【完結】狼の求愛は山に届く

ルコ

文字の大きさ
上 下
7 / 31
月が見ていた

2

しおりを挟む

 それからの僕は、山の神として力を使いこなせるよう全力で勤しんだ。

最初は何をしたらいいのか全く分からなかったけれど・・・まずはサンの姿を消し、100%山となって僕(山)を俯瞰してみたんだ。それによって、山では毎日当たり前に行われている、食物連鎖という生物種間の関係を、改めて考えてみた。

生き物として弱い個体が強い個体に餌として食べられる。自然の世界では至極当然の事だ。

でもそれは、捕食する側とされる側では、見え方が全く違う。番や子どもを食われ嘆く動物が居ると同時に、逆の立場から見れば「山の恵みに感謝」となる。

あのワイバーンの群れだって、腹を満たす分の狩りをするのなら、何の問題もなかった。

必要以上の狩りをしなければ、狼の群れが立ち向かう事もなかった。

そう、ラウが死ぬ事もなかったんだ。

 色々と考えてしまうけど、あの時のような過剰な殺戮以外には目を瞑る。

けど、僕の中で生きている種が絶滅してしまいそうな時には、その種が天敵の目から逸れるよう、生き残れるよう、力を使った。

 最初はそんな些細な事への対応すら出来なかった僕。だって、月は僕に力がある事は教えてくれたけど、実際にどうしたらいいのかは何も言ってくれなかったから。


あの日以来、いくら眺めても月は答えてくれない。


 だから僕は独りでひたすら考え、まずは「山」として僕の中で生きるもの全てに目を向けた。そして彼らを改めて全部受け入れたんだ。

結果的には、そうする事によってありとあらゆる生命体から少しずつ力をもらえる事に気付いた。つまり、動物の満腹感や、根から水を吸い上げ光合成をする植物の喜び、そして魔族の山への信仰心など、山への感謝の気持ちが僕の力となるって事に。

もちろん僕を恨む声もある。当然だ。捕食される側からしたら「山の神様は我らを守ってくれなかった」んだから。
けど、そんな事を考えるのは魔族か、一部の知能の高い魔獣や魔鳥だけ。
大多数の生き物にはそこまでの知能はない。

そしてそこまで知能が高い生き物は、自然の摂理も充分に理解しており、いくら僕を恨んでも、最終的には仕方がない事だと分かってくれる。

 実は今までだって、無意識にそうやってみんなから力をもらっていたみたいなんだよね。じゃないと僕が意思を持つ山になれるはずがない。

みんなの山への感謝の気持ちから僕(山の意思)が生まれた。様々な形で届くその思いは僕に考える力を与え、いつしか人型に具現化までさせた。そして、ラウに出会い、ラウからのまっすぐな愛情が「僕」を一個体として存在させる拠り所となった。そこからさらに、名付けによって「サン」が完全に実体化されたんだ。

 なのに、サンとなった僕はラウの事しか考えてなくて・・・みんなからもらった力を「サン」という一個体になる為だけに使っていた。言い訳をするなら、みんなから力をもらってるなんて、思ってもみなかったからなんだけど・・・

・・・僕はやっと悟ったんだ。

僕は「山」としてみんなに感謝しなきゃならない。力をくれたみんなが住みやすい場所になる為に・・・


 それからの僕は、力を使いこなそうと必死だった。最初はもちろんサンの姿なんて保っていられなくて、100%山となり全力で力を振るう。

山への脅威になりそうな魔獣や魔鳥を弾くのには、かなりの力を消費し、再びサンの姿に戻るまで一カ月くらいかかってしまった。

それでもしばらくすると、僕の力もある程度は安定し、僕の中で生きている種が絶滅してしまいそうな時には、サンのままでも力を使って保護をする事も出来るようになった。

まずは狼だ。

あの悲劇の後、生き残った狼は三匹の子どもと、その子らを守っていた雌狼だけ。その後、三匹の子が成長するまで、雌狼は必死で頑張った。

ラウの兄弟の子どもたち。

もちろん僕も全力でサポートした。

まだ赤ちゃんな狼の子を狙う生き物は、無限といっていいほどに存在した。
そんなヤツらを狼の子たちから遠ざける。

狼の巣の周りには、他の生き物が入り込めないよう結界のようなものを張った。最初はそれも酷く不安定で、日に数回張り直さなければ保持出来なかった。けど
今ではそれも安定し、数ヶ月に一度修正するだけでいい。

隣の山から凶暴な熊が入り込んだ時には、山としてそれを弾いた。これは狼の子の為だけでなく、ワイバーンの時のようにならないよう、山として自衛したんだけどね。

もう、過剰な殺戮による悲劇はごめんだから。


 そうこうしているうちに、ラウがいなくなって二年が経った。

三匹の狼の子は立派は大人の狼に成長している。

僕はサンとして狼たちの前に姿を現し問いかけてみる。

「君たちはどうしたい?」

もちろんラウのように明確な言葉が返って来るわけじゃない。

けれど狼の子たちは、必死になって僕に自分の気持ちを伝えてくれたんだ。

 まず一匹目の雄狼は「番を探す為に山を出る」と。

二匹目の雌狼も同じだ。

前はいくつかあった狼の群れも、今この山にはない。あのワイバーンとの死闘の際に、危険を察知して出て行ったんだ。だから番を探すなら山を出なきゃならない。

けど三匹目の雌狼は「母の雌狼とここに残る」という選択をした。

嬉しかったな。

だって、僕の中にラウと血が繋がった狼が居るって事実だけで・・・ラウが生きていた証拠を常に感じていられるんだから・・・


ーーーーーーーー

 お読みいただきありがとうございます。明日も数話連続投稿の予定です。

ルコ
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

ヒロイン効果は逃れられない

Guidepost
BL
平高 弘斗(ひらたか ひろと)は営業職のごく普通のサラリーマン。 ある日交通事故に遭い、目が覚めるとフィンリー・シューリスという5歳の少年になっていた。 しかも、その世界は妹に散々聞かされていた乙女ゲー厶の世界。 その世界でフィンリーの立ち位置は──── (R指定の話には話数の後に※印)

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

処理中です...