ドМ彼氏。

秋月 みろく

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「クソバカ駄犬」

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「なんてこと言うの!なんてこと言うの!私のガラス細工ハートが壊れちゃうじゃないの!ひどい!ひどすぎる!」

「まあまあ、本当に言いたいのはここからよ」

「ま、まだあるの!?」


 やだやだ聞きたくない!美里の言うことは的を得てるだけにかなりえぐられるんだけど!だてに何年も友達やってないね!?


「詩絵子、さんざん言ったけど、そんなあんたにもいいところがあるわ」


 耳を塞いで怯えていた私は、その言葉に顔をあげる。いいところ……?


「よかったー、そうだよね。私にだって、いいところのひとつやふたつやみっつくらい。あって当然だよね。そんでなに?この美貌かな?」

「美貌はないわ」

「あるわい」

「ズバリ言うわよ!あんたのいいところは―――」


 ごくり。美里がわざとらしく間をあけてもったいぶるから、私は思わずかたいつばを飲み込んだ。立てた人差し指をこちらに向けて、美里は静かに続けた。


「主任に見初められたことよ」


 ……………………………。

 思わず顎が落ちて、アホの子みたいに口を開いてしまう。一拍おいて、「はあ?」と、気の抜けた声がずるずる漏れた。それ、『私の』いいところじゃないんじゃない?


「考えてもみなさいよー、前から言ってるけど、主任はあんたにもったいないくらいの好条件を全部兼ね揃えてんのよ?暮らしていくのに十分な収入、社会的にも立派な地位、一目おかれるほどの容姿、そしてなにより、あんたのわがままをすべて受け入れる絶大な包容力!」

「……」


 ……なるほど。チビ朔も前にそんなことを言っていた気がする。


「でもね、美里ちん、私は向井主任は好きでも、裏のドエム主任は微妙なんだよ。表側にしか興味ないの。みんなに人気でかっこいい主任がいいの」

「……なんて薄っぺらいことをいうのよ、あんたは」


 呆れたように呟いたあとで、美里は長く溜息を吐いて急に真面目な顔になった。ささやかに吹いてきた風が、彼女の髪をすくって、憂いを帯びた横顔が見える。


「愛ってね、そんなに簡単なものじゃないの」

「……」


 なんかスイッチ入ったな……。


「詩絵子、あんたは心から人を愛したことがある?私はまだないわ。だから分かるの。主任のように、1人の人間をまるごと受け入れ、心のままに愛せる人がどれだけ尊いか……。人を愛せば、もっと恐れるものよ。傷つくことを恐れるのよ。主任がそうじゃないのは、自分よりもあんたが大事だからよ」

「……」

「そういう愛は本物なんだと思う。本物の愛を感じたとき、迷ってちゃダメなの」


 その憂いの目で、美里はこちらをみた。このとき私、どがーんきました。美里の言葉がひしひしと汚れた価値観に染み込んで、内側から溶かしてくれました。


「そうだね美里!なんか分かった気がするよ!私、もっかいデートに誘ってみる!」

「ふう。やっぱちょろいわ」


 私は洗いたてのシーツのようにまっさらな気持ちで、主任の元へ向かった。けれど、せっかく意気込んでオフィスに戻ったのに、主任は外出中で夜まで戻らないとのことだった。


「ちぇー。せっかく踏ん切りついたのに。ま、いいや。家に行っちゃお」


 夜。私は会社帰りに主任の家に来た。相変わらずでかくて綺麗なマンションのエレベーターで……。


「おう、清水ー」



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