ドМ彼氏。

秋月 みろく

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「最強のライバル?」

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「あー。主任は気づかれずに家を出れるから。ていうかあんた、呼び捨てはダメだって」



 わた菓子を作りながら答える。


 そういえば主任、さっきは『明日といわず永遠に』とか言ってたのに、一体どこに行ったんだろ。


 隣の家に戻って、詩音を家に帰さないための完全犯罪計画でも立ててんのかな。



「もしかしたら、隣の家にいるかも」


「帝人、隣に住んでるの?」


「まあそんな感じ」



 それにしても、主任ってもしかすると、詩音や私と実際に触れ合うよりは、眺めたり写真を撮ったりする方が好きなんじゃないのかな?


 実はものすごくシャイなんだろうか。




「あ!」



 私がわた菓子をくわえ、続けてもう一つ作ろうとしたところで、詩音が声を上げた。



「詩音も、もう一回ピンク作りたい!」



 私はグラニュー糖のピンクを、機械に投入しようとする格好で固まった。グラニュー糖の量は残りわずか。あと一つ分というところだ。



「チッ。気づいたか」


「しえ姉ちゃんの方がいっぱい食べてたよ!」


「うるさいなあ。これは私のなんだから、私の方が多くて当たり前じゃん。分けてやってるだけ感謝して欲し……」


「ずるい!詩音だって…‥」



 喧嘩が勃発しそうになったところ、私たちは同時にハッとした。これじゃあ、全く成長してない……。昼に何度もやった流れだよ!



「……」


「……」


「……ま、まあ、この半分なら……譲ってやってもいいけど……」


「……し、詩音、オレンジで我慢しても……いいけど……」


「……」



 ……マジ?



「じゃ、じゃあそうする……?」


「え?」


「あ……うそだよ。冗談、冗談」



 ふと、私はあることを思いついた。



「そうだ!こうしよう!」


 残りのグラニュー糖を全部わた菓子にして、私は詩音の手を引いてベランダに出た。


 部屋から漏れる灯りで、ぼんやり明るいベランダは、いつ雪が降ってもおかしくないくらい寒かった。



「詩絵ねえちゃん、寒いよ」


「ふっふっふ、これで寒さなんて吹っ飛んじゃうんだから!」



 わた菓子を小さくちぎって、高く放る。まるで雪みたいにわた菓子は落ちてきて、私はそれを口でキャッチした。



「ほらね。こうやって食べると、すんごく美味しい。そおれ!雪だあ!初雪だあ!!」



 私は次々とわた菓子をちぎって投げた。その内に詩音も楽しんで、大口を開けてわた菓子を追いかける。


 私たちはベタベタになりながら、わた菓子を食べた。全部なくなった頃には、髪や服にわた菓子がついて、体はずいぶん冷えていた。



「ねえ、詩絵ねえちゃん。また遊びにきてもいいかな……」



 手すりに掴まって体を揺らしながら、詩音は俯いたまま言った。



「え~また来たいの?」


「わ、わた菓子食べにだよ!ここに来れば、いつでも食べれるから!」


「グラニュー糖は持参してね」



 それから、私はちょっと気まずく思いながら頭を掻いた。



「あのさ、今日はしえ姉ちゃんも、ちょっと悪かった、かも」



 ちら、と詩音を見る。詩音はポケットからなにか取り出した。



「これ、あげる」



 クリスマスツリーの飾りによくついている、丸いキラキラの玉だった。私はその紐を指にひっかけ、顔の前まで持ち上げた。玉は光を反射させながら、ゆらゆらと揺れる。



「なにこれ。もらっていいの?」


「ぜったいになくさないでよ。次来た時になくしてたら、もうあげないから!」



 玉の向こうで、詩音が私を見上げる。玉は艶やかに光って綺麗だった。けれども、詩音の目はもっとうるうるしていて、もっと綺麗だった。


 そこにちらほらと、綿毛のように白い何かが舞った。



「雪だ……」



 私が呟くと、詩音は空を見上げ、その小さな顔にじんわりと笑みを広げた。


 ちらちらと降り落ちる初雪と、丸い玉の向こうの笑顔に、なんだか胸のあたりがあったかくなる。



「へへっ。部屋に飾ろっかな」



 私が笑うと、詩音も笑った。「寒いね」「寒いね」と言い合い、部屋に戻る。とってもいい気分だったんだけど、部屋に戻ると、子供用の赤い小さな靴が床に置いてあった。



「……」



 なるほど。これの準備でいなかったのか。


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