ドМ彼氏。

秋月 みろく

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「最強のライバル?」

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「詩絵子ちゃん、ほんとありがとうねえ。はいこれ、お土産。こちらは詩絵子ちゃんの彼氏?」



 土産を私に押し付け、伯母さんは興味深そうに主任を手で示した。



「向井帝人と申します」


「帝人すごいんだよ!ケーキつくれるの!」


「こら!なに呼び捨てにしてるの!」


「ああ、構いませんよ」


 主任はいつもの主任モードで伯母さんの応対をした。主任モードの主任は、どちらかと言えば冷たい感じなんだけど、伯母さんはなぜだか、いつもよりちょっと高い声でキャピキャピ喋った。


 伯母さんが主任に夢中になっている隙に、詩音がふいに手招きをして私を呼んだ。しゃがんでやると、詩音は耳元でこっそり言った。



「詩絵ねえちゃん、ちゃんとあれ持ってる?」


 あれ……って。


「ああ、あれ。あれ?あれどこやったっけ」


「!!うそっ!もお!なんでなくすの!家の中にあるでしょ!」


「無くしたらどうなんの?」


「もう一個、あるけど……」


「ウソウソ。じゃじゃーん。ポケットにいれてたよ」



 私は玉の紐を指に引っ掛けて回した。からかったから怒ると思ったけど、詩音はホっとした顔になった。


 あれ?なんか、ちょっと可愛いじゃん……。


 やっとそう思えるようになって、ちょっぴり仲良くなれたけど、詩音は伯母さんに手を引かれて帰っていった。


 伯母さんは最後に『いい男じゃないの!逃がしちゃだめよん!』なんて明るくウインクしていったけど、私はなんだか物凄く寂しく感じられて、見えなくなるまで詩音の背中を見送っていた。


 ちょっと泣いてしまいそうだった。その時、一緒に詩音を見送っていた主任が、私の服の裾をちんまり掴んだ。



「詩絵子様……」


「はい」



 なんだこの女子力の高い仕草は、と思いながら、哀愁ただよう主任の横顔を見上げる。



「子供……欲しいですね」


「……」




 ひぃいいい!!






『こんばんは。楽園のような詩絵子様の清らかなお宅に、招かれてもいないままお伺いして申し訳ありませんでした。楽園……そう、そこはまさに楽園でした。このようにみすぼらしい駄犬が足を踏み入れてしまうのが躊躇われるほどに、浄化された美しい世界でございました。ただ一つ気になることが……詩音様は、なぜあの靴を履いてくださらなかったのでしょう?それどころか興味も示しませんでした。駄犬なりに考え抜いたデザインでつくった靴だったのですが、お気に召さなかったのでしょうか。あ、詩絵子様に誤解されたくないのですが、僕があの靴をつくったのは、詩音様に踏みつけてもらうためではありません。純粋に似合いそうだと思い、詩音様を見て創作意欲を掻き立てられたので用意させていただきました。では、詩絵子様に用意したピンヒールはどうなのか、と察しのいい詩絵子様はここで疑問に思われたことでしょう。包み隠さず告白いたしますが、こちらはもちろん、踏んでいただくために用意しました(ちなみにこちらもつくりましたので、デザインが気に食わないのであれば、いくらでもつくり直します。独学で身につけた技術ですので、希望に応えられないこともあるかもしれませんが……)ところで、ここでもしもの話をしたいと思います。もしも……もしもなんですが、詩音様のご両親がなんらかの理由でいなくなられた場合、詩音様はどうなるのでしょう?そのことを考えると、とてつもなく不安になります。まだ6歳の詩音様が孤独になってしまうなんて、考えるだけで胸が痛みますが、そういう事態に陥ってしまった場合、親族である詩絵子様のご家族が引き取られる可能性はかなり高いと考えられます。それでしたら、この駄犬も不安で心落ち着かなくなることもありませんし、もしなにかの理由で育てていくのが厳しいようでしたら、最善の環境を整えさせえていただく所存です。まあ、もしもの話しですので、詩音様のご両親がいつまでも健在で、淀みない愛情で詩音様をお育てになることが、最もいいことなのは間違いありませんが。そういえば、最近会社で始まった新企画がありますね。この企画はかなり多忙を極めることになりそうですので、おそらく僕はクリスマスを会社で過ごすことになりそうです。ただ、せっかくのクリスマスですので、ロウソクを持つ詩絵子様の姿を拝見できましたら、それだけで僕は眼福でございますので……』




「あー、もうすぐクリスマスかぁ」



 クリスマスって言えば、前に美雪さんがなんか言ってたっけ。


 な、なんか……嫌な予感……。



 つづく☆


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