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侯爵家

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 「私の派閥にいらっしゃません?」

渡された花柄の名刺を見ると流行りの吟遊詩人のクサいつ言葉とレディ・ブライス伯爵令嬢と書いてある。どうしたものか、と思っていたら

「準男爵のとこの子なのよね?」

またか…、説明するのも面倒だしなぁ。エイドリアンが横から口を出す。

「この子は公爵家の子、俺の血の繋がった従姉妹。パーティで公爵夫人が連れ回ってるのがミシェル。ストロベリーブロンドのやつな、あれが準男爵どころかヒモ崩れのギャンブラーと駆け落ちした公爵夫人の姪で公爵家の居候な」



 放課後に帰宅のための馬車までエイドリアンに送られる。

「なんだ、この馬車は」

「?」

「見窄らしい」

「でも清潔だし」

「そういう問題じゃない。おい、うちの馬車の後ろについてこい」

あもうもなく私はエイドリアンの家の馬車に連れ込まれエイドリアンの家、ベアード侯爵家に着いた。

「ここで待っとけ」

私的な居間に通される。エイドリアンのお姉さんと妹さんと三人でここで淑女ごっこしたなぁ。あれのおかげでマナーを教わることなくてもなんとかなってるのが怖い。

 貴族の子女がマナーや貴族史の基礎や爵位の話を教わるのは学齢前から、らしいです。その頃の私は野猿みたいで、エイドリアンのお下がりの男の子の服で屋敷中を駆け回ってました。
 その頃から小さかったからね、私。私はミシェルが来てからお下がりしか着たことなかった。4歳のミシェルと6歳の私はもうサイズが変わりませんでした。
 ミシェルは4歳から家庭教師がついてました。そして母親はミシェルに婿を取って公爵家を継がせるとミシェルと私に言い聞かせてました。
 父親は家庭は母親に任せておけばいいと思ってたようでこの学院入学までの私の状態を認知してませんでした。
 10歳を過ぎた頃から、侯爵家に顔を出さなくなってエイドリアンたちとも叔母様とも疎遠になってました。侯爵家のお茶会は母親とミシェルが着飾って出るようになりました。帰るたびに私がどれだけ叔母さまに迷惑をかけていたか、母親がどれだけ謝罪をしなければいけなかったかを何時間も聞かされます。その日は夕飯もありません。
 そんな生活も当たり前だったので辛さとかはわかりませんでした。当たり前だったので。
 時間があれば使用人の方に簡単な料理を教わったり、屋根裏の自室の掃除を教わったり、洗濯も自分でしてました。
 屋根裏部屋は、ちゃんとしたベッドもあり中々居心地が良くて、自宅の図書室から持ち込んだ本を読んで過ごすのに丁度良かったのです。そのため、どれだけ居心地良くできるかに心を尽くしてきました。廃棄寸前のクッションとクッションカバーの綺麗なところをパッチワークして好みのクッションにしたり、やはり廃棄する毛布を裂いて三つ編みの紐を作りそれを組み合わせて敷物にしたりと楽しい生活を送っておりました、それなりに。
 私の部屋が屋根裏部屋になったのは母親も父親もミシェルも気がついてませんでした。
 元の私の部屋はミシェルの衣装部屋になってます。父親はそんなことにも気がついてませんでした。
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