光の部屋、花の下で。

三尾

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五日目

24

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 勉強した結果、認知症患者はつねに記憶が混乱しているわけではないことや、発症前の人格が消失してしまうわけではないことなどを学んだ。ばあちゃんと暮らすうちに、習った内容はおおむねその通りだというのもわかってきた。
 記憶がしっかりしているときのばあちゃんは、おやじの顔も俺の顔もきちんと覚えていた。中二の冬休み、七年ぶりに三重の家で会ったときは、俺が「ひじりです」と挨拶すると、「知っとる。マリアさんの子やろう」と返ってきた。
「大きなったなぁ、女の子みたいやったのに」
 彼女の口から迷いなく俺の母親の名が出てきたことが、とても意外だった。
 平日の昼間は、ばあちゃんをデイサービスに預ける。送迎時間に間に合うように帰宅して彼女を引き取るのは俺の仕事だ。
 ヘルパーに付き添われて玄関先まで帰ってきたばあちゃんを「おかえり」と出迎えると、こちらの顔を理解していて「ただいま」と言われることもあれば、きょとんとした顔で「どちらさん?」と聞かれることもあった。後者の場合は記憶が混乱しているので、よけいな説明はせずに「聖です」とだけ答える。
 世間一般の祖母と孫が、お互いにどの程度の距離感ですごすものなのかはわからないけれど、ばあちゃんと俺の関係は、おそらく他人行儀な部類に入っていたのではないかと思う。彼女の認知症もあって、お互いの話はあまりしなかった。
 それでいて、仲が悪いというわけでもなかった。ばあちゃんがデイサービスから帰ったあとは、居間の座卓でテレビを見る彼女の横で、見守りも兼ねて、本を読んだり、宿題をしたりしてすごした。彼女の具合がよっぽど良いときには、台所で料理の手ほどきも受けた。
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