23 / 31
山狼族
ユラ2〜ラウ1
しおりを挟むこうしてオレとウル、そしてラウの、サンとの生活が始まったんだが・・・
最初にオレたちの関係性をはっきりとさせておこう。
オレとウルは前世のラウの魂が半分ずつ入ってはいるが、別人格の一個人。
だが、精霊と契約者は二人で一人のようなもの。完全憑依して今世のラウになると、ユラとウルの記憶も丸ごと引き継ぐのだから。
つまりラウはユラでありウルである。
完全憑依を解いてユラとウルに戻ってもラウとしての記憶は残る。そう、この三人は文字通り一心同体なんだ。
そして、サンの魂の番はラウ。
だから、いずれ体を繋げる時が来たらサンを抱くのはラウだ。サンはユラもウルも大好きで、キスやハグは当たり前のようにしてくるが、一線を超えるのはラウとだけだろう。
それはオレもウルも暗黙の了解で、お互いに何の不満もない。
だって、二人ともラウになれはサンを抱けるのだから。
あの運命の出会いの後、初めは毎週末に完全憑依して山まで飛んで行く日々だった。ウルも本心では山でサンと暮らしたかっただろうが、オレに付き合って週の五日は我慢してくれた。
月に一度はトールの一家も山に来るので、ルンもウルや他の犬科動物の精霊に会えて嬉しそうだ。
そうして数ヶ月経った頃、魔王様に謁見する事になったんだ。両親が犬科動物の精霊の件を魔王様に報告したら、詳細を聞きたいって事で。
山の民は独立した民族なので、魔王様が介入する権利はないんだが、ウルと契約したオレがしばらく街に住むからね。
ライオンを契約精霊に持つ魔王様は、目を見張るくらいの超絶美形の男性。けれど、気さくで優しいお方だった。
山狼族の事を聞かれたので、長から聞いた話をする。口止めされているわけではないので、衛生観念に優れている話もすると、えらく感動された。
その後魔王様は、オレとウルに悪意がない事を確かめ、犬科動物の精霊界と繋がる道はサンの山の一ヶ所だけだと知ると、なんと瞬間移動の方法を教えてくださった。
「ユラのままでは厳しくても、完全憑依してラウとなれば魔力も増えるから大丈夫だろう。これは有益な話を聞かせてくれた礼だ」っておっしゃったんだ。
瞬間移動は、一度行った場所になら一瞬で移動出来る。これで山と街の行き来が自由自在になり、本当に助かった。それまでは、オレが成人後完全に山に移り住む事に対して難色を示していた両親も、一瞬で帰って来れるなら、とやっと認めてくれたんだ。
魔王様には本当に感謝しかない。
こうして十五歳までの三年間は街と山を行き来しながら過ごし、成人してからは山で三年、長の下で次代の長としての勉強の日々。
山の民は基本的に放浪民族で、山から山へ渡り歩く集団の総称だ。けれど、サンのこの山は放浪民族の拠点のような場所になっていて、この場所に定住している者も多い。
そして長はこの拠点を守る存在。
基本的には、放浪がキツくなった老人や怪我人や病人が多いが「他の山を渡り歩いたがこの山が一番いい」という者も結構居る。
それに加え、この世界で犬科動物の精霊と契約出来る唯一の場所となったので、子どもが小さい間はここで暮らすという家族も増えた。
だからオレはこの場所を、サンの本体であるこの山を、山の民の故郷として根付かせようと心に決めたんだ。
そして今日・・・
「ユラ!ウル!」
サンがオレたちを呼んでいる。
十五歳で山に移り住んでから三年が経ち、オレは十八歳になった。サンと並んでも、もう歳下には見られない。背も伸びたから背伸びしなくてもキスが出来るし、手を背に回せばすっぽりとサンが入る。
オレは胸を張ってサンの下へと歩いて行く。ウルも嬉しそうにオレの横で浮いている。
今日は、オレが長を引き継ぐ日。
そして「山の民」という名称も「山狼族」に変わる日となる。
読み方は「さんろうぞく」。オレが考えたんだ。
「サン」の名が入っているし「ろう」も「ラウ」と「ウル」が混じっているみたいでいい。ユラは入ってないけど、サンと狼で充分だ。オレはラウでもあるしね。
「山狼族」
山の民よりいいと思わない?
今宵は満月。
月に一度の宴の日。
日が沈み月が夜空に輝く中で、
オレは前の長から長の座を拝受した。
その後は堅苦しい古い慣わしなんかいらない。
みんなひたすら楽しめばいい。
何かに没頭してトランス状態になり、山とシンクロすれば山(神)と繋がれる。
契約精霊がいる者は完全憑依をし、決まった相手がいるならば、相手のすべてを受け入れるべく体を繋げる。そうすればさらに山とシンクロしやすくなる。
それが山狼族の満月の夜の儀式だ。
オレも完全憑依し、ラウとなっている。
ラウは、成長し立派な美丈夫となったユラの姿をベースに、狼の耳と尻尾、そして白銀の翼を持つ獣人だ。
オレはラウだが、ユラとウルの記憶もある。つまりユラもウルもオレなんだ。
さて、今日はついにサンと体を繋げる日。
サンと再会してからもう六年。何もしなかったとは言わない。しないわけがない。
けど、最後の一線は超えなかった。
オレが不安定なままでサンと完全に繋がるのは、サンに負担をかけると思ったから。
サンは山で、みんなの心を受け入れている。それは山狼族からの一方的な祈りで・・・山を、サンを讃美し、そして自分の願いを押し付ける。そんな行為。
でもそれはサンの糧となる。
けれどオレがそれと同じでは駄目なんだ。
オレはサンと対等でいたい。いや、サンに甘えられるような存在になりたい。
一方的な思いではなく、愛し愛され、その感情に自信を持って・・・
生まれ変わったラウとして、山の神として祈りを糧として生きるサンの、唯一対等な存在となるんだ。
でないと、完全にオレとシンクロしたサンが心から安らげないから。
だから、オレがサンを抱きしめたら、腕の中にすっぽりと収まるくらい大きくなって。
見た目にも釣り合うくらいの外見になって。
そして、山の民改め山狼族の長となり、山のすべてを網羅する魔力と力をも手に入れて。
今日、初めてオレは、自分がサンの横に立つ男である事を認めたんだ。
自分で自分を認めるまでは我慢する。
オレの自分勝手な自己満足にサンも付き合ってくれた。
そして今日・・・
ーーーーーーーーー
な、長かった・・・やっとイチャエロが書けます!
ルコ
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました
くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。
特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。
毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。
そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。
無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる