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五日目
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「あの〈部屋〉の?」
「ああ」
「楽しかったよな。みんな好き勝手してて」
「ふたりで進路の話をしたことがあっただろう? どこの高校にするかっていう」
記憶をたぐるように発せられた響野の言葉に目を見張る。どういう偶然なのか、同じ出来事を思い出していたのだ、と思った。
驚きと、それ以外の感情がわいてきて、けれどもそんな自分を悟られてはいけない気がして、「そうだっけ?」ととぼける。
響野が気だるげな顔をこちらに向けた。ベッドに腰かけている俺に手を伸ばし、ぎこちなくTシャツのすそをつかむ。服の握られた部分から、言葉にならない相手の感情が染み込んでくるようだった。
「……どうしたんだ?」
彼の手に握り込まれた自分のシャツを見下ろしてたずねる。
「もしかして、気分が悪い?」
響野は首を振って「いいや」と答えた。つかんだときと同じように、ぎくしゃくとした動きで服のすそを手離す。
言葉とは裏腹の冴えない表情が、薬による倦怠感のせいなのか、そのほかに原因があるのかは、あまり考えたくなかった。ベッドの上でふらついた彼の身体を思わず支えたあとで、こんなふうに気軽にふれるのも良くないのだろうかと気になり、腕を下ろす。
サポートを申し出たのは、響野の力になりたかったからだ。にもかかわらず、今の自分がそれを果たせているとは、とても思えなかった。
「……それはそうと、伸也の様子はどう?」
つい三十分ほど前に、スマートフォン越しに受けた質問が、嬉しくないタイミングで思い出される。
“ヤマザキさん”の件を話し終えた佳子さんは、それまでとは声の調子を変えて、甥の身体の具合についてたずねた。
内緒話のようにひそめた声に、二階へ向かおうとしていた足が客間の内部で止まった。
「ああ」
「楽しかったよな。みんな好き勝手してて」
「ふたりで進路の話をしたことがあっただろう? どこの高校にするかっていう」
記憶をたぐるように発せられた響野の言葉に目を見張る。どういう偶然なのか、同じ出来事を思い出していたのだ、と思った。
驚きと、それ以外の感情がわいてきて、けれどもそんな自分を悟られてはいけない気がして、「そうだっけ?」ととぼける。
響野が気だるげな顔をこちらに向けた。ベッドに腰かけている俺に手を伸ばし、ぎこちなくTシャツのすそをつかむ。服の握られた部分から、言葉にならない相手の感情が染み込んでくるようだった。
「……どうしたんだ?」
彼の手に握り込まれた自分のシャツを見下ろしてたずねる。
「もしかして、気分が悪い?」
響野は首を振って「いいや」と答えた。つかんだときと同じように、ぎくしゃくとした動きで服のすそを手離す。
言葉とは裏腹の冴えない表情が、薬による倦怠感のせいなのか、そのほかに原因があるのかは、あまり考えたくなかった。ベッドの上でふらついた彼の身体を思わず支えたあとで、こんなふうに気軽にふれるのも良くないのだろうかと気になり、腕を下ろす。
サポートを申し出たのは、響野の力になりたかったからだ。にもかかわらず、今の自分がそれを果たせているとは、とても思えなかった。
「……それはそうと、伸也の様子はどう?」
つい三十分ほど前に、スマートフォン越しに受けた質問が、嬉しくないタイミングで思い出される。
“ヤマザキさん”の件を話し終えた佳子さんは、それまでとは声の調子を変えて、甥の身体の具合についてたずねた。
内緒話のようにひそめた声に、二階へ向かおうとしていた足が客間の内部で止まった。
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