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おっさん、雪菜に助けられる
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気持ちはありがたいが周りは西園寺家の味方だし、ここは穏便に場は収めないと。
麗奈は俺たちを複雑に見てきたが、やがて溜め息とともに俺をまっすぐ見てきた。
「綾華さんには申し訳ないのですけど、小林が英二様に殴られたのは事実ですし当家としても黙っているわけにはいきませんわ。このことはキチンとお父様に報告し、後ほど四条家へご連絡差し上げます。生徒同士の問題にお家を持ち込む事は禁止ですが、学園外での暴力沙汰、ましてや、運転手同士が起こした問題ですし」
「……そんな!?」
俺は少しよろけた綾華を支えた。
あー、下手すりゃ傷害事件にするという事か。
麗奈は優雅に一礼し、小林と帰っていった。
周りで見ていた運転手たちはバツの悪そうな表情で各々の主人を車へ促す。
俺もうつむく綾華を車に乗せ四条家へと向かった。
バックミラーに映る綾華は声を出さずに肩を震わせ泣いていた。
高級車の乗り心地よさとは裏腹に車内の空気は重く苦しさが支配していた。
□ □ □ □ □ □
翌朝、俺は四条総裁の前に立っていた。
昨夜は車を降りるなり泣いたまま部屋に駆け込んだ綾華に屋敷中が騒然となった。
メイドたちが綾華の部屋の前で騒いでいたが、四条総裁の奥様がメイドたちを下がらせ場を収めたらしい。
四条総裁は仕事で家にいなかったため、騒ぎを聞きつけた総裁が俺を呼んだのは今日になってからだった。
「それで、昨日の西園寺家との騒動を英二君の口から説明して貰えるかな?」
「言い訳はしません。俺が西園寺家の運転手を殴ったのは事実です」
「ぜひ、その言い訳を知りたいね。君は理由もなく暴力を振るう人間では無いと思っていたんだが」
ありがたい言葉だが、今回の成り行きを正直に話せば、四条総裁は西園寺家相手に一歩もひかないだろう。
西園寺家に不利な証言をする家なんていないだろうし、こちら側の分が悪すぎる。
ダンマリを決め込んだ俺に四条総裁は苦笑いを浮かべ用紙を一枚取り出した。
「実は先ほど、西園寺家から今回の件は不問にするとの連絡が来てね。それによると非は西園寺家にあると認めるとの事だよ。しかも、西園寺家当主の捺印付きのFAXまできた」
「は?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔と言えば、今の俺のことだろう。
天下の西園寺家が運転手を殴られて黙って引き下がるはずがない。
それが下手すりゃ西園寺家に不利となる念書付きだ。
「何故ですか?」
「君がダンマリを決め込んだ理由を西園寺家が把握しているからさ。九条家の御令嬢に感謝するんだね。九条家の運転手も騒ぎを観ていたらしく、騒ぎを知った御令嬢が運転手を詰問して一部始終を聞き出したらしい。それで九条家が西園寺家に真相を話したという訳さ」
「……九条家の御令嬢って雪菜さんです?」
「そうだ。綾華だけじゃなく九条家の御令嬢までとは、なかなかのヤリ手だな君は」
完全なる誤解である。雪菜を痴漢から助けたのは成り行きで、アレ以来、雪菜と話したのも綾華がいる場でのみ。
だが、そんな釈明をしたとしても四条総裁のニヤケ顔は崩せそうもないと思っていると、四条総裁が真面目な表情で席を立ち頭を下げてきた。
「何はともあれ、我が家の事で怒ってくれてありがとう」
「いやいや、堪え性のない馬鹿で逆に迷惑をかけてすいません」
「だが、我が家のために自分だけ泥を被ろうとは関心しないな。そんなに私は頼りないかな?」
顔を上げた四条総裁の目は若干細められていた。
……ヤバい、怒気が感じられる。社畜時代に鍛えた空気を読む能力は伊達じゃない。
「すいません、次からは頼らせて貰います」
「うむ、頼ってくれ。さて、この事を綾華に報告いってくれるかな?」
「えぇ!? 俺がですか?」
「まあ、今回、私を頼ってくれなかった罰と思ってくたまえ」
ニヤける四条総裁に見送られ、学校に行く準備をしていた綾華を廊下で見つけ報告した途端、涙目の綾華に抱きつかれ号泣された。
聞けば、余程心配していたらしく、余り寝られてなかったらしい。
お詫びに綾華のして欲しい事を何でも聞くと言ったら、衝撃の依頼をされた。
「では、一ヶ月後のクリスマス礼拝に来てくださいませ。例年ですと、お父様かお母様をお呼びし学内で食事もご一緒してたのですけど、今年は英二様とご一緒したいですわ」
綾華は涙目を輝かせ、顔を赤らめながら言ってきた。
待って、とりあえず抱きつきながら涙目の上目遣いはやめようか。
美少女にそんな事されて嬉しくない男なんていないけどさ。
自分の可愛さを自覚してくれ。
いつの間にか、廊下の隅から何人かメイドたちが覗いてるし、若干黄色い歓声あげてるじゃねえよ、アンタら。
「いや、それは流石にヤバくないか。お嬢様だらけの学内に俺なんかが……」
「でも、何でもっておっしゃいましたわ?」
「いや、言ったけどさ」
「では、決まりですわね!」
再度、嬉しそうに力を込めて抱きついてくる綾華。
これは事件とばかりに黄色い歓声を上げながら散っていくメイドたち。
こうなりゃ、もう腹をくくるしかなかった。
麗奈は俺たちを複雑に見てきたが、やがて溜め息とともに俺をまっすぐ見てきた。
「綾華さんには申し訳ないのですけど、小林が英二様に殴られたのは事実ですし当家としても黙っているわけにはいきませんわ。このことはキチンとお父様に報告し、後ほど四条家へご連絡差し上げます。生徒同士の問題にお家を持ち込む事は禁止ですが、学園外での暴力沙汰、ましてや、運転手同士が起こした問題ですし」
「……そんな!?」
俺は少しよろけた綾華を支えた。
あー、下手すりゃ傷害事件にするという事か。
麗奈は優雅に一礼し、小林と帰っていった。
周りで見ていた運転手たちはバツの悪そうな表情で各々の主人を車へ促す。
俺もうつむく綾華を車に乗せ四条家へと向かった。
バックミラーに映る綾華は声を出さずに肩を震わせ泣いていた。
高級車の乗り心地よさとは裏腹に車内の空気は重く苦しさが支配していた。
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翌朝、俺は四条総裁の前に立っていた。
昨夜は車を降りるなり泣いたまま部屋に駆け込んだ綾華に屋敷中が騒然となった。
メイドたちが綾華の部屋の前で騒いでいたが、四条総裁の奥様がメイドたちを下がらせ場を収めたらしい。
四条総裁は仕事で家にいなかったため、騒ぎを聞きつけた総裁が俺を呼んだのは今日になってからだった。
「それで、昨日の西園寺家との騒動を英二君の口から説明して貰えるかな?」
「言い訳はしません。俺が西園寺家の運転手を殴ったのは事実です」
「ぜひ、その言い訳を知りたいね。君は理由もなく暴力を振るう人間では無いと思っていたんだが」
ありがたい言葉だが、今回の成り行きを正直に話せば、四条総裁は西園寺家相手に一歩もひかないだろう。
西園寺家に不利な証言をする家なんていないだろうし、こちら側の分が悪すぎる。
ダンマリを決め込んだ俺に四条総裁は苦笑いを浮かべ用紙を一枚取り出した。
「実は先ほど、西園寺家から今回の件は不問にするとの連絡が来てね。それによると非は西園寺家にあると認めるとの事だよ。しかも、西園寺家当主の捺印付きのFAXまできた」
「は?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔と言えば、今の俺のことだろう。
天下の西園寺家が運転手を殴られて黙って引き下がるはずがない。
それが下手すりゃ西園寺家に不利となる念書付きだ。
「何故ですか?」
「君がダンマリを決め込んだ理由を西園寺家が把握しているからさ。九条家の御令嬢に感謝するんだね。九条家の運転手も騒ぎを観ていたらしく、騒ぎを知った御令嬢が運転手を詰問して一部始終を聞き出したらしい。それで九条家が西園寺家に真相を話したという訳さ」
「……九条家の御令嬢って雪菜さんです?」
「そうだ。綾華だけじゃなく九条家の御令嬢までとは、なかなかのヤリ手だな君は」
完全なる誤解である。雪菜を痴漢から助けたのは成り行きで、アレ以来、雪菜と話したのも綾華がいる場でのみ。
だが、そんな釈明をしたとしても四条総裁のニヤケ顔は崩せそうもないと思っていると、四条総裁が真面目な表情で席を立ち頭を下げてきた。
「何はともあれ、我が家の事で怒ってくれてありがとう」
「いやいや、堪え性のない馬鹿で逆に迷惑をかけてすいません」
「だが、我が家のために自分だけ泥を被ろうとは関心しないな。そんなに私は頼りないかな?」
顔を上げた四条総裁の目は若干細められていた。
……ヤバい、怒気が感じられる。社畜時代に鍛えた空気を読む能力は伊達じゃない。
「すいません、次からは頼らせて貰います」
「うむ、頼ってくれ。さて、この事を綾華に報告いってくれるかな?」
「えぇ!? 俺がですか?」
「まあ、今回、私を頼ってくれなかった罰と思ってくたまえ」
ニヤける四条総裁に見送られ、学校に行く準備をしていた綾華を廊下で見つけ報告した途端、涙目の綾華に抱きつかれ号泣された。
聞けば、余程心配していたらしく、余り寝られてなかったらしい。
お詫びに綾華のして欲しい事を何でも聞くと言ったら、衝撃の依頼をされた。
「では、一ヶ月後のクリスマス礼拝に来てくださいませ。例年ですと、お父様かお母様をお呼びし学内で食事もご一緒してたのですけど、今年は英二様とご一緒したいですわ」
綾華は涙目を輝かせ、顔を赤らめながら言ってきた。
待って、とりあえず抱きつきながら涙目の上目遣いはやめようか。
美少女にそんな事されて嬉しくない男なんていないけどさ。
自分の可愛さを自覚してくれ。
いつの間にか、廊下の隅から何人かメイドたちが覗いてるし、若干黄色い歓声あげてるじゃねえよ、アンタら。
「いや、それは流石にヤバくないか。お嬢様だらけの学内に俺なんかが……」
「でも、何でもっておっしゃいましたわ?」
「いや、言ったけどさ」
「では、決まりですわね!」
再度、嬉しそうに力を込めて抱きついてくる綾華。
これは事件とばかりに黄色い歓声を上げながら散っていくメイドたち。
こうなりゃ、もう腹をくくるしかなかった。
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