おかげで私はいつもの調子を取り戻したのだった。
「ぷはぁ、生き返るわ~!」
「あはは、蓮花ちゃんおっさんみたいになっとるぜ!」
この陽気な性格の人は農家をしている松陽さん。
「本当、さっきまで苦しそうにしてたのが信じられないね~」
このおっとりした人は宗吉さん。村で育てた食べ物を町の港まで船で運ぶ仕事をしている。
2人は仲が良く休みが重なった日には決まって私の店に足を運んでくれた。
「本当にありがとうございました。あのままだったら私、天に召されてましたから」
私は普段通りにたわいのない冗談で2人を笑わせる。
「あはは、相変わらず面白いなあ蓮花ちゃんは。かまわんよ、困った時はお互い様って言うだろ?なあ、宗吉?」
「その通りさ、何も気にすることはない。しかし、大事が無くて良かったよ」
そう言うと宗吉は店の中を辺り一面を見回してから私に質問をした。
「ーーところで、また店が荒れているようだけど……。あいつらかい?」
「あはは、さすが宗吉さん、鋭いですね。
実はついさっきまで」
「そうかい……」
あの取り立て屋は来るたびに店の中を荒らし帰って行く。まるで嵐のように。
初めは恐ろしく不快に感じていたが、今ではそうなっているのが当たり前の光景になっていた。こんな自分が恐ろしい……。
「もう散々よ。脅されるわ、店は荒らすわで、少しは片付けるこっちの身にもなれって感じ!」
私の不満話に松陽は腹を抱えて爆笑していた。
それに反して宗吉は私の目をじっと見据えて心配そうに告げる。
「ーなあ、蓮花ちゃん。何度も言っているがわしらにできることは無いかね?」
「ーえ⁉︎ そんな、いいですよ」
「そんな悲しいこと言わずに何でも言ってくれよ。俺達も蓮花ちゃんの力になりたいんだよ。若い18の娘が一人で酒場を切り盛りしていくだけでも大変なのに、親の借金まで背負わされて良いわけがない!」
「わしも松陽さんもあんたには幸せな人生を歩んでほしいんじゃよ」
「……松陽さん、宗吉さん」
まさか2人がそんな風に思ってくれていたなんて……。私は彼らの言葉に思わず涙が込み上げそうになった。こんなふうに胸が熱くなったのはいつぶりだろう。
気持ちはありがたい、でもここで2人に甘えるのは違う気がする。
「お気持ち、嬉しいです。でも、大丈夫です。絶対に自分で何とかしますから」
「どうしても………かい?」
宗吉の問いかけに私は深く頷いた。
2人は互いの顔を見つめ合い不安げな表情だったが、私の固い意志をくみ取りどうにか納得してくれた様子だった。
「わかった、でも無理だけはするなよ?」
「困った時は相談してね」
「ーーはい」
母さん、私良いお客さんもったよ。
「ーただし俺達も好きにさせてもらうぜ?」
松陽と宗吉はとっさに店の掃除道具入れからほうきとちりとりを取り出した。一体何をするつもりなのかと尋ねると、宗吉は自身の肩を回し始めた。
「せめて、ガラクタを片付ける手伝いはさせてもらおうかと思ってね」
「ーークスッ、お願いします」
2人のおかげで店の中は見違えるほど綺麗になった。私は2人に感謝の印としていつもより良いお酒をお土産に持たせることにした。
「良いのかい?こんな高いお酒」
袋の中身に目を丸くした宗吉は受け取りづらいと言わんばかりに私の様子を伺っていた。
「気持ちばかりの品です、受け取ってください。今日は何のお構いもできずすみませんでした」
「いや、楽しい時間だったよ」
私は遠ざかっていく2人の背中を見送った後、扉に掛けてある営業中と書かれた札をひっくり返しお店を閉めた。
お店が終わった後は数少ない憩いの時間がやってくる。
用事もひと段落したので私は酒屋の2階にある自室で横になることにした。
今日もよく働いた。
そう自分に労いの言葉をかけるのが日課になっていた。
そしていつもならこのまま眠りに落ちるのだが……………。
「……だめだ、眠れない!」
安眠できるはずも無かった。それから私は意味もなくダラダラ寝転がっていたが、不意に大事なことを思い出しすぐに布団から飛び起きた。
もうひとつの日課、それは壁に飾ってある母親の似顔絵を眺めることだ。
私はその似顔絵に今感じている素直な気持ちを話した。
「母さん、……私、どうしたらいいのかなぁ?」
行き場の無い不安にかられ神にすら縋りたいほどに私は精神的に追い詰められていた。
「この感じ、母さんが亡くなった時以来かも………」

私は穏やかで気立ての良い母親とズボラでだらしない父親のひとり娘としてこの村に生まれた。
決して裕福な家庭では無かったが、優しい両親に囲まれて幸せな日々を送っていた。
私の母は、いつか自分の酒屋を持つのが夢で、父も母の夢を応援していた。
両親は店を構えるための資金を稼ぐために朝から晩まで働いていたこともあり、私は留守番をすることが多かった。正直、私は母の夢に反対だった。
けれど、そんな考え方が変わったのは母が店を開いて数ヶ月経った頃だ。
店に来る客は皆楽しそうに会話をしていて母の入れたお酒を飲むと必ず笑顔になっていたのだ。
私は未だに特別な光景として目に焼きついている。
いつか私も大きくなったら母と一緒に働きたいと思っていた。
しかし、そんな日は永遠にこなかった。
私が10歳の時、家では両親の言い争いが頻繁になり家庭環境が劣悪になり始めたのだ。ことの発端は父の金使いの荒さにあった。
酒屋の経営が上手くいきだしてから父は夜遅くに帰宅することが増えた。
自分の収入は愚か、母が苦労して稼いだお金さえも全て消えていることも珍しくはなかった。いくら母が説得しても父は決して耳を貸さなかったらしい。
それでも母は私達家族を養うため今まで以上に働き、私を大事に育ててくれた。
やがて無理がたたり母は重い病気にかかってしまった。
私は一生懸命看病したのだが、母の具合は一向に悪くなるばかり。医者を呼ぶにもお金が無く、父は母のことなどそっちのけでほとんど家にもいなかった。
まだ子供の私はどうすることもできず、ただただ苦しむ母を見守ることしか叶わなかった。
母が亡くなる前の夜、母は泣きじゃくる私の頬に優しく触れてこう言った。
「ーごめんね、貴方にまで迷惑かけて……
私のこと、恨んでる?」
弱々しい母の問いかけに答えるように私は涙を拭い首を横に振った。
「だめな母親よね……。………娘の笑顔すら守れないなんて……」
「そんなことない!お母さんは、私を守ってくれたよ?」
「ー蓮花、どうか……お父さんを許してあげてほしいの……」
「何で?お母さんが病気になったのはお父さんのせいでしょ?」
「違うわ。私が……あの人を変えてしまったの。……私の夢が実現したから」
大粒の涙を流しながら自分を責め続ける母を私は否定した。それでも母は自分を責めることを辞めようとしなかった。そして、母は私の手を握りしめると最後の気力を振り絞って声を漏らした。
「……蓮花にお願いがあるの。ーーあの人を、お父さんを解放してあげて。ーーーあの人を縛っていた私という鎖を外して…」
「……うん」
「ーそれからもう一つ。あなたに私の店を継いで欲しいの。お店が無くなったら悲しむお客さんがたくさんいると思うから」
「ーーでも私バカだからお母さんに教えてもらわないと……できないよ?」
「ふふ、そうね……」
「そうだよ!だから早く元気になってよ、ね?」
母は私の瞳をじっと見つめて最後の一言を絞り出した。
「ありがとう、蓮花。だ……い……すき……よ……」
「お母さん⁉︎ お母さん‼︎」
握っていた母の手は力無く脱力し、美しい母の瞳からは光が消える。
私は泣いた。赤子のように号泣した。自分の声が枯れ果てるまで私は何度も母の名前を呼んでいた。
親が死んでも残された者の人生は続いていく。次の日から母のいない新しい生活が始まった。
父は1週間後、家を去り私を捨てて行方を眩ませた。
父の背中を見送りながら私は幼いながらも悟ってしまった。
あの幸せな家族の時間はもう返ってこないのだと………。

「あれからもう8年、早いものよね」
母の遺言通り私は母の形見であるこの酒屋を必死に守ってきた。けれど、その役目もじきに終わる。
何故なら私は、莫大な借金を抱えているからだ。正確には私を捨てた父親の借金だが……。
直接本人から聞いたわけでは無いが、取り立て屋が契約書からうちの住所を割り当て父の居場所を尋ねるのだから認めざるをえない。
父は借金返済の期日を過ぎても姿を見せないので、とうとう子供の私にしわ寄せがきたというわけだ。当然だが子供の私に払える金額ではない。
「もし払えなかったら……」
私は取り立て屋に言われた言葉を思い出す。おそらく私は奴らの労働力として休む暇も無く働かされるのだろう。地獄のような生活に縛られ、生きる希望を身失った悲劇のヒロインに成り下がるのも悪くないかもしれない。
「悲劇のヒロイン……か」
悲劇的で哀れな自分のヒロイン像を想像してみる。笑えた。それも反吐が出るくらいに。自分でもびっくりするくらい似合わないのだから。
私と母を見捨てた父の借金のために私は暗い牢獄で汗を流しながら一生あいつらにこき使われるのか?
否、断じて否!
遥か昔に家族である関係を辞めた人間にそこまでしてやる義理など無い。
私は蓮花。自由に生きていくことを許されたひとりの人間だ。
一度しかないこの命、どう使うかは自分で決めてやる。



「明日、私はこの家を、私が愛したこの村から出て行くよ、母さん」


そう似顔絵に打ち明けると私は部屋の灯りを消した。
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