【完結】狼の求愛は山に届く

ワイバーンとの死闘

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　狼とワイバーンの戦闘シーンがあります。そこまで過激な表現ではないつもりですが、流血、動物が死ぬ場面等、苦手な方はご自衛ください(人や魔族は出て来ません)。

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　それからラウと僕はずっと一緒に居た。　

まだ幼い僕たちのおままごとのような生活。

二人だけの世界は幸せ過ぎて、僕はずっと夢見心地だった。君と僕だけで完結する世界・・・それは「僕」の理想の世界で・・・・・・

この世界が終わるなんて考えもしなかった。いや、考えようとしなかったんだ。

けど、終わりはすぐにやって来て・・・


　ある朝、渡り鳥ならぬ渡りワイバーン五匹の群れが、僕の中に降り立った。　
どうやらまだ若い夫婦とその子どもたちのようだ。
永住の地を求めるワイバーンたちは、おそらくこの先の沼地を目指していたんだろう。その手前で腹を満たすべく、僕の中で狩りをし始めたんだ。

必要最低限の狩りなら誰も咎めはしない。それは自然の摂理だから。だが、ワイバーンは魔獣の中でも殺戮を好む種族だ。あっという間に、結構な数の動物が犠牲となった。

・・・僕は何も出来なかった。

僕には意思や感情があって、今では「サン」という実体まであるけど、だからといって物理的に強いわけでも、魔法が使えるわけでもない。

神と崇められているというのに。

神なら山の自然を操って攻撃とか出来そうなのに・・・

どうすればいいか分からなかった。

何とかやってみようとはしたけれど・・・

どうにもならなかった。


　そんな中、ワイバーンの群れに立ち向かったのは、僕の中の頂点である狼の群れだった。長の雄狼(ラウの父)は、群れを率いてワイバーンたちに果敢に立ち向かう。

だが狼の群れは十二匹で、その内の三匹はまだ赤ちゃん。一匹は赤ちゃんを守るために動けず、戦えるのは八匹だ。

その八匹で自分たちより大きく、空からも攻撃出来るワイバーン五匹を相手にするのは分が悪すぎる。

連携して一匹ずつ倒すのが精一杯。

なんとかワイバーンの子ども一匹を倒したようだが、狼もすでに三匹倒れていた。

それを知ったラウは、当たり前のように古巣の群れに合流し、ワイバーンの群れに立ち向かう。

泣きながら止める僕に微笑み、

『サン、大好きだよ。今もこれからもずっと・・・』

そう言って・・・


　ラウは普通の狼よりも格段に頭がいい。それを分かっている長は指揮をラウに任せた。ラウは的確に五匹から群れのボスである雄の個体を見極め、その一匹に集中攻撃を仕掛けた。

狼は群れで狩りをする。ボスが地上に降りた瞬間、ラウが前にまわり込み、長とその番(ラウの母)がボスの後ろから追い立てる。ボスはラウに狙いをさだめ、鋭い爪を振り下ろそうとするが長に背中を、番に尻尾を噛みつかれ思わずのけぞってしまった。

「グギャー！！！」

ボスの悲鳴とも雄叫びともつかない鳴き声が山にこだまする。

その瞬間、おもいっきり跳躍し、喉元に躊躇なく喰らいつくラウ。暴れるボスに振り回され、爪で引き裂かれても離れず、喉元の肉を食い千切る。ラウが地面に落ちると同時にボスの首から血が吹き出した。

「グッ、グギャ・・・」

ラウは食いちぎった肉を口から吐き出し、自分も血塗れになりながら再度ボスの懐へと飛び込む。

ボスは空へと逃げようとしたが、長が背中に番が尻尾に噛みついているので飛び立てない。

それに気づいたボス嫁のワイバーンが助けようとするも、ラウの兄弟がその行く手を阻んでいる。

他の兄弟とその番たちは二匹のワイバーンの子どもを引き付け、それぞれ逃げ回っているが、すでに倒された狼が地面に横たわっているのも見える。

「グ・・・グギャ・・・」

　だが、その間にラウがボスを仕留めた。

ボス嫁は、怒り狂って自分にまとわりつくラウの兄弟たちを惨殺し、まだボスの尻尾に噛み付いたままの長とその番に向かって爪を振り下ろす。

満身創痍のラウはボス嫁には向かわず、二匹残った子どもワイバーンの小さい方に狙いを定めたようだ。

兄弟たちに声をかけ、残った狼全員で小さい弟ワイバーンに向かって行った。

それを見たボス嫁は、長とその番にとどめを刺し、空へと舞い上がり子どもたちに向かって何か叫んだ。

「グギャッ！ググ、グギャグギャー！！」

兄ワイバーンが弟ワイバーンにまとわりつくラウの兄弟狼を切り裂き、二匹も空へと舞い上がる。

どうやらボス嫁は、これ以上子どもを亡くすのを良しとしなかったようだ。ボスの亡骸をジッと見つめた後、沼地の方向へと飛び立って行った。