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■ヒーローライアン
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しおりを挟む「おい待てコルロル」
「いいのか怪物、レーニスを殺すぞ!」、そう叫ぶガルパスの後ろで、男がレーニスのこめかみにライフルを向ける。
「私の目当ては貴様にかけられた懸賞金だ! お前がおとなしく捕まれば、レーニスは解放しよう。ただし、飛ぶのはダメだ、歩いてここまで来い! 次にその翼を広げた瞬間、引き金を引くぞ」
頂上までの道のりを目で追って確認する。おおかた、この道のどこかに爆弾がしかけてあるんだろう。俺の役目は、それとなくそこまで誘導することだ。爆発に巻き込まれない程度に。ガルパスが立っている場所に被害がなく、爆薬を隠しやすい場所……おそらく、あそこだ。
頂上まで道なりに行こうと思ったら、横に大きく突き出した道を迂回しなければいけない。コルロルがそこを通れば、ドカーン!って寸法だろう。
そこまで考えて、ふと気づいた。テディーがいない。腕に抱えていたはずなのに。辺りを見回すと、コルロルが翼をたたんだのが見えて、俺は少し驚いた。
「コルロル、おとなしく従う気か?」、意外だった。「死ぬのは何より怖いんだろう? あいつらの言いなりになってあそこへ行けば、きっと殺されるぞ」
「僕が殺される?」、やつは歩きだす。「そんなことよりも、僕があいつらを殺してしまわないかってことの方が心配だよ」
違うんだコルロル、君はレーニスにたどり着けない。
俺はコルロルを殺そうとするレーニスを止めた。だがそれは、とてもあの少女に怪物を殺せるとは思えなかったし、なによりやつの死ぬタイミングがそのときではなかったからに過ぎない。
コルロルにも、レーニスにも、生きていてもらう必要があったんだ。このときまで。この怪物、銃はほとんど効いていなかった。ガルパスの読み通り、こいつを一気に仕留めようと思ったら、爆撃じゃないと無理だろう。レーニスが人質となり、こちらの条件に従わせる。つまり、コルロルを殺すには、この状況が必要だったんだ。
「でも、人は殺さないと決めたんだろう? コルロル、君が今まで武器を持つ人間と対峙しても殺されなかったのは、殺される前に殺したからだろう? 殺さない限り、相手は撃ってくる。いくら君でも持たないぞ」
演技なのか本音なのか。俺自身分かってもいない言葉が出てくる。
別にコルロルに死んでほしいわけじゃない。俺個人としては、コルロルに対して自然な好意を抱いている。一人の少女を想い続けてきた怪物。いい話じゃないか。見た目とは裏腹の臆病っぷりにも、親近感が湧かないわけじゃないし。でも悪いが、目の前の大金を棒に振ってまで助けたいってわけでもない。
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