ドМ彼氏。

秋月 みろく

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「女ッ子会だぁ~~~!!」

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「あの、美雪さん……すみません」

「え?」

「えっと、主任と結婚してたのに……こんな……主任のこと相談しちゃうなんて……無神経でした……」


 申し訳なくなって、お皿のケーキをフォークでつつきながら謝罪する。美雪さんは優しく微笑んだ。


「私も以前は帝人さんをお慕いしていましたが、今考えると憧れが強かったように思います。なんでも自分の力で解決して、人にはっきり意見できるところが……私にはないところなので。恋愛の感情ではなかったのかもしれません」


 後ろでサンドラさんが「うんうん」と深く頷いている。


「そういうこともあるんですよ。自分の気持ちは、あんがい自分では見えなかったりします」


 自分の気持ち……。心の中で反芻する。私は自分の気持ち、ちゃんと見えてんのかな……。


「まったくもって美雪殿のおっしゃるとおりでござる」


 サンドラさんしきりに頷きながら言った。


「人の心というものは、表面には常に巧妙なだまし絵が描かれておる。それは固定観念であったり、偏見であったり、思い込みであったり……多岐にわたるがの。騙されてはいかんのじゃ。だまし絵の向こうを見なくてはならぬ」


 心の表面はだまし絵……。そうかもしれない。丸裸の心を見据えるには、どうすればいいんだろう。だまし絵を洗い流した私の心は、主任を求めてるのかな……。


「私、いっかい真剣に考えてみます。2人とも、ありがとう」


 あまり顔を上げられず、視線だけ向ける。2人はなにも答えずに少し笑っていた。それが優しく見守ってくれているみたいで、気恥ずかしいのに嬉しくなる。

 なにさなにさ。なんだかんだ、優しいじゃんか……。


「よしっ!」


 湿っぽくなった気持ちを入れ替えるため、私は勢いよく立ち上がった。


「せっかくの女子会ですから!カラオケでもいきましょう!」

「からおけ?」

「歌を歌うための施設でござる。美雪殿は未体験でござるな」


 首をかしげる美雪さんに、サンドラさんが説明する。


「うっそ、カラオケ行ったことないんですか?」


 美里が驚いて尋ねる。


「そうですね。あまり縁がなかったようです。それでは、費用は私が払いますね」

「え、そんな……」

「サンドラ」

「はいでござる」

「せっかくの詩絵子さんの誘いです。これから『からおけ』に参ります。私が幼少期より貯めている貯金をいくら使っても構いません。用意してください」

「あ、いえ、美雪さん、私のポケットマネーでじゅうぶんいけ」


 私は財布を確認した。小銭がジャラジャラ音を鳴らす。


「あ、やっぱりいけませんでした。すみません」


 悲しく財布へ呟く私の肩に、美里が腕を回す。ふわ、とすっかり慣れ親しんだいい匂いがした。


「よっし、美雪さんには食事ごちそうになったし、カラオケはお姉ちゃんがおごっちゃろう」

「美里ー!」

「元気だしなよ」


 ぽんぽん、美里は私の頭を軽く叩く。
 美里……美雪さん……サンドラさん……。

 ううっ、みんな優しい……優しくないのは、私ばっかりだ。
 ほんとうに、ちゃんと考えよう。向き合ってみよう。主任と……自分の気持ちと……。私は目に滲む涙を拭って、顔を上げた。


「さあ!今日はパァアーーーー!!と、歌っちゃうぜーーーっ!!」


 私たちはカラオケで朝まではしゃいだ。



 つづく♪


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