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しおりを挟む「えっとですね。こう」
ペタペタとベル先輩の胸元を触る。
「……あれ?」
べったりと抱きついて頬を押しつけてみた。
どくどくと少し早い鼓動が聞こえる。
でも、さっきみたいな感覚は無くなってしまった。
「わかんなくなっちゃいました」
見上げた先のベル先輩が苦しそうに眉を顰めて僕を見つめる。
「ごめん。やっぱり、ちょっとだけ」
何が?
と、聞く間も無く唇を塞がれた。
「ん、う」
息をするのもやっとなほど吸いつかれ、勢いに支えきれずベッドに倒れこむ。
「最後まではやらないから……だめ?」
「最後って」
「ここに」
と、僕のお尻を撫でた。
びくり、と体が跳ねる。
「ここに、俺のを入れて気持ちよくなるんだよ」
寝巻きの上からお尻の割れ目をたどり、指で押す。
そこに入れられるようなところなんて。
「途中までだから。慣らすだけだから。ね?」
「…………」
何をどうするのか。
怖いのと興味でベル先輩を見つめた。
無言を肯定ととられたのか、再び口付けが始まる。
何がきっかけになったのかはさっぱりだけど、ベル先輩がここではしないって言ったことを無かったことにしたのはわかった。
シャツの裾を捲られて晒された脇腹にベル先輩の舌が這う。
時々強く吸われその度に腰に甘い痺れを感じてびくびくと震えた。
下着ごと、下衣を脱がされて急に外気に触れた肌が一瞬泡立った。
唇は僕のお腹を濡らしながら下半身へ向かっていく。
「少し濃くなった?」
指先で撫でながらそう言うのは僕のあそこの周りに生えている毛のことだ。
最近、読むようになった物の本には陰毛と称されていた。
そんなもの、意識しているわけもないのでわからない、と首を振って答える。
いつも後ろからされてるから正面からこんなふうに観察されるのはとんでもなく恥ずかしい。
閉じてしまいたくなる脚を踏ん張り、口を押さえて変な声が出ないようにするのが精一杯だ。
唐突に、ベル先輩が僕の股の間に頭を埋める。
悲鳴をあげそうになって口を押さえていて本当によかったと思った。
あろうことかベル先輩は僕のあの、あれに口をつけたのだ。
医学書の体裁をとった大衆向けの猥雑な本に陰茎と書かれていたあれ。
まだ柔らかい僕のものを指で作った輪で皮を上下させる。
同時に先端の窪みに舌を押し込んだり、膨らんだ部分を口の中に含んでは出して飴を舐めるように舌で転がす。
そんなことするって言ってなかったのに。
お尻。お尻はどうしたんだ。
何をされているのだろう。
見ることもできず、感覚だけが敏感にベル先輩の舌と指の動きを追う。
あたたかく湿った口の中に勃ちあがりかけた僕のものが飲み込まれていく。
ピチャピチャと、聞きたくなくても恥ずかしい音が耳に入った。
僕の手は二本しかなくて口を塞げばそれで足りなくなってしまう。
上がる息と間近に迫る頂点に、僅かに残った理性が僕に危険を知らせた。
このままだとベル先輩の口の中に。
「だっ、め」
口を塞いでいた手を離し、ベル先輩の髪を掴んだ。
引っ張るわけにもいかず頭ごと抱えるようにしたところで、強く吸われて僕は達してしまった。
内腿に力が入り腹が震える。噛み締めた唇から血の味がした。
ベル先輩は口を拭っている。
間に合わなかったんだ。
力の抜けた体でベッドに転がり、申し訳なさで先輩の顔を見れなくて顔を覆う。
赤ん坊のように体を丸めた僕に覆い被さるようにしてベル先輩が言った。
「ごめんね。でも、もうちょっとさせて?」
「何、を?」
疑問に思う間も無く、ころりとひっくり返された。驚いて起きあがろうとする僕を押さえて「痛くしないから」と笑うベル先輩。
大人しくなった僕を褒めるように微笑んで、どこからか取り出した小瓶の蓋を口で開け、中の液体を手のひらに落とし僕のお尻に塗りつける。
「冷たっ」
思わずすくめた脚を片手でひとまとめにされお尻を持ち上げる。そこへ塗り広げられた液体ごとお尻の穴に指が。
指がお尻の穴に!
「ベル先輩、まっ」
待って欲しい。
という言葉はベル先輩の口の中に飲み込まれ、舌で押し返すように封じ込められた。
その間にも先輩の指が僕のお尻の穴の中でぐりぐりと動き回る。ぐるりと縁を広げて回り、繰り返し抜き差しされる指。
気持ちが悪いのに腰が揺れる。
先輩の指をもっと奥まで飲み込もうとするみたいに。
二本目の指が奥の方を優しく引っ掻いた。
びりびりと、電流が流れたかのような痺れが背中を駆け抜ける。
手を伸ばして先輩のシャツの袖を掴んだ。
そうしないと、どこかに落ちていってしまいそうだった。
実際、僕は意識を飛ばして、そのまま深い眠りの穴に落ちていった。
***
耳元で風が鳴る。
カポカポと土を蹴り走る馬の背中は上下に揺れて僕のお尻を不快にさせた。
「もっとゆっくり走ろうか?」
僕の後ろで手綱を握るベル先輩が機嫌を取るようにそう言った。
「そうですね。その方がいいかもしれません。お尻の具合が悪いんで」
不機嫌に唇をとがらせた僕に苦笑いで手綱を操り、速度を緩める。
後ろから別の馬の蹄の音が迫ってきた。
「先に行くね」
と、追い越し様に声をかけてきたのはエルマ様とアヒムだ。
アヒムはまだ十歳なのに一人で馬に乗れる。
二人の繰る馬が二頭、森の中を駆け抜けていくのを見送った。
ベル先輩があんなことをしなければ、僕たちも颯爽と馬を走らせて飛ぶような風景を楽しめたはずだった。
僕は馬に乗れないから馬を走らせるのはベル先輩なんだけど。
鹿毛の馬は歩くみたいにゆっくりと走る。揺れのない馬上で痛いわけではないけれど、指の感触が残るお尻がなんだかむずむずする。
八つ当たりをするように、ベル先輩の胸元に頭を強く押し付けた。
朝の課題をお休みして、約束通りやってきた遠乗りの目的地は湖のそばの別荘だ。
子爵領にいた二年間、領主館周辺から離れたことのない僕だ。
街道以外の子爵領の風景を見るのは初めてと言ってもいいくらい。
森を抜けた先が花畑なことも、遠くに見える北の山脈には夏でも雪が残っていることも、小さな湖があることも、その近くに子爵家所有の別荘があることも知らないでいた。
先に湖に着いていた二人はすでに敷布を広げ木陰で涼んでいた。
追いついた僕とベル先輩は馬に水を飲ませ、近くの木に馬を繋ぎ休ませる。
その間に、別荘の管理人夫婦が運んだ軽食が敷布の上に並べられていた。
風に揺れる柳の枝が、垂れ落ちた水面にいくつもの輪を描く。
水鳥が頭から水中に潜り、予測もつかない場所から顔を出してはまた潜る。
長閑な風景を眺めながらの昼食は格別に美味しかった。
カリカリのベーコンとトマトを挟んだパン。パリパリのソーセージから溢れた肉汁。蒸したじゃがいもとゆで卵のサラダ。果実を浸した冷たい発泡水。口の中で蕩けた桃のゼリーにうっとりと目を閉じる。
食事を堪能する僕の隣ではアヒムとエルマ様がベル先輩に魔法学術院のことを質問していた。
僕も興味はあったけど、なんとなく聞けずにいたから食べながらずっと耳をそば立たせていた。
乗馬……先輩の操る馬の前に乗るという運動をしたせいか今日は食欲がある。
魔力循環不全でなければ本来の僕はそこまで食べる方じゃないみたいだ。
先輩の薬を飲むようになってそれがわかった。
今まで結構、無理して食べてたんだな。
「そうそう。ベルノルト君がネイトの薬を作ってくれてるんだよね」
「すごいです」
アヒムはベル先輩を尊敬の眼差しで見つめている。
元から無かった頼れるお兄さんの座はベル先輩のものになってしまった。
「弟さんがいらっしゃるんですね」
「そう。ちょうどアヒムと同じ、十歳だよ」
「じゃあ、その子がネイトと同じ病気で?」
「そうなんです。俺の弟も魔力循環不全で、それがきっかけで魔法薬学に興味を持ったんです」
話題はベル先輩の弟の話に移っていた。
「魔力循環不全自体はそこまで珍しい病気ではなくて、しっかりと食事を取れれば魔力も安定してくるんです」
小さい頃にしっかり栄養をとっていれば十歳くらいになったら魔力は安定してくるのだそう。もちろん貴族は食事には困らないから成人までには病気とわからないくらい健康に育つ。
それは初めて聞いた話だ。
僕は自分の病気に対しての知識があまりない。
この病気の名前も子爵家のお医者さんに聞いて初めて知ったくらいだ。
なるほど貴族なら、我が子の病気が食事の量一つで改善するならいくらでも食べさせるだろう。
じゃあ、貧しい平民だとどうなるのか。
「ところが俺の弟は食が細くて、たくさん食べさせたくても中々量を食べることができなかったんです」
栄養が足りないと、十歳になる前に栄養失調で死んでしまう。
今まで魔力循環不全に対する薬が作られてこなかったのは「貴族には」必要がなかったというだけの話で。
「あのままだと弟は十歳になる前に死んでいたかもしれません。だから、俺は弟が負担なく少しの量で必要な栄養を取れる薬を作ろうと考えたんです。薬ができるまでは流動食のようなものを独学で作って……」
そんなふうに、ベル先輩の話は続く。
だけど僕は、途中からベル先輩の声が全く耳に入らなくなってしまった。
貴族はたくさん食べて元気になるけど貧民は必要な量を食べることができずに死んでしまう病気。
それが魔力循環不全。
僕は十二歳で生家を出された。
十歳を超えて尚、生きることができた。
あの。
あの、貧しい小作人のお父さんの家で。
五人も子供を持つお母さんの家で。
どうやって僕に必要なだけの食べ物を手に入れていたのか。
こんな僕を、どうしてここまで生かしてくれていたのか。
「ネイト?」
気がつけば、僕の目からはとめどなく涙が流れて落ちていた。
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