光の部屋、花の下で。

五日目

65

「目が見えたときも、料理は全然しなかった。……覚えておけば良かったよ」
　相手の声に後悔がにじんでいたので、ますます言葉に詰まった。
　肉や野菜を切るところからやりたい、などと言われたら、ケガをしないか心配で、むしろ困っただろう。本格的な料理じゃなくて助かるよ、と言ってしまいそうになるけれど、それも自分の都合しか考えていないみたいで口にしづらい。
「じゃあ、電子レンジと電気ポッドの使い方をやってみるくらいで足りそう？」
「ガスコンロは？」
「火は……俺が教えられる自信がないんだ」
　行儀よく食事をしている相手に向かって肩をすくめる。見えてないだろうけれど、まあいい。
「正しい訓練を積めば、火そのものは使えるようになるよ。でも、それこそ正しい指導方法で習ったほうがいい」
　由香里先輩を思い浮かべながら、今度また生活訓練について聞いてみようと考える。
　結局、昼食にふたりでカップ焼きそばを作ることにした。食料庫パントリーから焼きそばを取り出したり、電気ポッドに水を入れてセットしたりという、見えてさえいれば難しくない作業を、響野は持ち前の生真面目さで真剣に覚えようとした。
　事情を知らなかったら、滑稽にも見える絵面えづらだろう。でも、事情を知っているから、ただ偉いなと思う。
　ふたりで昼食を準備しているあいだに佳子さんも到着した。面接に行ったはずの俺が家にいることを彼女にも驚かれ、やはり理由の説明に苦労した。
「ひょっとして朝の電話のせい？　私、よけいなことを言ったかしら」
　気にするように聞かれたので、「違うんです」と否定する。