怪物コルロルの一生

秋月 みろく

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■脱出

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 そのころには、コルロルはすっかり立ち上がり、数人の兵を手と触覚を使って持ち上げ、隊長の銃も触覚によってすぐに巻き取られていた。

「リーススレーニス! 走れ! 走れ走れ! 飛行船に乗るんだ!」

 あたしたちは全力で飛行船へ走った。あとを兵士が追いかけてきて、銃を構える。ライアンは飛行船からおじさんの荷物を取り出し、「俺からプレゼントだ!」と兵の前に中身をぶちまけた。

 この時あたしは、人の丸裸の欲というものを、初めてみたかもしれない。それまで従順に任務を遂行していた兵士たちが、一斉に馬から飛び降り、我先にと金や宝石に手を伸ばすのだ。

「すごい……これが、欲……」

「感心してる場合じゃないでしょう! はやく乗って!」

 リーススに腕を引かれながらも、あたしはその光景から目を離せなかった。隊長と数人の兵士は制止しているが、ほとんどの兵士は地面の金に群がり、奪い合いまで起こっている。 

「これって、いるの? 欲って、必要なもの? なぜ当たり前に備わっているの?」

「今はそれどころじゃない! ライアン急いで!」

 ライアンは「早い者勝ちだぞー!」と金を奪い合う兵士へ叫びながら、ゆうゆうとおじさんの元へ向かう。

 おじさんの横に足を折り、縄を切る。「金は至高の芸術品」、ライアンは兵士の争いを見渡し、「あんたの言う通りだったな」と、あっけにとられるガルパスおじさんの二の腕を叩くと、すぐに戻ってきた。こちらへロープを投げてよこし、自分は操縦席に飛び乗る。

「そいつを座席に縛ってくれ!」

 言われた通り、操縦席の背もたれにロープを数周させ、硬く結ぶ。そうしている間に、飛行船が地面から離れる感覚があった。船内が揺れ、リーススは「飛んだ……今飛んだわ」と小さくはしゃぐ。

 飛行船は湖のちょっと上あたりを不安定に滑空し、兵士たちの頭上へと向かう。金をひとしきり拾い終えたらしい兵士らは、統制された動きを見せ始めているが、まだ混乱の中だ。

「コルロルー!! つかまれ!!」

 あたしはコルロルへロープを投げようとしたけど、飛行船の高度はまだそれほどあがらず、騎馬の頭上すれすれのところを推進していく。飛行船の起こす風が木々を揺らし、地面の草をなぎ倒し、兵士の軍帽を飛ばす。

「逃がすなー!! やつらを逃がすんじゃない!」、隊長は不明瞭な指示を叫び、兵士はコルロルの翼や腕にしがみつく。しかし直前まで進むと、彼らは地面にひれ伏して飛行船に当たるのを避けた。コルロルだけが立っていた。羽をむしり取られたような翼と、傷だらけの体が、飛行船の灯りにさらされ―――……すれ違うようにして、飛行船はようやく高度を上げ始めた。

 こちらを見あげる兵士たちの姿が、みるみるうちに小さくなり、すぐに森の木々に阻まれ、見えなくなった。


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