光の部屋、花の下で。

一日目

19

　その目の状態で大丈夫なのか？と心配になったけれど、話がそちらの方向へ転がっていったのは、おそらく俺自身にも責任があった。視覚障害者が自立生活を送るために受けるリハビリについて、深い考えもなく口にしたせいだ。
　響野に今の状況をわからせるつもりで引き合いに出した例は、かえって相手をその気にさせてしまったようだった。訓練をすれば自力で生活できるようになるなら、自分もその技術を身につけられるはずだ、などと言われた。
「どうせ永遠に入院していられるわけじゃないんだ。多少ケガをしたって、自分の生活する場所で早めに“技術”を身につけられたほうがいいよ」
　……そんなにうまくいくものだろうか？
　というよりも、まずやるべきことはそれでいいのか？
　もっと、見えなくなった原因を調べるとか、別の病院でセカンドオピニオンをもらうとかいったことを優先させたほうが良いのではないだろうか。
　このまま俺が響野をサポートして、目の不自由な彼がけがをしたり、急に体調が悪くなったりしたらどうすればいいだろう。
　理性は色々と訴えてきたけれど、響野を前にすると、どれも言い出せなかった。冷静に見える相手の顔の奥には、また例ののっぴきならない感情が渦を巻いていて、響野はそれを懸命に抑え込もうとしているように見えた。
　力になってやりたいと思うのは、そんなに悪いことだろうか？
　視線の先では相変わらずシーリングファンがゆるやかな回転を続けている。ドアの前を離れ、階段を降りてリビングのソファまで戻った。
　ローテーブルに置きっぱなしだったスマホを持ち上げると、先ほど送ったメールの返事が届いている。返信の早さにまず驚き、次にメール文面の長さに驚いた。