158 / 188
「クソバカ駄犬」
2
しおりを挟む「なんてこと言うの!なんてこと言うの!私のガラス細工ハートが壊れちゃうじゃないの!ひどい!ひどすぎる!」
「まあまあ、本当に言いたいのはここからよ」
「ま、まだあるの!?」
やだやだ聞きたくない!美里の言うことは的を得てるだけにかなりえぐられるんだけど!だてに何年も友達やってないね!?
「詩絵子、さんざん言ったけど、そんなあんたにもいいところがあるわ」
耳を塞いで怯えていた私は、その言葉に顔をあげる。いいところ……?
「よかったー、そうだよね。私にだって、いいところのひとつやふたつやみっつくらい。あって当然だよね。そんでなに?この美貌かな?」
「美貌はないわ」
「あるわい」
「ズバリ言うわよ!あんたのいいところは―――」
ごくり。美里がわざとらしく間をあけてもったいぶるから、私は思わずかたいつばを飲み込んだ。立てた人差し指をこちらに向けて、美里は静かに続けた。
「主任に見初められたことよ」
……………………………。
思わず顎が落ちて、アホの子みたいに口を開いてしまう。一拍おいて、「はあ?」と、気の抜けた声がずるずる漏れた。それ、『私の』いいところじゃないんじゃない?
「考えてもみなさいよー、前から言ってるけど、主任はあんたにもったいないくらいの好条件を全部兼ね揃えてんのよ?暮らしていくのに十分な収入、社会的にも立派な地位、一目おかれるほどの容姿、そしてなにより、あんたのわがままをすべて受け入れる絶大な包容力!」
「……」
……なるほど。チビ朔も前にそんなことを言っていた気がする。
「でもね、美里ちん、私は向井主任は好きでも、裏のドエム主任は微妙なんだよ。表側にしか興味ないの。みんなに人気でかっこいい主任がいいの」
「……なんて薄っぺらいことをいうのよ、あんたは」
呆れたように呟いたあとで、美里は長く溜息を吐いて急に真面目な顔になった。ささやかに吹いてきた風が、彼女の髪をすくって、憂いを帯びた横顔が見える。
「愛ってね、そんなに簡単なものじゃないの」
「……」
なんかスイッチ入ったな……。
「詩絵子、あんたは心から人を愛したことがある?私はまだないわ。だから分かるの。主任のように、1人の人間をまるごと受け入れ、心のままに愛せる人がどれだけ尊いか……。人を愛せば、もっと恐れるものよ。傷つくことを恐れるのよ。主任がそうじゃないのは、自分よりもあんたが大事だからよ」
「……」
「そういう愛は本物なんだと思う。本物の愛を感じたとき、迷ってちゃダメなの」
その憂いの目で、美里はこちらをみた。このとき私、どがーんきました。美里の言葉がひしひしと汚れた価値観に染み込んで、内側から溶かしてくれました。
「そうだね美里!なんか分かった気がするよ!私、もっかいデートに誘ってみる!」
「ふう。やっぱちょろいわ」
私は洗いたてのシーツのようにまっさらな気持ちで、主任の元へ向かった。けれど、せっかく意気込んでオフィスに戻ったのに、主任は外出中で夜まで戻らないとのことだった。
「ちぇー。せっかく踏ん切りついたのに。ま、いいや。家に行っちゃお」
夜。私は会社帰りに主任の家に来た。相変わらずでかくて綺麗なマンションのエレベーターで……。
「おう、清水ー」
0
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる