97 / 188
「最強のライバル?」
1
しおりを挟む「ええっ!?子供を預かってほしい!?今日!?」
それは会社を辞めるとか、美雪さんの騒動とか、身の回りのあらゆるゴタゴタが一段落を迎え、ようやくゆったりした気持ちで目覚めた土曜日の朝だった。
母方の伯母からの唐突な電話により、優雅な休日は今まさに撤廃されようとしていた。
「なんでなんでなんで~!?旅行に行く!?久しぶりに夫婦水入らずで、って……え!てことは泊まりで預からないといけないの!?」
『あんたねえ、一ヶ月前にお願いしたときは、二つ返事でオーケーオーケーって言ってたじゃない』
呆れた声で伯母はため息をつく。電話の向こうで、子供が歌っている声が聞こえていた。
「えー……まじか。聞いたような気がしないでもないような気がしないでもないような」
『今から連れていくからお願いね』
「今から!?」
『それはそうよ』
「え~子供、詩音ちゃんだっけ?何歳?」
『6才よ。幼稚園の年長組。来年から小学生ね』
へえ~。思わうず感嘆の息が漏れる。
従姉妹の櫻詩音(さくらしおん)。3・4才くらいの時に会って以来だけど、もう小学生になるのか。ついさっき産まれたような気がするのに。
「そうなんだあ。子供の成長ってはやいんだね~」
『そうよ、子供の成長なんてあっという間よ。あ、ついた。すぐ行くわね』
「はやっ!」
電話で言ったとおり、伯母はすぐに子供と荷物を連れてやってきた。最後に会ったときと比べて、詩音はめざましく成長して伯母の横にいた。
パッツンの前髪と、胸の下までの細い髪。赤いダッフルコートに、その下にちょこっと見えているチェックのスカート。黒いタイツ。
今時の子供は、こんな格好するんだな~と思わず感心する。もしかして、私よりいい服着てんじゃない?
久々に会ったからか、詩音はすっかりお姉さんという雰囲気だった。
「ほら、詩音。従兄弟の詩絵子お姉ちゃん。小さい頃いじめられたの覚えてる?」
「いじめてはないよ」
伯母の足の横から私を見上げ、詩音は「知らない!」と大きな声で答えた。私は詩音の前にしゃがんで、ぷっくらした頬をつねった。
「このクソガキ。お菓子おごってやったじゃないのよ~」
「知らない知らない!このうんこ!」
「伯母さん。この子めっちゃ口悪い」
「そういう言葉はすぐに覚えてくるのよね~。あんたの小さい頃にそっくりでしょ?」
伯母は詩音の頭に手を置いて言った。言われてみれば、私もかなり生意気なクソガキだったような気がする。
ていうかそれより……。
「こいつ、顔までそっくりじゃないの」
自分でも分かるくらい、詩音と私はよく似ていた。ちょ~っと第一印象を悪くしがちな、生意気そうな目とか、顔の形とか、髪に癖がなくて細いところとか。
「そうそう。産まれたころから似てたけど、最近ますますね。あんたを育ててるみたいで嫌な気分よ」
「はあ!?全然似てないじゃん!」
詩音は小さな顔を歪める。
「こいつ」
詩音の顔を両手ではさんだところ、私はふと嫌なことに気がついた。
私にそっくりな、少女。いや、幼女か?まあそれはどっちでもいいんだけど……。これ、とてつもなくヤバイ匂いがする……。
たぶん、あの人って私の顔けっこうタイプなんだろうし、子供っぽい幼児体型もタイプで、でも詩音は子供っぽいどころか本物の子供で……。
あのお方の好みド真中、超ド直球ストレート。極めて小さい針の穴を通すような、奇跡的なまでに理想の女王様が……。
今ここに。
「お、伯母さん……やっぱり詩音を預かるのは、やめた方がいいような……」
背筋がひやりとして、私はそーっと顔を上げる。伯母はすぐに咎めた。
「なに言ってんのよ今更。すぐ出発しないといけないんだから。この子の分、予約取ってないし」
「いや……それはそうなんだけど。私の近くにはかなり危険な人がいるというか」
「もう。直前になって不安になったの?詩音も6才だし、身の回りのことは大抵できるから。あ、もう行かないと。じゃあ詩音、いい子でいるのよ」
「え、そんな……!本当に……」
伯母さん腕時計を見て、せわしない様子で詩音の頭を撫でた。詩音は「はーい」とものぐさげに手を上げる。
「お、伯母さん!」
私の声を背に、伯母は颯爽と去っていった。
―――こうして、かなりの不安を孕んだ私と詩音の短い共同生活は開始した。
0
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる