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■死ぬとき
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しおりを挟むどうやら軍の飛行船が追ってきたらしい。この飛行船よりずっと船体が大きく、ゴンドラは金属に覆われている、立派な飛行船だ。ゴンドラの先端には細長い円筒が突き出しており、ライアンが「おいおい、速射砲つきだぞ」と言ったから、速射砲という、銃のようなものなのだろう。
それだけじゃない。飛行船のほかにも、小型の航空機が二台、あたしたちの飛行船を挟みうちにすうような進路で迫ってきている。「複葉機まで!」とライアンが言ったから、複葉機という乗り物なんだろう。人が乗っている船体を中心として、上下二枚に重なる翼が左右に広がっている。トンボみたいな形の乗り物だ。
追い上げてくる飛行船たちを確認し、ライアンはコックピットにずらりと並ぶ計器類をはたいた。
「くそ! なんてしつこいやつらなんだ! 俺は食べ物でもなんでも、ねばねばしたしつこいのが大嫌いなんだ!」
「そういえば、当たり前に操縦席に乗ってたけど、ライアンは操縦士の免許を持ってるの?」、ふと気になって尋ねる。
「もちろん持ってないが、操縦は何度かしたことあるから大丈夫だ! それよりも今はあいつらをどうするかだ。気嚢の内部まで銃弾が貫通したら、この飛行船は爆発するかもしれない」
旋回するプロペラの音が、風音に紛れて近づいてくる。複葉機がすぐそばに迫ってきた。
「おい貴様ら! さっさとそのバケモノを渡せ!」
複葉機から叫ぶ人物を見て、ライアンはいよいよ頭を抱えた。
「ガルパス……あんたの顔はとっくに見飽きたよ! しつこいにもほどがあるぞ!」
「怪物を取り戻さんことには、懸賞金もでらんのだ! おとなしくそいつをよこせ! さもないと飛行船ごと撃ち落とすぞ!」
おじさんとは反対側の複葉機も迫ってくる。それに気が付いた時には、船体の兵士が持つライフルの銃口に、火花のような光がちかちか見えていた。あたしはリーススを床に押し付け、その上に覆いかぶさった。
けたたましい音で窓が弾ける。ゴンドラ内のあらゆる箇所へ銃弾がぶつかる。
「どうする! これじゃあ顔を上げることもできない! 本当に墜落するぞ!」
ライアンも操縦席にしゃがみこんで叫ぶ。その背中にはガラスの破片が散らばっている。
あたしは考えた。どうすればこの状況を打破できるのか。こちらに武器はない。それに比べて、相手は武器を備え、小回りの利く航空機と立派な飛行船で攻めてくる。どう考えても、一方的な展開しか見えない。
「レーニス、そのままじっとしてて」
コルロルが背中に手を置いたのが分かった。あたしは少し顔を上げる。
「どうするの? いったん着地するっていうのは?」、思いつきの策を口にする。
「その間にこの飛行船がダメなる。こんなに撃ってこられちゃ、ライアンも操縦できないし。撃ってくるヤツを止めるしかない」
「……まさか、行く気? もう、飛べないでしょう?」
すかすかの翼に目がいく。銃弾が翼を貫通し、黒羽が舞った。
「そうだね。翼はもう役に立たない」
「行ってどうする気だ?」、しゃがんだまま、ライアンはこちらに顔を向ける。「相手と心中するつもりか? 飛べないなら、一緒に墜ちるしかない」
「……そうかもしれない」
「やめろコルロル。なにか手があるはずだ。今いけば、さすがの君も死ぬぞ」
あたしたちは短く沈黙した。プロペラや銃弾、風の音に満たされたゴンドラの中で、死を思わせる緻密な沈黙だった。
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