光の部屋、花の下で。

四日目

49

　今のは安西が言ったのか？という俺の驚きは、暗がりにも関わらず相手に届いたらしい。
　チッと舌打ちが聞こえたかと思うと、「じゃな」と無愛想な挨拶を残して安西は橋を渡っていった。


　後期の中間テストが終わったあとは、とりたてて行事らしい行事もなく、校内は冬休みを待ちわびるモードに入る。
　ロボコンのブロック大会に出場した技術部は、関東甲信越から集まったチームの勝ち抜き戦で四位になった。全国大会には今一歩のところで届かなかったものの、それ自体は十分にすごい成績と言える。
　響野は喜んでいるか、意気消沈しているか、どちらだろうと思いながら登校すると、そのどちらでもなく、敗因分析と次回のロボットのアイデア出しを一晩中やっていたとかで眠そうだった。
　たぶん、寝られない程度には悔しかったんだろうなと思ったけれど、それをわざわざ指摘するのも意地が悪いように思えて、「惜しかったな」と感想を言うだけにした。その日は横山も、いつも以上に教室のすみっこに引っ込みがちだったので、和田が気にして声をかけていた。
　響野も横山も、再び空き教室に顔を出すようになり、各自が思い思いの放課後をすごす、まったりした時間が戻ってきた。
　冬休みに集まってどこかへ行かないか？と誰かが言い出して、動物園や初詣はつもうでなどいくつかの楽しそうな案が出るのを、川の向こう岸をながめるような気持ちで聞いていた。
　冬休みは、三重のおやじの実家に帰る予定だった。「今のばあちゃんに会って、慣れといてくれないか」というおやじの言葉の意味を、最近はずっと考えている。
　冬休みが近づくにつれて、川の向こう岸は少しずつ遠ざかっていくようだった。


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