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五日目
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「もう帰るの?」
玄関に向かおうとする伯母の雰囲気を察したのか、響野がたずねる。
「帰るわよ。お邪魔でしょう?」
ぐぅ、と変な声がもれそうになった。
違うんです、と弁解するか、ひたすらとぼけるか、何か言い訳をしようとしたけれど、ひとつも言葉にならないうちに佳子さんは俺たちのわきをすり抜けて玄関に向かう。
三和土のタイルの上でソールの低いショートブーツに足を突っ込みながら、彼女は肩越しにこちらを振り返った。
「安心してちょうだい。そんなに早い時間にはこないわよ」
笑いもせず、怒りもせず、もちろんからかったりもしない、いつも通りの口調だった。特別なことではないけれど、人前ですることでもない。そう言われた気がして、まったくもってその通りだったので、さらに言葉が出なくなる。
「じゃあね」
最後に俺たちを振り返ったとき、佳子さんは一瞬、ふっと目元の力を抜いた。最初に甥を、次に俺を見たあと、迷いのない動きで玄関レバーを押して玄関を出ていく。ドアの閉まる音がやけに大きく響いた。
ドアに鍵をかけて背後をふり返ると、響野がまだ通路に立っている。
「……ええと……」
小さな俺のつぶやきに、彼はいつものようにこちらに顔を向けた。
「冷蔵庫に、もう夕食の材料がなくて……その、俺もちょっと買い物に行ってくる」
しどろもどろな俺の言い訳を聞いた響野は、少し不思議そうな顔のあと、「ああ」とうなずいた。
あわただしく家を出て、嘘を真実にするためにスーパーに向かった。響野の家の近くの高級スーパーマーケットではなく、スマホでチラシを検索して、もう少し庶民的な価格帯の店へ向かう。
玄関に向かおうとする伯母の雰囲気を察したのか、響野がたずねる。
「帰るわよ。お邪魔でしょう?」
ぐぅ、と変な声がもれそうになった。
違うんです、と弁解するか、ひたすらとぼけるか、何か言い訳をしようとしたけれど、ひとつも言葉にならないうちに佳子さんは俺たちのわきをすり抜けて玄関に向かう。
三和土のタイルの上でソールの低いショートブーツに足を突っ込みながら、彼女は肩越しにこちらを振り返った。
「安心してちょうだい。そんなに早い時間にはこないわよ」
笑いもせず、怒りもせず、もちろんからかったりもしない、いつも通りの口調だった。特別なことではないけれど、人前ですることでもない。そう言われた気がして、まったくもってその通りだったので、さらに言葉が出なくなる。
「じゃあね」
最後に俺たちを振り返ったとき、佳子さんは一瞬、ふっと目元の力を抜いた。最初に甥を、次に俺を見たあと、迷いのない動きで玄関レバーを押して玄関を出ていく。ドアの閉まる音がやけに大きく響いた。
ドアに鍵をかけて背後をふり返ると、響野がまだ通路に立っている。
「……ええと……」
小さな俺のつぶやきに、彼はいつものようにこちらに顔を向けた。
「冷蔵庫に、もう夕食の材料がなくて……その、俺もちょっと買い物に行ってくる」
しどろもどろな俺の言い訳を聞いた響野は、少し不思議そうな顔のあと、「ああ」とうなずいた。
あわただしく家を出て、嘘を真実にするためにスーパーに向かった。響野の家の近くの高級スーパーマーケットではなく、スマホでチラシを検索して、もう少し庶民的な価格帯の店へ向かう。
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