ドМ彼氏。

秋月 みろく

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最終話「初踏みの日」

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「結局付き合い続けることになったんだ?ふーん。そっか」


 翌日、昼休憩で牛丼屋へ行く途中に打ち明けたところ、美里はたいして驚いてくれなかった。


「あれ?意外じゃないの?」

「だってあんた主任好きじゃん。でも私が言っても聞かないから、一回別れてみれば分かるだろうと思ってたわけよ」

「ほえ~美里すごいんだね。私はちっとも気付かなかったのに。だてに男とっかえひっかえしてないね?」

「ビビッとくる相手に出会えてないだけよ」

「私にもたまには相談してね?いつも知らぬ間に彼氏できてるけどさ」

「……そのうちするかもね。結婚、先こされそうだし」

「……」


 けっ、こん!?
 結婚って……そっか、そんなに驚くことじゃないのか。むしろ自然な流れなのか……。


「お、やっぱいたいた、清水ー!」


 牛丼屋の手前で、チビ朔が声をかけてきた。ラフな普段着姿で、手には小さな紙袋を持っている。


「やっぱりなー今日は牛丼屋じゃないかと思ったんだよ。もうほとんど心が通じ合ってるってか運命だよな」

「最近は牛丼屋だもんね?」


 私は美里に顔をむける。


「そうね。ここで会うことも多かったし」


 美里の同意を得て、チビ朔に向き直る。


「運命じゃないみたいだね」

「おいおい、そんな冷静な返しがあるかよ。見ろよこれ」


 チビ朔は持っていた小さな紙袋を持ち上げた。


「前に買ってた清水へのプレゼント。渡すのすっかり忘れててさ。はい」

「わー、ありがとう」

「いやーお前もそろそろあのドエム彼氏と別れる頃じゃないかと思ってさ。で、別れようってちゃんと言った?」

「言ったけど」

「おおー!」

「別れなかったよ」

「はあ?」

「ようやく気づいたんだ。私、主任のこと大好きみたい」

「ええっ!?」


 驚くチビ朔に、私はさらに言った。


「そういうわけで、改めてごめんね」


 チビ朔は耳をふさいだ。


「や、やめろよ!ごめんとか言うな!」

「『好きになってくれてありがとう』?」

「それもだめ!やだやだ!」

「な、なんて言えば……」

「とりあえず入ろうよ」


 美里に促され、私たちは店に入り、注文をすませてテーブル席へ座った。


「まあ落ち着けよ。なんでそんなことになってんだよ」


 間をおかずに、チビ朔は前のめりに聞いてくる。


「なんでって言われても……心のままに?」

「……俺は諦めろってことかよ?」


 それについて、私は少し考えた。それからビッ、とチビ朔を指さした。


「個人の自由!」


 チビ朔は私の指先を見てから、私を見た。


「……なるほど。んじゃ、俺は降りねーぞ」

「あっぱれね。すごい神経」


 美里は小さく拍手をする。


「ふっ、こういうのはな、伝え続けるのが大事なんだ。カップルなんてうまくいかない時期が必ずくるわけだよ。そんで弱ったときにふと俺を思い出すわけだ。あの人となら、うまくいくのかもしれない……ってさ。そんときにばっちし受け止めちゃる。完璧だろ」

「へえ。そういう作戦もあるんだ。理にかなってる気もするね」

「ラブラブなときに他の男なんて見えないだろ。だから俺は、お前が弱るのを待つ」


 決意を表すみたいに割り箸を割って、運ばれてきた牛丼を食べ始める。私と美里も「いただきます」と、ほかほかの牛丼に手を合わせた。


「そんで?」


 美里が短く尋ねる。私は「そんで?」と質問の意図を聞き返した。


「踏めそうなの?主任のこと」

「踏めそうなのって……」

「あんたと主任の場合は、そこが重要な課題じゃない」

「まあ、そうかもだけど……」


 私は昨日のことを思い返してみた。

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