傾国の聖女

文字の大きさ
上 下
32 / 36

再会

しおりを挟む
その時、コツン、という何かが窓にぶつかる音が聞こえてきた。
なんだろう、と充希はレースのカーテンを開け、窓の外に視線を向ける。
するとそこには木の幹に腰掛けこちらに向かって石を投げる、オスカーの姿があった。

(えっ…)

ここ、4階だって聞いてるけど!?と充希は慌てて窓を開ける。
するとオスカーは手に持っていた小石を投げ捨て、幹をしっかり掴むとくるりと体勢を変え勢いをつけてこちらのバルコニーへと飛び移ってきた。

「ぎゃ、」
「待て待てっ!大声を出すなっ」

思わず叫びそうになった充希の口を、オスカーが慌てて塞ぐ。そしてそのまま室内に人がいないことを確認してから、漸く充希の口を解放してくれた。

「げほっ、……オ、オスカー、さん…っ」
「ああ悪い、強く抑えつけ過ぎたか?」
「いえ、大丈夫…です…」

本当は大丈夫ではなかったのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。
気遣うように背中をさするオスカーの手をやんわりと制止して、充希は息を整えてから突然現れたオスカーに向かって問いかける。

「どうしてこんなところから現れたんですか?外でいったい、何が起こってるんですか?」
「…………人に聞かれると不味いから、とりあえず室内に入って話そう。といっても俺がここにいるのを見られるのも良くないから、話は手短かになってしまうけど」
「それなら平気です。この部屋には誰も出入りしませんから」

充希がそう言うと、オスカーは「え?」と怪訝そうな顔をした。充希はそんなオスカーの反応を無視して、バルコニーから室内へとオスカーを招き入れる。



「……………もしかして、ここ最近サイラスも顔を見せていないのか?」

室内を一瞥して、オスカーがどことなく険しい表情でそう聞いてきた。充希は無言のまま首を縦に振る。

「サイラスも、…………ダリウスにも、暫く会っていません」
「メイドは?随分室内が雑然としている様子だが……」
「メイドさんたちは、……定期的には、来てくれていました」
「この有様でか?食べた食器も片付けていないし、なんだか埃っぽいぞ」
「あっ、それは……その、ごめんなさい、私がだらしなくて」
「もしかして、嫌がらせをされているのか?」

オスカーの的確な指摘に、何故か顔がカッと熱くなる。図星を指されると、人はどうやら赤面してしまうらしい…


「そのようだな。…まったく、職務怠慢も甚だしい。いったい誰に何を吹き込まれたのやら」
「あ、でも、えっと、ちゃんとご飯の用意も掃除もしてくれていました。部屋が汚いのは、その、私の使い方も悪くって」
「変に庇い立てする必要はない。しかし、……この状況は想定していたよりも酷いな」

様子を見に来ただけのつもりだったが…とオスカーは深刻そうな顔のままで腕組みをし、暫しあれこれ思い悩むような仕草をした末に、彼は充希に向かってこう切り出してきたのだった。


「ここから俺と逃げるか?聖女様」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

イケメン騎士の貞操を奪ったのは誰だ!ーイケメン嫌いな私と彼の密かな追いかけっこの行方

黎明まりあ
恋愛
 王宮内で1番人気騎士、王太子付き近衛騎士のエドワード。  彼は、どんな美女が告白しようとも、絶対に落ちることのない「難攻不落の騎士」としても有名だった。  様々な女性が、彼に告白するも、彼の返事はいつも同じ。 「申し訳ない、将来を誓った者が既にいるので」  気難しいと有名な王太子にも信頼され、頭脳明晰、容姿端麗、誰とは明かされていないが愛する女性はただ一人。  今や城内において、彼の人気は止まるところを知らない。  そんなある日、彼について衝撃的なウワサが城内を駆け巡る。 「あのエドワード様が純潔を奪われて、傷心しているらしい」 「しかも、相手は逃げて分からない」 「誰よ!相手は!見つけてボコボコにしてやる」  日々ヒートアップするエドワードファンに怯えながら、心当たりがあるマーガレットの臆病心からのジタバタ逃亡記とハンターエドワードの甘やかな捕獲話です 追いかけるイケメン年下近衛騎士(エドワード:22) ×逃げる主人公(王宮務め刺繍担当 マーガレット:25 ) #書くのに行き詰まり、エタりそうだったので、旧題「遅れて守られる、幸せな約束」から改題、内容も改変しています (旧題をお気に入り登録していただいた方、大変申し訳ありません) #ストックなしで書いているため、見直して不自然な表現は、随時修正します #設定上、暴力、差別表現は、予告なしで入ります #18シーンにはタイトルに※入れます #ムーンライトノベルズさんにも掲載しています

【完結】あなたは知らなくていいのです

楽歩
恋愛
無知は不幸なのか、全てを知っていたら幸せなのか  セレナ・ホフマン伯爵令嬢は3人いた王太子の婚約者候補の一人だった。しかし王太子が選んだのは、ミレーナ・アヴリル伯爵令嬢。婚約者候補ではなくなったセレナは、王太子の従弟である公爵令息の婚約者になる。誰にも関心を持たないこの令息はある日階段から落ち… え?転生者?私を非難している者たちに『ざまぁ』をする?この目がキラキラの人はいったい… でも、婚約者様。ふふ、少し『ざまぁ』とやらが、甘いのではなくて?きっと私の方が上手ですわ。 知らないからー幸せか、不幸かーそれは、セレナ・ホフマン伯爵令嬢のみぞ知る ※誤字脱字、勉強不足、名前間違いなどなど、どうか温かい目でm(_ _"m)

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

処理中です...