37 / 52
第三部~関東逐鹿~
『青春アタック』脚本㉞已己巳己
しおりを挟む
白亜高校の体育館ではいつにもまして練習に熱が入る。
部員の先頭に立ってジョギングする花原「ここ~で勝ったら12億!はい!」
部員たち「12億!12億!!」
華白崎(・・・なんつー品のない掛け声なんだ・・・)
体育館に入ってくる病田「すごい気合・・・」
タバコを吸うさくら「・・・なんだかんだで、全国ベスト3だからね・・・
部員の士気は高いよ。
華白崎さんの徹底した基礎練習・・・
マッスルくんの筋力トレーニング・・・
小早川さんの走力トレーニングに・・・
ブーちゃんの食事管理・・・
部員の健康チェックは私がやってるし。
ここにきてインフルエンザで出場停止はしょっぱいからねえ・・・」
病田「・・・ありがとう。監督を引き受けてくれて。
部員の子達・・・あんなに嬉しそう・・・」
さくら「礼ならあの子達に言いなよ。私は勝てる可能性がなければ絶対引き受けない。」
病田「そうだね・・・次はどんな作戦?」
さくら「・・・作戦は・・・もうない。」
病田「・・・え?」
さくら「この作戦は、もともと3戦で優勝することを前提で立てていた。
3戦くらいなら、運動経験のないあの子たちも体力の限界が来る前に勝ち越せると思ったから。
しかし・・・今回の引き分け試合で、その目はなくなった。
裏工作の資金も枯渇。
やってくれたわ・・・クローン少女・・・」
病田「それなら、別の作戦を立てれば・・・」
さくら「ねえ先生・・・最高の教師ってどんな先生だか知ってる?」
病田「・・・え?」
さくら「教職の授業で習わなかった?」
病田「・・・なんだっけ・・・」
さくら「生徒の心に火を付ける教師らしいよ。」
部員たちのジョギングを眺める2人の教師。
さくら「あの子らには、もう私の小細工は必要ないのかもしれない・・・」
ジョギングする花原「借金帳消し12億!はい!!」
病田「あ、そうそう・・・健康チェックと言ったら・・・
高体連の方から部員に健康診断をさせてほしいという依頼が来ています・・・」
笑うさくら「さすがの破門戸も感染症が怖いか。」
病田「抗原検査と、血中の抗体検査をさせてほしいと・・・」
さくら「血液サンプルを送ればいいんでしょ?後でやっとくよ。
私、人に尖ったものを突き刺すの大好きだから・・・」
病田「お願いします。」
・
詩留々高専
保健室で寝ているバレー部員たち。
それを扉から見つめるりかぜ「・・・・・・。」
廊下のベンチに座っているスバル「・・・動けそうな部員は・・・?相馬原は?中之条は・・・?」
黙って首を振るりかぜ。
壁を殴るスバル「くそ・・・!みんな故障かよ・・・!」
りかぜ「あの鮎原姉妹との一戦で、我々は肉体の限界を超えてしまった・・・」
スバル「・・・ちくしょー!せっかく海野にリベンジができるチャンスが来たってのによ・・・!」
スバルの隣に来るりかぜ「・・・ボス・・・」
スバル「うちの心が読めるなら、そっとしておいてくれねえか・・・」
春高バレーバトルロイヤル大会のルールブックをめくるりかぜ「・・・策ならあります。」
スバル「今から部員を勧誘するのか?」
頷くりかぜ
スバル「無理だ・・・!試合は明日だぞ?」
りかぜ「約束したでしょう・・・あなたを一番高い表彰台に立たせると。」
スバル「・・・なんで、うちにそこまでしてくれるんだ・・・?」
りかぜ「・・・あなただけは・・・私を差別しなかった。」
立ち上がって歩いていくりかぜ。
・
高体連本部ビル
ビル内のセキュリティを管理するコントロールルーム。
防犯モニターを見つめる狩野「・・・・・・。」
りかぜがラップトップを操作して、高体連のセキュリティシステムをハッキングしている。
腕時計を見るりかぜ「5、4、3、2、1、・・・」
モニターが反応する。
狩野「・・・見て。」
黒服の警備員「なにか・・・?」
狩野「ドアのセキュリティシステムが停止してしまった。」
警備員「ああ・・・さっき業者が定期メンテナンスをすると言っていました。」
狩野「・・・そう・・・。」
ビル内に侵入して、ロックが外れたドアをこじ開け、冷蔵庫に入っていくりかぜ。
タンクの蓋を引き上げると、中には白亜高校の部員の血液サンプルが冷凍保存されて入っている。
シェービングクリームの容器の蓋を開けて、血液サンプルを一つずつ入れていくりかぜ。
りかぜ「・・・高木智子・・・乙奈姫櫨美・・・華白崎桐子・・・」
別のタンクに移る。
りかぜ「・・・生原血織・・・花原恵菜・・・そして・・・
海野美帆子・・・」
・
華蔵寺公園
野球場はナイターになっている。
実況「芝生の上を転がるボール
ただ目で追うよ Sunny Day Sunday!
全国1億5千万人のバレーボールファンの皆さん、こんばんは!
春の高校バレー、バトルロイヤル大会もいよいよ準決勝を迎えました!
あの絶対王者、聖ペンシルヴァニア大附属と五分の激戦を繰り広げた、群馬県の詩留々高専に挑むのは、千葉県の新星、初出場の白亜高校・・・!
この試合の勝者が賞金総額12億円をかけた鮎原姉妹との挑戦権を得ます・・・!」
球場の真ん中にあるバレーボールコートに整列する白亜高校バレー部と、詩留々高専のスバルとりかぜ。
りかぜ「前回の反省を踏まえて、気温の下がる夜に試合を設定しました・・・
これなら空気の密度が高いので神風は吹きません・・・」
スバル「なるほど・・・しかし、大丈夫か?目の下のクマがすごいけど・・・」
りかぜ「だいじょうぶよ・・・」
スバル「この試合は7イニング制で行くぜ?今回は延長ありだ。
この試合に引き分けはねえ。」
海野「OKよ。楽しみましょう。」
花原「ちょっと、あんたたち2人だけ?ほかのメンバーは?」
ちおり「あと4人連れてこないと、不戦敗になるよ!」
乙奈「ありましたわね・・・そういうことも・・・」
りかぜ「・・・私は体が弱いので戦えませんが・・・あなたたちの相手は造ったわ。」
海野「・・・造った・・・?」
球場に大型トレーラーが入ってくる。
花原「・・・もしかして・・・あの体育館にあったバレーボールマシン?」
ちおり「でもレシーブはどうやんの?」
花原「・・・うん・・・」
りかぜ「いでよ・・・これが私の最高傑作・・・」
荷台の扉がゆっくりと開いていく。
すると、中には海野そっくりのアンドロイドが5人立っている。
りかぜ「バレーボーロイド、UMX12よ・・・!」
花原「なんだって~~!!」
ちおり「海野さんが5人に増えたよ!」
乙奈「違いますわ、ご本人を入れると6人ですわ・・・!」
海野「わ・・・私にそっくり・・・!こ・・・これ、本当にロボットなの?」
花原「・・・あんた・・・クローンがクローンを作ったんじゃないでしょうね・・・」
海野ロボットは水色のSFアニメのようなユニフォームを着ている。
海野ロボの一人に近づき、髪の毛を書き上げてこめかみを見せるりかぜ
「ここが主電源ボタン。」
華白崎「・・・信じられない・・・し、しかし、アンドロイドを出場させていいんですか?」
りかぜ「ルールブックには書いてない・・・」
花原「そりゃ書いてないでしょうよ・・・!」
海野ロボに近づいていくちおり「すご~い!こんにちは!!」
すると、海野ロボが返事をする「はじめまして。水野美帆子です。私はこの大会が終わったらピーナツ農園に売られるの、よろしくね!」
花原「・・・声もそっくり・・・なんか気持ち悪いわね・・・」
別の海野ロボ「なに?あんたロボットを差別すんの?」
花原「・・・え?」
海野ロボ「天才科学者の火野美帆子よ。水野さん、気にすることないわ。」
水野「う・・・うん・・・」
火野「夏休みの自由研究で水爆を作ってIAEAに厳重注意を受けた私のガチバレーにあなたたちはついていけるかしら?おほほほ!!」
ちおり「・・・なんか誰かに似てない?」
口が開けっ放しの花原「・・・・・・。」
月野「にゃー!月野美帆子だよ!好きな雑草はハルジオンです!希望を捨てなければ絶対勝てるわ!」
飛び上がって喜ぶちおり「うおー!私もいる~~!!」
月野「こんちゃー!」
メガネをなおす金野美帆子「はあ・・・くだらないわ・・・こんな試合はとっとと終わらせて、バレー部は廃部よ。」
木野美帆子「まあまあ・・・長い目で見たらどうですか?この試合で優勝すれば、わたくしたちアンドロイドへの偏見も変わっていくと思いますわよ・・・」
花原「ちょっと待てーい!!水野美帆子まではわかる!なんで、ほかの中身が私たちになってるのよ!」
りかぜ「・・・なにか問題でも?」
華白崎「これは・・・自分との戦いになりますね・・・」
乙奈「傍から見たら、ひょうきんな海野さんがわたくしたちのモノマネをしているように見えますわ・・・」
海野「・・・な、なんで私のロボットなんか・・・」
スバル「・・・わかんない?去年あんたに負けた復讐だよ。」
病田「・・・どうせなら鮎原姉妹のロボットを造ればいいのに・・・」
さくら「・・・いや・・・連中にとっては海野さんは鮎原以上に乗り越えるべき壁なのよ。」
病田「・・・もしバレーの技術もコピーしていたら・・・?互角・・・?」
さくら「・・・いや結構やばいね・・・ロボットに疲労はない・・・」
病田「そんな・・・」
さくら「なあに、必ず穴はあるさ・・・私はもう見つけたよん。」
スバル「さあ、プレイボールだ!」
・
実況「先攻は勝ち数が多いチームとなります!共に2勝ですが、詩留々高専の引き分け試合が加算されるため、詩留々高専の攻撃からスタートです!」
スバル「頼んだぞ、木野美帆子・・・!」
サービスエリアに入る木野「やるだけやってみますわ・・・え~い!」
めちゃくちゃな軌道を描くサーブ。
花原「・・・な、なによあれ・・・!!」
華白崎「・・・乙奈さんの無回転フローターサーブだ・・・!!」
ちおり「まかして!て~い!」
ちおりが飛び込みレシーブしょうとボールに突っ込むが、軌道が変わり花原にぶつかって二人共倒れる。
花原「ぎゃああ!!」
スバル「おっしゃー!まずは先制だ!」
海野「乙奈さんのサーブまでコピーしてる・・・!」
木野の変化球サーブに翻弄される白亜高校。
ちおり「・・・あれってどうレシーブするのが正解なの?」
乙奈「わたくしにもわかりませんわ・・・」
スバル「言い忘れたが、10点以上点差がつくとコールド負けになるぜ!」
火野「おっしゃー!木野さん、とっととサーブで勝負を決めなさい!」
金野「・・・それ以外はあなたはからっきしダメですからね・・・」
木野「ご・・・ごめんなさい・・・」
水野「やめなよ・・・そんな言い方・・・」
金野「私は事実を申し上げたまでです。我々が守備に回ったとき、いの一番に敵に狙われるのは、レシーブができない木野さんだ。」
火野「そのとおり!」
金野「それと、火野さんです。このふたりははっきり言って戦力外ですね。」
火野「・・・え?」
芝をむしって食べる月野「芝生うめ~・・・」
スバル「おいおい、お前ら試合に集中してくれよ。」
花原「・・・わたしたちあんなに仲が悪かったっけ・・・?」
華白崎「・・・ええ・・・」
海野「これ以上点差を広げると、きびしいわ・・・私が下がるね・・・」
木野がサーブを打つ。
風船のようにふわふわ向かってくるボール。
海野(ふわふわ漂って・・・どこかで突然勢いをなくして落ちるんだ・・・
そこを狙う・・・!)
すると、ネットを超えた時点でいきなりストンと落ちるボール。
海野(しまった・・!落下タイミングが早い・・・!)
飛び込みレシーブでぎりぎりボールを上げる海野。
海野「誰か!リカバーを!」
乙奈「は・・・はい・・・!」
なんとか、レシーブをして相手のコートに入れる。
スバル「チャンスボールだ!」
水野「おっけー!」
水野が綺麗にレシーブを上げる。
月野がトスをして、火野が強力なスパイクを打つ。
花原の顔面にめり込むスパイク。
花原「ぐげえええ!!」
海野「花原さん・・・!」
主審の笛。
火野「見たか~!」
火野に飛びつく月野「火野さん天才~!」
混ざっているちおり「かっけー!」
華白崎「だめだ・・・!海野部長でも乙奈さんのサーブは予測できない・・・!」
海野「みんなごめん・・・動きが完全にランダムだから反応しきれない・・・」
花原「・・・どうするのよ・・・海野さんが拾えないなら、誰も拾えないわよ・・・!」
乙奈「な・・・なんかすいません・・・あんなサーブを打って・・・」
スコアを付ける山村「あれを完璧にレシーブできたのは野生のイノシシだけだ・・・
どうするのだ監督。」
さくら「・・・そうだっけ?まあ、野生のイノシシができたことを人間様ができないわけはないでしょ」
山村「・・・。いや、普通にできないだろ・・・
それに、花原さんのスパイクも模倣されている・・・
うちのチームを完全コピーしてくるとは、悪趣味極まりないぞ・・・」
さくら「・・・ねえマッスルくん。向こうのチームは本当に完全コピーかな?」
山村「姿が海野部長でなかったら、見分けがつかないと思うが・・・」
さくら「一人足りないんじゃない?
乙奈さんのサーブを誰よりもとなりで見続けてきた天才リベロがいるでしょう・・・」
気づく山村「・・・!ブー料理長がいない・・・!」
さくら「きっと、あのロボットはこの前の試合で部員が負傷でもして、急ごしらえで揃えたものなのよ・・・だから、必要最低限の5台しか用意ができなかった・・・
見なさい。あの天才少女の顔を・・・どう見ても寝不足のそれよ。」
山村「・・・確かに・・・」
病田「でも・・・向こうはなぜブーちゃんだけを外したんですか・・・?」
タバコに火を付けるさくら
「・・・理由はわからないけど・・・それが詩留々高専の致命的なミスなのは確かよ。」
となりで聞いているりかぜ「・・・致命的なミス・・・?冗談じゃないわ・・・
あの高木智子という謎の人物の血液があの給食のおばさんのものだったのは気づかなかった・・・
しかし・・・ブーちゃんのテクニックはレシーブとパスが多少上手なだけ・・・
身長もないし、悪いけれど海野部長の下位互換に過ぎないわ・・・
この勝負、私達の勝ちよ・・・!」
木野がサーブを打つ「たあ~」
怯える花原「ひいい!来た・・・!」
海野「ボールをよく見て・・・!」
華白崎「集中です・・・!」
その時、一人だけブーちゃんは目を閉じる。
精神を研ぎ澄ませて集中すると、ボールが空気を切り裂く音だけが聞こえる。
老師(少女よ・・・目で見えるものに惑わされてはならぬ・・・
デカ盛り・・・激辛・・・インスタ映え・・・それらは命をいただく食材への冒涜じゃ。
まだわからんか?
料理の真髄・・・それは作り手の・・・)
カッと目を見開くブーちゃん。
老師(心じゃよ・・・!)
木野の変化球サーブをレシーブするブーちゃん。
スバル「何いいい!!?返した!!」
りかぜ「馬鹿な・・・!」
部員の先頭に立ってジョギングする花原「ここ~で勝ったら12億!はい!」
部員たち「12億!12億!!」
華白崎(・・・なんつー品のない掛け声なんだ・・・)
体育館に入ってくる病田「すごい気合・・・」
タバコを吸うさくら「・・・なんだかんだで、全国ベスト3だからね・・・
部員の士気は高いよ。
華白崎さんの徹底した基礎練習・・・
マッスルくんの筋力トレーニング・・・
小早川さんの走力トレーニングに・・・
ブーちゃんの食事管理・・・
部員の健康チェックは私がやってるし。
ここにきてインフルエンザで出場停止はしょっぱいからねえ・・・」
病田「・・・ありがとう。監督を引き受けてくれて。
部員の子達・・・あんなに嬉しそう・・・」
さくら「礼ならあの子達に言いなよ。私は勝てる可能性がなければ絶対引き受けない。」
病田「そうだね・・・次はどんな作戦?」
さくら「・・・作戦は・・・もうない。」
病田「・・・え?」
さくら「この作戦は、もともと3戦で優勝することを前提で立てていた。
3戦くらいなら、運動経験のないあの子たちも体力の限界が来る前に勝ち越せると思ったから。
しかし・・・今回の引き分け試合で、その目はなくなった。
裏工作の資金も枯渇。
やってくれたわ・・・クローン少女・・・」
病田「それなら、別の作戦を立てれば・・・」
さくら「ねえ先生・・・最高の教師ってどんな先生だか知ってる?」
病田「・・・え?」
さくら「教職の授業で習わなかった?」
病田「・・・なんだっけ・・・」
さくら「生徒の心に火を付ける教師らしいよ。」
部員たちのジョギングを眺める2人の教師。
さくら「あの子らには、もう私の小細工は必要ないのかもしれない・・・」
ジョギングする花原「借金帳消し12億!はい!!」
病田「あ、そうそう・・・健康チェックと言ったら・・・
高体連の方から部員に健康診断をさせてほしいという依頼が来ています・・・」
笑うさくら「さすがの破門戸も感染症が怖いか。」
病田「抗原検査と、血中の抗体検査をさせてほしいと・・・」
さくら「血液サンプルを送ればいいんでしょ?後でやっとくよ。
私、人に尖ったものを突き刺すの大好きだから・・・」
病田「お願いします。」
・
詩留々高専
保健室で寝ているバレー部員たち。
それを扉から見つめるりかぜ「・・・・・・。」
廊下のベンチに座っているスバル「・・・動けそうな部員は・・・?相馬原は?中之条は・・・?」
黙って首を振るりかぜ。
壁を殴るスバル「くそ・・・!みんな故障かよ・・・!」
りかぜ「あの鮎原姉妹との一戦で、我々は肉体の限界を超えてしまった・・・」
スバル「・・・ちくしょー!せっかく海野にリベンジができるチャンスが来たってのによ・・・!」
スバルの隣に来るりかぜ「・・・ボス・・・」
スバル「うちの心が読めるなら、そっとしておいてくれねえか・・・」
春高バレーバトルロイヤル大会のルールブックをめくるりかぜ「・・・策ならあります。」
スバル「今から部員を勧誘するのか?」
頷くりかぜ
スバル「無理だ・・・!試合は明日だぞ?」
りかぜ「約束したでしょう・・・あなたを一番高い表彰台に立たせると。」
スバル「・・・なんで、うちにそこまでしてくれるんだ・・・?」
りかぜ「・・・あなただけは・・・私を差別しなかった。」
立ち上がって歩いていくりかぜ。
・
高体連本部ビル
ビル内のセキュリティを管理するコントロールルーム。
防犯モニターを見つめる狩野「・・・・・・。」
りかぜがラップトップを操作して、高体連のセキュリティシステムをハッキングしている。
腕時計を見るりかぜ「5、4、3、2、1、・・・」
モニターが反応する。
狩野「・・・見て。」
黒服の警備員「なにか・・・?」
狩野「ドアのセキュリティシステムが停止してしまった。」
警備員「ああ・・・さっき業者が定期メンテナンスをすると言っていました。」
狩野「・・・そう・・・。」
ビル内に侵入して、ロックが外れたドアをこじ開け、冷蔵庫に入っていくりかぜ。
タンクの蓋を引き上げると、中には白亜高校の部員の血液サンプルが冷凍保存されて入っている。
シェービングクリームの容器の蓋を開けて、血液サンプルを一つずつ入れていくりかぜ。
りかぜ「・・・高木智子・・・乙奈姫櫨美・・・華白崎桐子・・・」
別のタンクに移る。
りかぜ「・・・生原血織・・・花原恵菜・・・そして・・・
海野美帆子・・・」
・
華蔵寺公園
野球場はナイターになっている。
実況「芝生の上を転がるボール
ただ目で追うよ Sunny Day Sunday!
全国1億5千万人のバレーボールファンの皆さん、こんばんは!
春の高校バレー、バトルロイヤル大会もいよいよ準決勝を迎えました!
あの絶対王者、聖ペンシルヴァニア大附属と五分の激戦を繰り広げた、群馬県の詩留々高専に挑むのは、千葉県の新星、初出場の白亜高校・・・!
この試合の勝者が賞金総額12億円をかけた鮎原姉妹との挑戦権を得ます・・・!」
球場の真ん中にあるバレーボールコートに整列する白亜高校バレー部と、詩留々高専のスバルとりかぜ。
りかぜ「前回の反省を踏まえて、気温の下がる夜に試合を設定しました・・・
これなら空気の密度が高いので神風は吹きません・・・」
スバル「なるほど・・・しかし、大丈夫か?目の下のクマがすごいけど・・・」
りかぜ「だいじょうぶよ・・・」
スバル「この試合は7イニング制で行くぜ?今回は延長ありだ。
この試合に引き分けはねえ。」
海野「OKよ。楽しみましょう。」
花原「ちょっと、あんたたち2人だけ?ほかのメンバーは?」
ちおり「あと4人連れてこないと、不戦敗になるよ!」
乙奈「ありましたわね・・・そういうことも・・・」
りかぜ「・・・私は体が弱いので戦えませんが・・・あなたたちの相手は造ったわ。」
海野「・・・造った・・・?」
球場に大型トレーラーが入ってくる。
花原「・・・もしかして・・・あの体育館にあったバレーボールマシン?」
ちおり「でもレシーブはどうやんの?」
花原「・・・うん・・・」
りかぜ「いでよ・・・これが私の最高傑作・・・」
荷台の扉がゆっくりと開いていく。
すると、中には海野そっくりのアンドロイドが5人立っている。
りかぜ「バレーボーロイド、UMX12よ・・・!」
花原「なんだって~~!!」
ちおり「海野さんが5人に増えたよ!」
乙奈「違いますわ、ご本人を入れると6人ですわ・・・!」
海野「わ・・・私にそっくり・・・!こ・・・これ、本当にロボットなの?」
花原「・・・あんた・・・クローンがクローンを作ったんじゃないでしょうね・・・」
海野ロボットは水色のSFアニメのようなユニフォームを着ている。
海野ロボの一人に近づき、髪の毛を書き上げてこめかみを見せるりかぜ
「ここが主電源ボタン。」
華白崎「・・・信じられない・・・し、しかし、アンドロイドを出場させていいんですか?」
りかぜ「ルールブックには書いてない・・・」
花原「そりゃ書いてないでしょうよ・・・!」
海野ロボに近づいていくちおり「すご~い!こんにちは!!」
すると、海野ロボが返事をする「はじめまして。水野美帆子です。私はこの大会が終わったらピーナツ農園に売られるの、よろしくね!」
花原「・・・声もそっくり・・・なんか気持ち悪いわね・・・」
別の海野ロボ「なに?あんたロボットを差別すんの?」
花原「・・・え?」
海野ロボ「天才科学者の火野美帆子よ。水野さん、気にすることないわ。」
水野「う・・・うん・・・」
火野「夏休みの自由研究で水爆を作ってIAEAに厳重注意を受けた私のガチバレーにあなたたちはついていけるかしら?おほほほ!!」
ちおり「・・・なんか誰かに似てない?」
口が開けっ放しの花原「・・・・・・。」
月野「にゃー!月野美帆子だよ!好きな雑草はハルジオンです!希望を捨てなければ絶対勝てるわ!」
飛び上がって喜ぶちおり「うおー!私もいる~~!!」
月野「こんちゃー!」
メガネをなおす金野美帆子「はあ・・・くだらないわ・・・こんな試合はとっとと終わらせて、バレー部は廃部よ。」
木野美帆子「まあまあ・・・長い目で見たらどうですか?この試合で優勝すれば、わたくしたちアンドロイドへの偏見も変わっていくと思いますわよ・・・」
花原「ちょっと待てーい!!水野美帆子まではわかる!なんで、ほかの中身が私たちになってるのよ!」
りかぜ「・・・なにか問題でも?」
華白崎「これは・・・自分との戦いになりますね・・・」
乙奈「傍から見たら、ひょうきんな海野さんがわたくしたちのモノマネをしているように見えますわ・・・」
海野「・・・な、なんで私のロボットなんか・・・」
スバル「・・・わかんない?去年あんたに負けた復讐だよ。」
病田「・・・どうせなら鮎原姉妹のロボットを造ればいいのに・・・」
さくら「・・・いや・・・連中にとっては海野さんは鮎原以上に乗り越えるべき壁なのよ。」
病田「・・・もしバレーの技術もコピーしていたら・・・?互角・・・?」
さくら「・・・いや結構やばいね・・・ロボットに疲労はない・・・」
病田「そんな・・・」
さくら「なあに、必ず穴はあるさ・・・私はもう見つけたよん。」
スバル「さあ、プレイボールだ!」
・
実況「先攻は勝ち数が多いチームとなります!共に2勝ですが、詩留々高専の引き分け試合が加算されるため、詩留々高専の攻撃からスタートです!」
スバル「頼んだぞ、木野美帆子・・・!」
サービスエリアに入る木野「やるだけやってみますわ・・・え~い!」
めちゃくちゃな軌道を描くサーブ。
花原「・・・な、なによあれ・・・!!」
華白崎「・・・乙奈さんの無回転フローターサーブだ・・・!!」
ちおり「まかして!て~い!」
ちおりが飛び込みレシーブしょうとボールに突っ込むが、軌道が変わり花原にぶつかって二人共倒れる。
花原「ぎゃああ!!」
スバル「おっしゃー!まずは先制だ!」
海野「乙奈さんのサーブまでコピーしてる・・・!」
木野の変化球サーブに翻弄される白亜高校。
ちおり「・・・あれってどうレシーブするのが正解なの?」
乙奈「わたくしにもわかりませんわ・・・」
スバル「言い忘れたが、10点以上点差がつくとコールド負けになるぜ!」
火野「おっしゃー!木野さん、とっととサーブで勝負を決めなさい!」
金野「・・・それ以外はあなたはからっきしダメですからね・・・」
木野「ご・・・ごめんなさい・・・」
水野「やめなよ・・・そんな言い方・・・」
金野「私は事実を申し上げたまでです。我々が守備に回ったとき、いの一番に敵に狙われるのは、レシーブができない木野さんだ。」
火野「そのとおり!」
金野「それと、火野さんです。このふたりははっきり言って戦力外ですね。」
火野「・・・え?」
芝をむしって食べる月野「芝生うめ~・・・」
スバル「おいおい、お前ら試合に集中してくれよ。」
花原「・・・わたしたちあんなに仲が悪かったっけ・・・?」
華白崎「・・・ええ・・・」
海野「これ以上点差を広げると、きびしいわ・・・私が下がるね・・・」
木野がサーブを打つ。
風船のようにふわふわ向かってくるボール。
海野(ふわふわ漂って・・・どこかで突然勢いをなくして落ちるんだ・・・
そこを狙う・・・!)
すると、ネットを超えた時点でいきなりストンと落ちるボール。
海野(しまった・・!落下タイミングが早い・・・!)
飛び込みレシーブでぎりぎりボールを上げる海野。
海野「誰か!リカバーを!」
乙奈「は・・・はい・・・!」
なんとか、レシーブをして相手のコートに入れる。
スバル「チャンスボールだ!」
水野「おっけー!」
水野が綺麗にレシーブを上げる。
月野がトスをして、火野が強力なスパイクを打つ。
花原の顔面にめり込むスパイク。
花原「ぐげえええ!!」
海野「花原さん・・・!」
主審の笛。
火野「見たか~!」
火野に飛びつく月野「火野さん天才~!」
混ざっているちおり「かっけー!」
華白崎「だめだ・・・!海野部長でも乙奈さんのサーブは予測できない・・・!」
海野「みんなごめん・・・動きが完全にランダムだから反応しきれない・・・」
花原「・・・どうするのよ・・・海野さんが拾えないなら、誰も拾えないわよ・・・!」
乙奈「な・・・なんかすいません・・・あんなサーブを打って・・・」
スコアを付ける山村「あれを完璧にレシーブできたのは野生のイノシシだけだ・・・
どうするのだ監督。」
さくら「・・・そうだっけ?まあ、野生のイノシシができたことを人間様ができないわけはないでしょ」
山村「・・・。いや、普通にできないだろ・・・
それに、花原さんのスパイクも模倣されている・・・
うちのチームを完全コピーしてくるとは、悪趣味極まりないぞ・・・」
さくら「・・・ねえマッスルくん。向こうのチームは本当に完全コピーかな?」
山村「姿が海野部長でなかったら、見分けがつかないと思うが・・・」
さくら「一人足りないんじゃない?
乙奈さんのサーブを誰よりもとなりで見続けてきた天才リベロがいるでしょう・・・」
気づく山村「・・・!ブー料理長がいない・・・!」
さくら「きっと、あのロボットはこの前の試合で部員が負傷でもして、急ごしらえで揃えたものなのよ・・・だから、必要最低限の5台しか用意ができなかった・・・
見なさい。あの天才少女の顔を・・・どう見ても寝不足のそれよ。」
山村「・・・確かに・・・」
病田「でも・・・向こうはなぜブーちゃんだけを外したんですか・・・?」
タバコに火を付けるさくら
「・・・理由はわからないけど・・・それが詩留々高専の致命的なミスなのは確かよ。」
となりで聞いているりかぜ「・・・致命的なミス・・・?冗談じゃないわ・・・
あの高木智子という謎の人物の血液があの給食のおばさんのものだったのは気づかなかった・・・
しかし・・・ブーちゃんのテクニックはレシーブとパスが多少上手なだけ・・・
身長もないし、悪いけれど海野部長の下位互換に過ぎないわ・・・
この勝負、私達の勝ちよ・・・!」
木野がサーブを打つ「たあ~」
怯える花原「ひいい!来た・・・!」
海野「ボールをよく見て・・・!」
華白崎「集中です・・・!」
その時、一人だけブーちゃんは目を閉じる。
精神を研ぎ澄ませて集中すると、ボールが空気を切り裂く音だけが聞こえる。
老師(少女よ・・・目で見えるものに惑わされてはならぬ・・・
デカ盛り・・・激辛・・・インスタ映え・・・それらは命をいただく食材への冒涜じゃ。
まだわからんか?
料理の真髄・・・それは作り手の・・・)
カッと目を見開くブーちゃん。
老師(心じゃよ・・・!)
木野の変化球サーブをレシーブするブーちゃん。
スバル「何いいい!!?返した!!」
りかぜ「馬鹿な・・・!」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
夏の決意
S.H.L
青春
主人公の遥(はるか)は高校3年生の女子バスケットボール部のキャプテン。部員たちとともに全国大会出場を目指して練習に励んでいたが、ある日、突然のアクシデントによりチームは崩壊の危機に瀕する。そんな中、遥は自らの決意を示すため、坊主頭になることを決意する。この決意はチームを再び一つにまとめるきっかけとなり、仲間たちとの絆を深め、成長していく青春ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる