ドМ彼氏。

秋月 みろく

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最終話「初踏みの日」

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「でも、それが僕の思い上がりではなく、詩絵子様が僕を必要だと言ってくださるなら……僕とのこれからを望んでくださるなら……もう諦めたくない」


 主任の背中に、腕を回してみる。私をすっぽり包めるくらい、こんなに大きくて、大人で、仕事も出来て、みんなに尊敬されている主任が、だだをこねる子供みたいで、なんだか可愛く思えてしまった。

 でも、子供なのはやっぱり私の方なのかも。抱きしめられるだけで安心してしまってる。今ままで気付かなかったのが不思議なくらいだ。私、ほんとうに主任のこと大好きなんだなあ。

 気づいてしまうと、好きすぎて、どうすればいいか分からないくらい。私は力いっぱい腕に力を込めて、ぎゅうぎゅうに抱きしめ返した。返事の代わりみたいに。

 私が安心するのと同じように、主任も安心できるように。


「諦めないでくださいよ。大好きだって、言ってるじゃないですか」


 主任はいきなり私を抱き上げた。「わっ」と小さく声が漏れる。あまりにも軽々、私はたかいたかいをされていた。

 そうしてくるくる回りながら主任はこちらを見上げ、これまで見たことないくらい無邪気な笑顔で言った。


「僕も大好きですよ、詩絵子様」

「……は、はい」


 主任って……か、かわいい……かも。


「一生付き従いますね」

「えっ」


 そうやって回る主任の足が、ピンヒールの箱にあたった。箱が倒れ、中の赤いピンヒールが姿を現す。

 主任は構わず回っていたけど、主任と付き合い始めてからというもの、なにかと付いて回ってくるその赤いピンヒールを、私はじっと見つめた。




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