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美里の裏話「惨めだったわあ……」
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しおりを挟む「なになに、一体なにがあったのよ」
ベンチに腰をおろし、美里に問いかける。
「私が倉庫を出てからのことなんだけどさ、あのまま帰るわけにもいかないじゃん?このままじゃやばいと思って、人を探しに行ったのよ」
「うん、確かにやばかったよ……柊さんってば、カッター持ち出してきたんだよ?もう正気じゃないって感じでさ。すんごい怖かった……」
昨日の出来事を振り返ると今でも寒気がして、あの時もし主任が来てくれなかったらと思うと、背筋が凍る思いだった。
「まあ昨日は主任がかっこよく助けてくれたみたいだけど、私はここでもう一人、あんたのために頑張った男のエピソードを発表したいと思うの」
そう切り出し、美里は倉庫を出てからのことを話し始めた。
会社内にもう人はいなかった。美里は慌てて会社を飛び出し、そこでたまたま出会ったのがチビ朔だったという。
『あ、あんた……!』
珍しく必死だった美里は、チビ朔を見つけるなり一目散に駆け寄った。彼も美里に気づき、気さくに声をかけてくる。
『おお、ボインの姉ちゃん。なになに、乳でも揉ませてく』
『うりゃあッ!!』
『べしっ!!』
駆け寄る勢いを乗せて、美里はチビ朔の腹に拳を突き刺した。
『なにすんだよ急に!!』
『ご、ごめん!思わず……!』
「へえ。美里謝るんだ」
「ほとんど初対面だったからね」
それはともかくとして、美里はチビ朔に事情を話し、助けを求めた。話を聞いたチビ朔は、子供のように目を輝かせたという。
『マジ!?絶好のチャンスじゃん!』
『ちゃ、チャンス……?』
『ふっはっはっ、あいつを俺様に惚れさせる作戦第三、かっこよくピンチを助けるの巻。てか、すげーちょうどいいタイミングじゃん。見てみて、これ』
チビ朔は持っていた厚めの小さな紙袋を、顔の横まで持ち上げた。
『今日あいつへのプレゼント買ってきたの。女の子はプレゼントに弱いもんじゃん?で、どこ行けばいいの?』
なんだか分からないが乗り気だったので、美里はすぐに会社までチビ朔を誘導した。二人は会社には入らずに、外の窓から倉庫の中を覗いた。
ブラインドが少し上がっていたため、私と柊さんたちの姿を見ることが出来たという。
『ねえ、なにやってんのよ。こんなところで見てないで、早くしないと……』
美里はハラハラして言ったが、チビ朔は余裕の態度で答えた。
『バカだね姉ちゃん。こういうのはさ、もっと温度が高まってヒートアップして来たところで駆けつけるのが、最高にカッキーんだよ。ほら、ここなら裏口もあるし、すぐに入れるじゃん?』
チビ朔は窓の横にある倉庫のドアを示す。
『でもいいのかなあー。あいつ絶対、俺様に惚れちゃうよなあー。困るなーこんな簡単に惚れられちゃあ』
ブラインドの隙間を覗くチビ朔は、わくわくしながら言った。なんだか可愛かったので、美里は頭を撫でて飴を与えたそうな。
『なんで急に飴なんだよ。しかも苺ミルク味って、俺はガキじゃねーぞ』
と、言いつつも、飴玉を口の中で転がすチビ朔は、至福の表情をしていたそーな。
しかし事態は一変する。柊さんが、カッターを取り出したのだ。
『やべッ!あのオバハン、カッター出したぞ!』
これにはチビ朔も焦り、急いで裏口のドアに手をかけた。
がちゃがちゃ!
『…………』
ドアノブの硬い手ごたえに、チビ朔は一瞬にして目を点にする。
『……鍵、かかってる……』
あまりに不憫だったので、美里は責めることが出来なかったという。開かない扉の前にいてもしょうがないので、二人は急いで正面玄関へまわった。
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