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しおりを挟む裾から潜り込んだベル先輩の手がシャツの中を這い回る。
口付けに気を取られシャツが胸まで捲り上げられていることにも気が付かず、ベル先輩の手は僕の知らない間に好き放題にあちこち撫で回していた。
僕のズボンの前あわせを外した先輩に「ネイト」と、呼ばれて目を開ける。
涙の膜越しにぼやけたベル先輩が僕を見下ろしていた。
「ここ、自分で触ったことある?」
「…………?」
ここ、と言って先輩の手が示したのは僕の股間だ。
意味がわからない。
排泄や入浴で誰でも自分で触れることがあるはずの体の部位だ。
奇妙な問いに口付けの余韻が少し冷める。
「わからない?だったら子供がどうやってできるかは知ってる?」
「そ、れは。わかります」
子爵領にいた頃に家庭教師の先生に習ったことがある。
男女、の夫婦が子供を作る為に成す行為。
男性の、排尿に使われる部分は生殖器として子供を作る道具になるということ。
生殖器官から種が作られるようになれば子供を成すことのできる一人前の男となるということ。
そしてどうやら僕はいまだにその兆しがないということ。
「知ってますけど。僕は、まだ」
言いかけてから余計なことだ、と思いなおした。
子供を作る準備ができていない。
なんて。
相手になるような女性はいないし探すつもりも予定もない僕には関係のないことだ。
僕はもう十五歳だ。
だけど、不完全な、未熟な。大人になりきっていない体は多分ずっとこのまま変わることがないような気がする。
「俺の薬を飲み始めて三ヶ月くらいになるよね」
それには頷いてみせた。
「魔力循環不全のせいで、単純に栄養が足りていなかっただけならそろそろ……」
ベル先輩が起き上がり、僕のことも引き起こして壁にもたれかかって膝の上に僕を座らせた。
背中に当たるベル先輩の胸。
硬くて厚みのある体。
子供みたいな僕の体と比べてしまう。
「触るね」
そう言ってくつろげたズボンの中に手を差し入れた。いい、なんて一言も言ってないのに。
下着の上から撫でられて、体がびくりと揺れる。
「気持ち悪い?」
耳の横で囁く声に首を振る。気持ち悪くはない。
大きな手が布ごと包むように、僕の、なんと言っていいのか、その。おしっこの出るところを。つまり……おちんちん、を。緩く揉みしだきだした。
「……んっ」
むずむず、する。
先輩の手に、擦り付けるように勝手に揺れる腰。
恥ずかしいのに止められない。
「じゃあ、気持ち良い?」
浅く短くなる呼吸の中、必死で頷いた。
良い。良いから。
やめてほしくない。
腰は浮き上がり、先輩の腕にしがみつき逃すまいと内腿に力が入る。
ベル先輩の空いた手が僕の乳首を弄り、舌は耳たぶを舐め、首筋を這いまわる。吸われて、歯を立てられて、痺れが走った。
「やっ……あ、せん、ぱ」
知らない間に下着の中に潜り込んだ手が直接、僕のものに触れて握り込みゆっくりと上下に動く。
「痛くない?」
痛くなんかない。
そう言いたいのに僕の口からは鼻にかかったような甘えた声しか出てこない。
ベル先輩の手の動きがだんだんと早くなる。
「んっ、あぅ」
迫り上がる、尿意にも似た感覚を止めようと思う間も無く何かが弾け、目の前に無数の星が飛び散った。
股の間にぬるぬると暖かく濡れた感触。
粗相を自覚して、あまりの羞恥に震える。
「ネイト」
上擦った、先輩の声。
「ほら。これ、わかる?」
恥ずかしくて顔を伏せたまま頭を振る。
何もわからない。怖い。恥ずかしい。
思い切り走った後のような疲労感で力の抜けた体を先輩の胸に預けた。
「触ってみて」
「や……」
嫌だと言うのに先輩は僕の手にぬるりとした何かを塗りつけた。
「これが精液。子供を作るための種だよ」
先輩の声に唆されて、そろそろと目を開けた。白く濁った滑り気のある液体が、手のひらを濡らして光る。
ふと、鼻先をかすめた匂いに覚えがあった。青臭く、つんと鼻をつく。
「これ……ファンディーレ先輩の」
医務室で嗅いだ匂いと同じだ。
「ネイト?」
しまった。
はっと気がついた時にはもう遅かった。
口からこぼれ落ちた言葉は取り返すことはできない。
背後から尋常じゃないほどに冷えた空気を感じて、空気って魔法を使わなくても冷やせるんだと知った。
ベル先輩の笑顔の圧力によって、僕は医務室での出来事を洗いざらい吐かされることになった。
ファンディーレ先輩と騎士科の誰だか知らない生徒との仮眠室でのあれこれを、うっかり、わざとではなく、たまたま、覗いてしまったという僕の話を聞いたベル先輩は、それはもう涙が出るほどに笑いころげてくれた。
僕の膨れっ面に気がつくまでの随分と長い時間、ベル先輩は笑い続けていた。
「……あーっと、じゃあ。今日はここまでにしようか。続きはまた『今度』ね」
取り繕うようにそう言って僕の汚れた手や体を拭い、服を整えだした。
「……まだ、あるんですか」
いつかの日に食堂で話した「今度」がこんなことだったなんて。
しかも、まだ続きがあるなんて。
体も心も疲れ果てて、先輩にされるがまま服を整えてもらっていた僕は思わず情けない声を上げてしまった。
「あるよ。ネイトとしたいことは、まだまだたくさんある」
くるりと後ろを向けられて、抱き込まれ、頬を擦り付けるものだから、くすぐったくてつい笑ってしまう。
さっき笑われて拗ねていたことは、もうとっくに忘れていた。
「僕も、ベル先輩としたいこと、あります」
「ネイトが?俺と?どんなことかな」
どことなく嬉しそうなベル先輩の声。
でも言ってから後悔をしていた。
僕がベル先輩と一緒にしてみたいことはあまりにも図々しくて、とても口には出せないことだったから。
だから、少し考えて他のことを言うことにした。
「……先輩と、先輩の研究室のお手伝いをしてみたいです」
これも、してみたいのは本当のことだった。
実のところ、僕は先輩が研究室で何をしているのかあまりよく知っていない。
ローブから薬草の匂いがしてることと、薬を自分で開発したことからなんとなく魔法を使った薬の研究なんだろうと勝手に想像しているけど。
いつも忙しそうで、研究室の仕事と授業中に出ない代わりに出された課題に追われているベル先輩。
見習いで下っ端でこき使われている、そんなベル先輩のお手伝いがしたい。
役に立てるかはわからないけど、していることがわからないと労わることすらできない気がする。
何か、僕にもできることはないだろうか。
「うーん、手伝い……。俺の研究室は部外者は立ち入り禁止なんだよ。だからって外での仕事は汚れるし、危ないこともあるし……」
「何か、僕にもできるようなことはありませんか?」
魔法を使えなくてもできるようなこと。
「そうだな。考えとくよ」
背中越しに笑う気配がした。
なんだか誤魔化されたような気がしたけれど、どうしようもなく眠くてそのまま眠ってしまった。
気がついたら夕飯の時間で、慌てて飛び起きてベル先輩に緑のひづめ寮まで送ってもらうことになった。
***
二日目の降臨祭は大聖堂での儀式が主となる。
王族が自ら大聖堂へ足を運び、間違った魔法の使い方をしないことを女神の前で誓う。
儀式に参加できるのは一部の大貴族だけで一般の市民は王族の姿すら見ることができない。
王族と大貴族を乗せた馬車の列が、近衛兵に囲まれ大聖堂へと向かう。先輩のお父さんであるライマン伯爵もこの馬車の一台に乗って行くらしい。
この日は、大きな通りは全て立ち入りが禁じられていた。
平和な国だけど、騒ぎに乗じた襲撃が絶対にないとは言い切れないからだ。
そのため一日目ほどの賑やかなお祭り騒ぎは無く、通りから離れた場所で屋台や地味な大道芸に人形劇などが見られる程度だ。
一日目より人出も少なく、街はほどほどに歩きやすくてベル先輩と二人のんびり屋台を巡ることができた。
がっつりと手首は掴まれて、連行されているみたいになっていたけれども。
嵐みたいな一日目と、夢のように平和な二日目を経て、僕の初めての降臨祭は終わった。
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