ドМ彼氏。

「デートしましょうよ」

6

　ひとつ椅子をすすめてみる。すると主任はそこから飛び上がり、体操選手なみの微動だにせぬ見事な着地をしたが……そっ……と椅子を横にどかし、代わりに空中椅子をした。


「……」


　……よし。帰ろう。


「失礼しましたー」


　空中椅子の主任をおいて、私は会議室をあとにした。


「詩絵子、主任、なんだったの？」


　オフィスに戻ると、美里が聞いてきた。


「それが意味わかんないの。土下座からはじまって正座でしょ。次に椅子タワー制作、ほんでてっぺんまでバク宙逆立ち決めて、最後は空中椅子だよ？意味分かんないよね」

「あー……あんたもついにイカれたようね」


　結局主任とは顔を合わせないまま夜になり、私は１人帰宅した。ベッドで漫画を読みながらかっぱえびせんをつまんでいると、主任からメールが届いた。今日のメールは(主任にしては)とても短かった。



「詩絵子様、また社内アンケートの件で申し訳ないのですが……ストーカー被害にあっているというのは、本当でしょうか？今もかっぱえびせんをつまみながらのんびりされているように見受けられますが、その実深く悩んでいらっしゃるのでしょうか？(詩絵子様、口元にかっぱえびせんのカスがついてしまっていますよ。もしこのあと外出するようなことがあれば、かっぱえびせんのカスをつけたまま歩き回ることになりますので、詩絵子様が恥ずかしい思いをしてしまわないか大変心配です。今日はもう夜も遅いですし、外出しないことをおすすめしますよ)。もし悩みがあるようでしたら、思考の浅い駄犬では力不足かもしれませんが、ぜひ一度お話を聞かせていただければと……」


　……これ、ボケてんのかなあ？


　つ～づくッ！