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第1章:家族
第1話:孤独な少女の親になる
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「そういうことだから、あとはよろしくねぇ」
ブツッ――――。
母はそう言い残してさっさと電話を切った。俺は受話器を置くと、ソファに座って俯いている少女を見やる。
そして――――。
「どうしてこうなった」
一言呟いた。
何があったかというと、時間は今日の放課後まで遡る。
9月半ば。
ここ、千葉県にある私立早見高等学校での生徒会選挙が終了し、新生徒会が発足した。新…と言っても、生徒会長は去年から俺、 四月一日 春がやっているし、今年の一年生以外のメンバーは変わらないのだが。こういうのってどの学校も似たようなものなのだろうか。
そんなことを考えながら、生徒会室へと向かう。
すると途中で後ろから声がかかる。
「お勤めご苦労さん、生徒会長」
「……すみれ先生、たばこの箱手に持ちながら廊下歩かないでください」
彼女は 西岡すみれ、26才。現国の教師で俺のクラスである2年A組の担任。
ロングの艶やかな黒髪に、小顔でクリッとした目。スタイルも良く美人であることから一部の生徒に人気なのだが、欠点がある。
たばこがその一つ。
たばこ好きなのだがヘビーという訳ではない。ただこうして生徒の前でも遠慮なく吸うのだ。こっちとしてはたまったもんじゃない。
あといつもダルそうにしているし、面倒な仕事は全部生徒会に押し付ける。
困った教師なのだ。
「おっと、すまんすまん………今から生徒会室か?」
「ええ、先生は?」
「私はこれさ」
たばこを吸うジェスチャーをしながらそう言った。
「あ、そうですか。じゃあもう行きますね」
「なんか急に冷たくなったな………ああ、そうそう。四月一日、お前三者面談どうする。親御さん来れないなら、また二者にすることは出来るが」
「ああはい、それでお願いします。母はどうせ帰ってきませんからね」
「そうか。お前、結構苦労してんな」
すみれ先生が憐みの目で俺を見る。……なぜだ。
「いえ、そこまででは。ていうか、その目やめてください、不愉快です」
「ズバッと言い過ぎだろう……。まあいい、とにかくそういうことで、よろしく頼むぞ」
「はい、それでは、失礼します」
俺は踵を返して、今度こそ生徒会へと向かった。
用事を済ませて帰宅する。その頃にはもう日も暮れ始めていた。
家に帰るなり自室へ入り、着替えを済ませると夕食の準備を始める。
「今日は……カレーでいいか」
そう決めて料理に取り掛かろうとしたとき、インターホンが鳴り響く。一旦手を止めて玄関まで行き、扉を開ける。
「はーい、どちら様で………しょうか」
「…………」
玄関の前には一人の少女が俯きながら立っていた。不思議に思った俺はその子に問いかける。
「え~と、どうしたのかな?」
「…………」
「……何か、用事があって訪ねてきたんだよね?」
「…………」
「……えっと、お名前は、なんていうのかな?」
「……六花。 佐々木 六花」
「六花ちゃんか、可愛い名前だね。……それで、何か用があるのかな?」
少女、六花に改めて聞くと、ポツポツとしゃべり始めた。
「…… 夏美さんに、ここに行けって、言われたの」
「夏美…四月一日夏美?」
「うん……。ここに来れば、はるがどうにかしてくれるって」
「………どうにかって、どういうこと?」
「………?」
コテンッと首をかしげた六花。可愛いんだけど………じゃなくて。
どうやらこの子は、俺の母親である四月一日夏美が関わっているらしい。ならばこの子より、母さんに直接聞いた方が早そうだ。
そう判断した俺は、とりあえず六花に家に上がってもらうことにした。
「えっと、六花ちゃん。一先ず、うちに上がってもらっていいかな? ちょっとクソバ……母さんに聞いてみるから、ね」
「……お邪魔、します」
素直に従ってくれた六花に、一先ず安堵する。あとは母さんから事情を説明してもらって、後のことはそれからだろう。
「じゃあ、その辺にでも座って待っててくれるかな」
「うん……」
六花が座ったのを確認して、俺は電話の受話器を取って母さんに電話を掛けた。母さんは意外にもすぐに出てきた。
「もしもし?」
「もしもし、母さん? 俺だけど」
「俺俺詐欺かしら。だったら警察に通報するわよ」
「なんでそうなる。家の番号くらい登録してあるだろうが」
「冗談よ。それで、あの子はもう家に着いたのよね」
「ああ、今しがた。……なんなんだ、あの子」
俺が聞くと、母さんは少し溜めた後、真剣な声音で説明する。
「実はその子、六花はご両親と一緒に、8月末まで一緒にアメリカで暮らしていたのだけど、そのご両親が離婚しちゃってね。それで、二人とも六花を引き取れる余裕が無くて、元々二人と知り合いだった私のところに頼みに来たのよ。娘をお願いしますってね。どうも親戚にも頼れないらしくて。簡単に言うと、要らないからって突っぱねられたらしいの」
「…………。それで?」
「けど知っての通り、私は仕事が忙しくてそっちに帰ることがまずないし、こっちでも同様だから、結局六花を一人にしてしまうでしょう。だから、あなたに託そうと決めて、六花を行かせたわけ。理解した?」
………予想以上に重い話だったことは理解した。そして母さんの言い分がもっともであることも。
ただ―――。
「そんな大事な話、なんでもっと前もって話せなかったの」
「言ったでしょう、忙しすぎるって。話す余裕もないのよ」
「はぁ、まったく。そんで、託すってのは具体的にどういうこと?」
「全てよ。その子の住民登録から苗字変更の手続きに小学校の転校手続きとか、何から何まで全部よ」
「―――――。ごめんちょっと待って。苗字変更って言った?」
「ええ、言ったわよ」
「…………、何に」
「四月一日に、よ」
「……家族、俺の妹になるってこと?」
「そうね、けどもう一つ加えると、父親でもあるわね。あなたがその子を育てるんだもの」
「マジっすか母上」
「マジっすよ息子」
…………マジで? 親? 俺が? まだ学生なのにどうしろっていうんだ。
困惑する中、母さんは尚も続ける。
「六花は今日からうちの家族で、あなたの妹兼娘。しっかりやんなさいよ」
「マジでそれ俺のセリフのはずなんだが? てか俺も学校とかあんのにどうやっ……」
「そういうことだから、あとはよろしくねぇ」
そう言い残して電話を切ったところで、冒頭に戻るわけだが……。
ソファに俯きながら座っている六花を改めて見る。
身長はおそらく130あるかどうか。顔もまだ幼さがあるし、年齢は10才前後だろうか。セミロングの綺麗でサラッとした銀髪に、宝石のような碧眼。
色をベースにしたワンピースの上にピンクのカーディガンを着ていて、髪の後ろには赤いリボンを結んでいるからか、より彼女を可愛らしく引き立てる。
―――お人形さんみたいっていうの、こういう子に当てはまるんだろうな。
なんて思ったところで、こちらの会話が終わったのを悟ったのか、六花がこちらを見た。
「……六花ちゃんは、これからの事って聞いているのかな」
「うん。わたぬき家の家族になるって、夏美さんから聞いた」
「そっか………、六花ちゃんは、それでいいの?」
「…………うん、他に行く場所、無いから」
「これからこっちで不慣れなこと、いっぱいやらなくちゃいけなくなる。それでも?」
「うん」
「いきなり会ったばかりの俺と、一緒に暮らさなきゃいけなくなるよ?」
「……いい。怖い人じゃないの、何となくわかる、から」
それを聞いて俺は少し驚く。そういうのって、結構時間を掛けないと分からない人の方が多いから。この子は人を見る目があるんだろう。まあ、俺がどれくらい優しいかなんて、俺にもわからないけど。
「そう、わかったよ。じゃあ………六花、今日からよろしく。俺は春。季節の春ッて字を書くんだ」
「春………素敵な名前」
「はは、ありがとう。さて……と。じゃあそうと決まれば、まずは六花の部屋を用意しなくちゃね」
「部屋? いいの?」
「言いも何も、もう家族なんだから。遠慮何てしなくていいからね」
「―――――」
六花は驚いた表情をしながら固まった。俺何か気に障るようなこと言っただろうか、そんな心配をしたが、どうやら杞憂だったようで。
「春お兄ちゃん、これから、よろしくお願いします」
六花はほんの少しだけ微笑んで、そう言った。
ブツッ――――。
母はそう言い残してさっさと電話を切った。俺は受話器を置くと、ソファに座って俯いている少女を見やる。
そして――――。
「どうしてこうなった」
一言呟いた。
何があったかというと、時間は今日の放課後まで遡る。
9月半ば。
ここ、千葉県にある私立早見高等学校での生徒会選挙が終了し、新生徒会が発足した。新…と言っても、生徒会長は去年から俺、 四月一日 春がやっているし、今年の一年生以外のメンバーは変わらないのだが。こういうのってどの学校も似たようなものなのだろうか。
そんなことを考えながら、生徒会室へと向かう。
すると途中で後ろから声がかかる。
「お勤めご苦労さん、生徒会長」
「……すみれ先生、たばこの箱手に持ちながら廊下歩かないでください」
彼女は 西岡すみれ、26才。現国の教師で俺のクラスである2年A組の担任。
ロングの艶やかな黒髪に、小顔でクリッとした目。スタイルも良く美人であることから一部の生徒に人気なのだが、欠点がある。
たばこがその一つ。
たばこ好きなのだがヘビーという訳ではない。ただこうして生徒の前でも遠慮なく吸うのだ。こっちとしてはたまったもんじゃない。
あといつもダルそうにしているし、面倒な仕事は全部生徒会に押し付ける。
困った教師なのだ。
「おっと、すまんすまん………今から生徒会室か?」
「ええ、先生は?」
「私はこれさ」
たばこを吸うジェスチャーをしながらそう言った。
「あ、そうですか。じゃあもう行きますね」
「なんか急に冷たくなったな………ああ、そうそう。四月一日、お前三者面談どうする。親御さん来れないなら、また二者にすることは出来るが」
「ああはい、それでお願いします。母はどうせ帰ってきませんからね」
「そうか。お前、結構苦労してんな」
すみれ先生が憐みの目で俺を見る。……なぜだ。
「いえ、そこまででは。ていうか、その目やめてください、不愉快です」
「ズバッと言い過ぎだろう……。まあいい、とにかくそういうことで、よろしく頼むぞ」
「はい、それでは、失礼します」
俺は踵を返して、今度こそ生徒会へと向かった。
用事を済ませて帰宅する。その頃にはもう日も暮れ始めていた。
家に帰るなり自室へ入り、着替えを済ませると夕食の準備を始める。
「今日は……カレーでいいか」
そう決めて料理に取り掛かろうとしたとき、インターホンが鳴り響く。一旦手を止めて玄関まで行き、扉を開ける。
「はーい、どちら様で………しょうか」
「…………」
玄関の前には一人の少女が俯きながら立っていた。不思議に思った俺はその子に問いかける。
「え~と、どうしたのかな?」
「…………」
「……何か、用事があって訪ねてきたんだよね?」
「…………」
「……えっと、お名前は、なんていうのかな?」
「……六花。 佐々木 六花」
「六花ちゃんか、可愛い名前だね。……それで、何か用があるのかな?」
少女、六花に改めて聞くと、ポツポツとしゃべり始めた。
「…… 夏美さんに、ここに行けって、言われたの」
「夏美…四月一日夏美?」
「うん……。ここに来れば、はるがどうにかしてくれるって」
「………どうにかって、どういうこと?」
「………?」
コテンッと首をかしげた六花。可愛いんだけど………じゃなくて。
どうやらこの子は、俺の母親である四月一日夏美が関わっているらしい。ならばこの子より、母さんに直接聞いた方が早そうだ。
そう判断した俺は、とりあえず六花に家に上がってもらうことにした。
「えっと、六花ちゃん。一先ず、うちに上がってもらっていいかな? ちょっとクソバ……母さんに聞いてみるから、ね」
「……お邪魔、します」
素直に従ってくれた六花に、一先ず安堵する。あとは母さんから事情を説明してもらって、後のことはそれからだろう。
「じゃあ、その辺にでも座って待っててくれるかな」
「うん……」
六花が座ったのを確認して、俺は電話の受話器を取って母さんに電話を掛けた。母さんは意外にもすぐに出てきた。
「もしもし?」
「もしもし、母さん? 俺だけど」
「俺俺詐欺かしら。だったら警察に通報するわよ」
「なんでそうなる。家の番号くらい登録してあるだろうが」
「冗談よ。それで、あの子はもう家に着いたのよね」
「ああ、今しがた。……なんなんだ、あの子」
俺が聞くと、母さんは少し溜めた後、真剣な声音で説明する。
「実はその子、六花はご両親と一緒に、8月末まで一緒にアメリカで暮らしていたのだけど、そのご両親が離婚しちゃってね。それで、二人とも六花を引き取れる余裕が無くて、元々二人と知り合いだった私のところに頼みに来たのよ。娘をお願いしますってね。どうも親戚にも頼れないらしくて。簡単に言うと、要らないからって突っぱねられたらしいの」
「…………。それで?」
「けど知っての通り、私は仕事が忙しくてそっちに帰ることがまずないし、こっちでも同様だから、結局六花を一人にしてしまうでしょう。だから、あなたに託そうと決めて、六花を行かせたわけ。理解した?」
………予想以上に重い話だったことは理解した。そして母さんの言い分がもっともであることも。
ただ―――。
「そんな大事な話、なんでもっと前もって話せなかったの」
「言ったでしょう、忙しすぎるって。話す余裕もないのよ」
「はぁ、まったく。そんで、託すってのは具体的にどういうこと?」
「全てよ。その子の住民登録から苗字変更の手続きに小学校の転校手続きとか、何から何まで全部よ」
「―――――。ごめんちょっと待って。苗字変更って言った?」
「ええ、言ったわよ」
「…………、何に」
「四月一日に、よ」
「……家族、俺の妹になるってこと?」
「そうね、けどもう一つ加えると、父親でもあるわね。あなたがその子を育てるんだもの」
「マジっすか母上」
「マジっすよ息子」
…………マジで? 親? 俺が? まだ学生なのにどうしろっていうんだ。
困惑する中、母さんは尚も続ける。
「六花は今日からうちの家族で、あなたの妹兼娘。しっかりやんなさいよ」
「マジでそれ俺のセリフのはずなんだが? てか俺も学校とかあんのにどうやっ……」
「そういうことだから、あとはよろしくねぇ」
そう言い残して電話を切ったところで、冒頭に戻るわけだが……。
ソファに俯きながら座っている六花を改めて見る。
身長はおそらく130あるかどうか。顔もまだ幼さがあるし、年齢は10才前後だろうか。セミロングの綺麗でサラッとした銀髪に、宝石のような碧眼。
色をベースにしたワンピースの上にピンクのカーディガンを着ていて、髪の後ろには赤いリボンを結んでいるからか、より彼女を可愛らしく引き立てる。
―――お人形さんみたいっていうの、こういう子に当てはまるんだろうな。
なんて思ったところで、こちらの会話が終わったのを悟ったのか、六花がこちらを見た。
「……六花ちゃんは、これからの事って聞いているのかな」
「うん。わたぬき家の家族になるって、夏美さんから聞いた」
「そっか………、六花ちゃんは、それでいいの?」
「…………うん、他に行く場所、無いから」
「これからこっちで不慣れなこと、いっぱいやらなくちゃいけなくなる。それでも?」
「うん」
「いきなり会ったばかりの俺と、一緒に暮らさなきゃいけなくなるよ?」
「……いい。怖い人じゃないの、何となくわかる、から」
それを聞いて俺は少し驚く。そういうのって、結構時間を掛けないと分からない人の方が多いから。この子は人を見る目があるんだろう。まあ、俺がどれくらい優しいかなんて、俺にもわからないけど。
「そう、わかったよ。じゃあ………六花、今日からよろしく。俺は春。季節の春ッて字を書くんだ」
「春………素敵な名前」
「はは、ありがとう。さて……と。じゃあそうと決まれば、まずは六花の部屋を用意しなくちゃね」
「部屋? いいの?」
「言いも何も、もう家族なんだから。遠慮何てしなくていいからね」
「―――――」
六花は驚いた表情をしながら固まった。俺何か気に障るようなこと言っただろうか、そんな心配をしたが、どうやら杞憂だったようで。
「春お兄ちゃん、これから、よろしくお願いします」
六花はほんの少しだけ微笑んで、そう言った。
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