ドМ彼氏。

最終話「初踏みの日」

15

　朝、目が覚めると、目の前に主任の顔があった。


「わあ、主任だあ」


　どこか夢心地で、私は寝起きのかすれた声をだす。あれかなー美里に話した男前ロボットが届いたのかなあ。主任そっくりじゃん。

　ロボットは、ロボットらしくパチ、と唐突に目をあけた。


「おはようございます」

「え、声そっくり……。本物ですか？」

「本物ですよ」

「な、なんで私のベッドで寝てるんですか」


　………………。


「それはつまり、駄犬は床で寝ろ……と。そういう……」

「ち、違いますよ！」

「いえ、床で眠るのが嫌というわけではないのですが」

「だから違いますって！急にいたからびっくりしただけで……」


　わー、本物の主任じゃん……まさか主任と寝るなんて……。


　ていうかさ、主任ってベッドで寝るんだ！？クローゼットの中とかベッドの下の隙間とかに潜んでるんじゃないんだ！？どうせそのどっちかで寝るだろうと思ってたから、びっくりしちゃうじゃん！

　でも、主任はそんなことよりも、さらにびっくりすることを言った。


「詩絵子様」

「なんですか」

「一緒に住みましょう」









「なんてこと言うんだよ！朝っぱらからだよ！？」


　昨日から今朝にかけての出来事を、会社に戻りながら語っていた私は、勢いよく美里に顔を向けた(チビ朔は牛丼屋でばいばいしたよ！)。


「いいじゃん、住めば？」

「なっ……！」


　そんなあっさり！美里ってば、この問題の重要性を、ぜんぜん分かってないな！？


「だってだって、よく考えてよ！一緒に住んで、一緒にいる時間が長くなっちゃったら、わたし……！」


　主任のこと、踏んでしまいそうで―――……。


「わたし……？」


　続きを言わないでいると、美里はこちらを覗き込んで聞き返してくる。
　どうしよ。美里に相談したいけど……。ちら、と美里を見てみる。彼女は視線の意味が分からない、というように首をかしげた。


「な、なんでもないよ……！わたしだってね、美里に言えないことのひとつやふたつあるんだからっ！」

「へえ。大人になったのね」


　て、美里は軽く流したけど……わー！やばいよやばいよ！なんか美里にも言えそうにない！美里にすら相談できないなんて……ピンヒールも履いちゃったし、実はかなり危ない世界に片足突っ込んじゃってるのかも！

　まさかそんな……私が主任を踏んでみたくなるなんて……。


　―――ハッ！！


　頭を抱えながら、私はふとそのことに気がついた。

　もしかしてこれ……すでに逆調教されちゃってる……？




『ドＭ彼氏。』-おわり-