340 / 377
七日目
21
しおりを挟む
「言っておくけど、今日は本当に挨拶くらいしかできないぞ」
「え、“今日は”って?」
「こんな格好だし、手土産も何も用意してない」
「な、何の話だよ?」
俺の動揺が伝染ったように、相手はぎゅっと眉間にしわを寄せた。不機嫌そのもの、といった様子だけれど、機嫌を損ねているわけではないと思う。どちらかと言えば、困惑を隠そうとしているときの顔だった。
「そういう意味での“挨拶”は日を改めてしたい」
「えっ……いいよ、そんな急に……色々考えはじめなくても……」
なぜか響野のペースで強引に話が進んでいくので焦る。不快な強引さではなく、むしろ嬉しい気持ちも大きかったけれど、同時に不思議な気分でもあった。
どうして響野は、迷いなく未来の話ができるのだろう。
ずっと同じ場所で足踏みしていた俺とは正反対だ。さんざん悩んだつもりが、悩みそのものは一向に解消されなくて、この期におよんで不安も消しきれない。
十年後、二十年後どころか、来年の自分たちがどうしているかも、俺には見通せていなかった。先の見えない霧の中のような場所を、半分あきらめた気持ちで延々と歩き続けている。未来にはそんな印象しかない。
響野には霧の向こうが見えているのだろうか。それとも、彼の視界には霧そのものが存在しないのか。ずいぶんあっさり、家族に会いたいと言われた。
まるで普通の恋人同士みたいだと思う。相手とずっと一緒にいたいと願う、どこにでもいる、当たり前の恋人同士のようだ、と。
「……俺も……」
言いかけて舌がもつれた。
俺も挨拶をしたかった。そう言おうとしたけれど、喉がつまってうまく言葉にならない。
「え、“今日は”って?」
「こんな格好だし、手土産も何も用意してない」
「な、何の話だよ?」
俺の動揺が伝染ったように、相手はぎゅっと眉間にしわを寄せた。不機嫌そのもの、といった様子だけれど、機嫌を損ねているわけではないと思う。どちらかと言えば、困惑を隠そうとしているときの顔だった。
「そういう意味での“挨拶”は日を改めてしたい」
「えっ……いいよ、そんな急に……色々考えはじめなくても……」
なぜか響野のペースで強引に話が進んでいくので焦る。不快な強引さではなく、むしろ嬉しい気持ちも大きかったけれど、同時に不思議な気分でもあった。
どうして響野は、迷いなく未来の話ができるのだろう。
ずっと同じ場所で足踏みしていた俺とは正反対だ。さんざん悩んだつもりが、悩みそのものは一向に解消されなくて、この期におよんで不安も消しきれない。
十年後、二十年後どころか、来年の自分たちがどうしているかも、俺には見通せていなかった。先の見えない霧の中のような場所を、半分あきらめた気持ちで延々と歩き続けている。未来にはそんな印象しかない。
響野には霧の向こうが見えているのだろうか。それとも、彼の視界には霧そのものが存在しないのか。ずいぶんあっさり、家族に会いたいと言われた。
まるで普通の恋人同士みたいだと思う。相手とずっと一緒にいたいと願う、どこにでもいる、当たり前の恋人同士のようだ、と。
「……俺も……」
言いかけて舌がもつれた。
俺も挨拶をしたかった。そう言おうとしたけれど、喉がつまってうまく言葉にならない。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる