185 / 188
最終話「初踏みの日」
12
しおりを挟む「結局付き合い続けることになったんだ?ふーん。そっか」
翌日、昼休憩で牛丼屋へ行く途中に打ち明けたところ、美里はたいして驚いてくれなかった。
「あれ?意外じゃないの?」
「だってあんた主任好きじゃん。でも私が言っても聞かないから、一回別れてみれば分かるだろうと思ってたわけよ」
「ほえ~美里すごいんだね。私はちっとも気付かなかったのに。だてに男とっかえひっかえしてないね?」
「ビビッとくる相手に出会えてないだけよ」
「私にもたまには相談してね?いつも知らぬ間に彼氏できてるけどさ」
「……そのうちするかもね。結婚、先こされそうだし」
「……」
けっ、こん!?
結婚って……そっか、そんなに驚くことじゃないのか。むしろ自然な流れなのか……。
「お、やっぱいたいた、清水ー!」
牛丼屋の手前で、チビ朔が声をかけてきた。ラフな普段着姿で、手には小さな紙袋を持っている。
「やっぱりなー今日は牛丼屋じゃないかと思ったんだよ。もうほとんど心が通じ合ってるってか運命だよな」
「最近は牛丼屋だもんね?」
私は美里に顔をむける。
「そうね。ここで会うことも多かったし」
美里の同意を得て、チビ朔に向き直る。
「運命じゃないみたいだね」
「おいおい、そんな冷静な返しがあるかよ。見ろよこれ」
チビ朔は持っていた小さな紙袋を持ち上げた。
「前に買ってた清水へのプレゼント。渡すのすっかり忘れててさ。はい」
「わー、ありがとう」
「いやーお前もそろそろあのドエム彼氏と別れる頃じゃないかと思ってさ。で、別れようってちゃんと言った?」
「言ったけど」
「おおー!」
「別れなかったよ」
「はあ?」
「ようやく気づいたんだ。私、主任のこと大好きみたい」
「ええっ!?」
驚くチビ朔に、私はさらに言った。
「そういうわけで、改めてごめんね」
チビ朔は耳をふさいだ。
「や、やめろよ!ごめんとか言うな!」
「『好きになってくれてありがとう』?」
「それもだめ!やだやだ!」
「な、なんて言えば……」
「とりあえず入ろうよ」
美里に促され、私たちは店に入り、注文をすませてテーブル席へ座った。
「まあ落ち着けよ。なんでそんなことになってんだよ」
間をおかずに、チビ朔は前のめりに聞いてくる。
「なんでって言われても……心のままに?」
「……俺は諦めろってことかよ?」
それについて、私は少し考えた。それからビッ、とチビ朔を指さした。
「個人の自由!」
チビ朔は私の指先を見てから、私を見た。
「……なるほど。んじゃ、俺は降りねーぞ」
「あっぱれね。すごい神経」
美里は小さく拍手をする。
「ふっ、こういうのはな、伝え続けるのが大事なんだ。カップルなんてうまくいかない時期が必ずくるわけだよ。そんで弱ったときにふと俺を思い出すわけだ。あの人となら、うまくいくのかもしれない……ってさ。そんときにばっちし受け止めちゃる。完璧だろ」
「へえ。そういう作戦もあるんだ。理にかなってる気もするね」
「ラブラブなときに他の男なんて見えないだろ。だから俺は、お前が弱るのを待つ」
決意を表すみたいに割り箸を割って、運ばれてきた牛丼を食べ始める。私と美里も「いただきます」と、ほかほかの牛丼に手を合わせた。
「そんで?」
美里が短く尋ねる。私は「そんで?」と質問の意図を聞き返した。
「踏めそうなの?主任のこと」
「踏めそうなのって……」
「あんたと主任の場合は、そこが重要な課題じゃない」
「まあ、そうかもだけど……」
私は昨日のことを思い返してみた。
0
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる