19 / 32
18
しおりを挟む
モモはなおも戦闘を続ける。周囲の悪魔はだいぶ数を減らしていった。モモは標準を切り替えて、ウルゴの方へと視線を向ける。ウルゴの方も、大悪魔を相手に善戦していた。
モモに言われた角を狙う前に、改めて再生の力がどの程度なのか確かめる。悪魔が振り下ろした左腕を軸に、鎖を巻き付ける。そのまま棺桶を重しにして、ウルゴは逆方向へと鎖を引っ張った。
棺桶の自重と、ウルゴの腕力。鎖が腕を絞めつけにしていると、メキメキと嫌な音が周囲に響いた。
「うらあああああああああああああっ‼」
大声で引く力を強くすると、ぶちんという大きな音とともに、大悪魔の左腕がちぎれ落ちた。大悪魔は苦しむようによろめき、ちぎれた腕の根元を天高く掲げた。
ウルゴは再度高く跳ぶと、その傷口を見た。紫一色のそこに、血管や骨のようなものは見えない。だが傷口であるという事に変わりはない。跳躍と同時に引き上げた棺桶を、そこに向けて叩きつける。
「おらおらおらおらおらぁ‼」
何度も叩きつけられる傷口から、新たに腕が生える様子はない。再生能力は、浅い傷を瞬時に癒す程度だと見たウルゴは、傷口を叩くのを止め、棺桶を一度引き上げた。
「首を落としゃあ、くたばるよなぁ!」
重力に従い、大悪魔の顔の位置まで落ちたウルゴは、相手の首を軸に鎖を巻きつけようと、棺桶を放り投げた。
だが大悪魔はそれを読んでいた。あえて顔を棺桶の前に持っていき、その打撃を潔く受け止める。
「ちっ!」
舌打ちをしながら落下するウルゴは、大悪魔の角が、白く光っている事に気が付いた。
ウルゴは棺桶を引いて戻すと、角にめがけて投げつける。大悪魔は首を振り、その一撃を角で防ぐ。角が一瞬だけ光をはじけさせるが、決して収まる事はなかった。
棺桶が手元に戻ってきて、地面に着地すると、すぐにモモの方へと叫んだ。
「今すぐ伏せろぉ‼」
叫びながら、棺桶を盾にするように、自分の前に構えた。
ウルゴの声は、モモの耳にしっかりと届いた。彼の周囲にいた悪魔の数を減らそうと構えていた銃を降ろし、近くにいるムートに抱き着くように飛び込み、彼と一緒に地面に伏せた。
「お、おい! いきなりなんだ!」
「何か強い攻撃が来ます! このままじっとしててください!」
「強い攻撃だと? それは一体……」
そのムートの疑問は、すぐに答えが提示された。
大悪魔は姿勢を落とし、角をウルゴに向ける。瞬間、角に集まっていた光が、ウルゴめがけて解き放たれた。
「ぐあああああああああ!」
棺桶で防いでいるにも関わらず、ウルゴの体に強い痛みが走る。光は棺桶に命中しながらも、放射状に拡散していく。近くにいた悪魔も、その攻撃の巻き添えとなった。
地面に伏せていたモモとムートは、その一撃を避ける事が出来た。モモにとびかかられて、空を仰ぐ形となったムートは、その攻撃を目でとらえた。
「これは……」
蜘蛛の巣のような白い稲妻が、空にひびを入れていた。本物の稲妻のように一瞬にして消えることはなく、しばらくその場にとどまっていた。
しかしそれも終わりを告げ、空は元通りになった。
「危ないところでしたね……」
ムートに覆いかぶさるように伏せていたモモが、ゆっくりと体を起こす。そして目の前の光景に、目を大きく見開いた。
「ウルゴさん‼」
そこには体から煙を上げたウルゴの姿があった。白い稲妻は、ウルゴの棺桶を通電し、彼の体を焼いたのだ。
「おいおい。聖者とはいえ、あんな攻撃を食らったらもう……」
ムートが諦めたように言うと、それを否定するかのように、ウルゴの肩が大きく揺れた。
「はっ。今のはちとやばかったな……」
棺桶を持ち上げて、体の右側に持っていく。渾身の一撃を耐えたウルゴに、大悪魔はとどめを刺そうと右腕を繰り出した。
ウルゴは地面に唾を吐き、周りを確認する。周囲に大悪魔以外の悪魔の姿はない。先程の一撃が、全て一掃したのだ。
「いよいよこいつの出番だなぁ!」
棺桶に刻まれた紋章に、ウルゴが右手を触れた。
〈――認証を確認。戦闘兵装タナトス、起動〉
その声は、ウルゴの耳にだけ届いた。
棺桶がひとりでに展開し、中から黒い欠片が出現する。
欠片は立体パズルのように形を変えながら、ウルゴの元へと集まっていく。
頭部には兜を。胴には鎧を。腕には手甲を。足には具足を。
「あれは一体……」
「あれこそ、聖遺物の真の力です」
モモも詳細は知らない。ただ暁の門では、聖遺物を持つ聖者が、遺物より「天啓」を受け、その力を解放するとされていた。
「ウルゴさんの聖遺物は、使い手の身体機能を底上げし、鉄壁の盾と鋼鉄の腕を与えるという代物です」
モモが説明する目の前で、いよいよ大悪魔の右腕がウルゴの目前まで迫っていた。ウルゴの方は、まだ動かない。代わりに、展開された棺桶の平面が、彼の前に立ちはだかりその拳を防いだ。
それと同時に、兵装は完成した。
前方に向けて、立派な一角を携えた兜。大柄なウルゴをさらに際立たせる漆黒の鎧。両腕には棺桶にあった鎖が巻きついており、厳めしさを増したその姿は、元々聖者らしからぬ見た目のウルゴをより凶悪なものに見せた。ウルゴの前にあった平面は彼の背後に回り、それはまるで翼のようだった。
「さて、終わりにしようぜ」
宣言すると、ウルゴはすぐに行動に移した。左腕を大悪魔に向けると、鎖が伸びていき、大悪魔の体を拘束した。
「長引かせる趣味はねえからなぁ!」
ウルゴが右腕に力を込める。先程までの大悪魔の角と同じように、彼の右腕に強く、黒い光が纏い始める。
拘束された大悪魔は、それから逃れようともがきだす。だが鎖からは逃れられず、ならばウルゴを屠ろうと、再び角が光り始めた。
先に準備が整ったのはウルゴの方だった。右腕を前に突き出すと、巻きついていた鎖が周囲に漂う。螺旋状に漂ったそれは、腕の前へと移動を始めた。
腕と体が砲台。鎖が筒。腕の光は弾だった。
「喰らいやがれええええええ‼」
ウルゴの絶叫と共に、腕の光は鎖の中を通り、大悪魔へと放たれた。
直線状に伸びる黒の光線。それは大悪魔の胴をいともたやすく貫き、大穴を空ける。
ウルゴはそれだけに留めなかった。螺旋の鎖をわずかに上向かせ、射線を変える。それに従うように、光線は上へ上へと動き、大悪魔の頭部へ到達する。棺桶による一撃では破壊できなかったそれは、光線によって簡単に破壊された。
やがて黒い光が収縮すると、下半身以外を分断された大悪魔が崩壊を始めた。頭部からボロボロと崩れ落ち、それはすぐに下半身まで届き、全身が塵となって消え去った。
「……終わったのか?」ムートが訊ねる。
「はい。終わりました」
モモは答えると、ウルゴの元へと近づいた。
「ウルゴさん。お疲れ様でした」
「おう。お疲れ」
モモに返答すると、ウルゴが身に纏った鎧も、役目を終えたかのように彼から離れていく。彼の背後に佇む平面に集まると、それが閉じていき、再び棺桶の形となった。
「あんな超兵器があるなら、最初から使えばよかったんじゃないか?」
「そういう訳にもいかないんですよ。この聖遺物は、ウルゴさんに多大な負荷をかけますから」
「負荷?」
ムートはウルゴに視線を向ける。鎧を解放した彼は、突然その場に倒れ伏せた。
「お、おいっ⁉」
「気にすんな。しばらくすりゃあ起き上がれる……」
今までにない程か細い声のウルゴ。あの兵装は、彼の体力を大きく消耗する反動があった。たった数分の今ですらこの有り様で、より長い時間使えば痛みも襲ってくる。
「ったく護衛だっつうのに、こうなっちゃあ世話ねえよなぁ」
自虐するようなウルゴに、モモはしゃがみ込んで彼の腕をそっと撫でた。
「気にしないでください。ウルゴさんには色々助けられていますから。持ちつ持たれつ、です」
微笑みかける彼女に対し、ウルゴはどこか照れたように、帽子を被りなおした。
モモは大悪魔がいた場所に、祈りを捧げた。この森に入る前のものよりも長い祈りだった。
祈りを終えると、モモがウルゴを一瞥した。
「この様子だと、ウルゴさんが動ける頃には日が暮れてしまっていますね。今日はここで野宿としましょう」
そう言ってモモは、背負っていた鞄を降ろし、中から小瓶を取り出した。
「それはまさか⁉」
「はい。聖水です。ごく少量になりますが」
教えを広めるための修道士や修道女。また悪魔退治を行う天使は、外で一夜を過ごす可能性も加味して、少量の聖水を持ち歩いていた。
モモはムートにウルゴの傍に来るように促し、彼がそれに従うと、周囲に聖水を振りまいた。
「いいご身分だな。やはり教団の人間は特別か」
「そうでしょうか? 庇護すべき人々は常に聖水の庇護下にあるのですよ?」
「だが自由はない。それに、教団に与さない村や町にはその庇護もないのだろう?」
「そんな事はありませんよ。確かに教会を建立している所を優先されてしまいますが、私のような巡回者が把握できる範囲の村や町には聖水を届けるようにしております」
「ほらみろ。結局優先順位があるじゃないか」
「…………その通りです。弁解のしようもありません」
心底悔しそうに歯噛みしたモモは立ち上がると、「薪を集めてきます」と、鞄から鉈を取り出し、その場から離れていった。
「なんでそんな顔するんだよ……」
これではまるで、自分が悪いみたいではないか。拳を握りしめながら、モモの背中を見送るムートに、横になっていたウルゴがわずかに視線を向けると、浅く息を吐いた。
モモに言われた角を狙う前に、改めて再生の力がどの程度なのか確かめる。悪魔が振り下ろした左腕を軸に、鎖を巻き付ける。そのまま棺桶を重しにして、ウルゴは逆方向へと鎖を引っ張った。
棺桶の自重と、ウルゴの腕力。鎖が腕を絞めつけにしていると、メキメキと嫌な音が周囲に響いた。
「うらあああああああああああああっ‼」
大声で引く力を強くすると、ぶちんという大きな音とともに、大悪魔の左腕がちぎれ落ちた。大悪魔は苦しむようによろめき、ちぎれた腕の根元を天高く掲げた。
ウルゴは再度高く跳ぶと、その傷口を見た。紫一色のそこに、血管や骨のようなものは見えない。だが傷口であるという事に変わりはない。跳躍と同時に引き上げた棺桶を、そこに向けて叩きつける。
「おらおらおらおらおらぁ‼」
何度も叩きつけられる傷口から、新たに腕が生える様子はない。再生能力は、浅い傷を瞬時に癒す程度だと見たウルゴは、傷口を叩くのを止め、棺桶を一度引き上げた。
「首を落としゃあ、くたばるよなぁ!」
重力に従い、大悪魔の顔の位置まで落ちたウルゴは、相手の首を軸に鎖を巻きつけようと、棺桶を放り投げた。
だが大悪魔はそれを読んでいた。あえて顔を棺桶の前に持っていき、その打撃を潔く受け止める。
「ちっ!」
舌打ちをしながら落下するウルゴは、大悪魔の角が、白く光っている事に気が付いた。
ウルゴは棺桶を引いて戻すと、角にめがけて投げつける。大悪魔は首を振り、その一撃を角で防ぐ。角が一瞬だけ光をはじけさせるが、決して収まる事はなかった。
棺桶が手元に戻ってきて、地面に着地すると、すぐにモモの方へと叫んだ。
「今すぐ伏せろぉ‼」
叫びながら、棺桶を盾にするように、自分の前に構えた。
ウルゴの声は、モモの耳にしっかりと届いた。彼の周囲にいた悪魔の数を減らそうと構えていた銃を降ろし、近くにいるムートに抱き着くように飛び込み、彼と一緒に地面に伏せた。
「お、おい! いきなりなんだ!」
「何か強い攻撃が来ます! このままじっとしててください!」
「強い攻撃だと? それは一体……」
そのムートの疑問は、すぐに答えが提示された。
大悪魔は姿勢を落とし、角をウルゴに向ける。瞬間、角に集まっていた光が、ウルゴめがけて解き放たれた。
「ぐあああああああああ!」
棺桶で防いでいるにも関わらず、ウルゴの体に強い痛みが走る。光は棺桶に命中しながらも、放射状に拡散していく。近くにいた悪魔も、その攻撃の巻き添えとなった。
地面に伏せていたモモとムートは、その一撃を避ける事が出来た。モモにとびかかられて、空を仰ぐ形となったムートは、その攻撃を目でとらえた。
「これは……」
蜘蛛の巣のような白い稲妻が、空にひびを入れていた。本物の稲妻のように一瞬にして消えることはなく、しばらくその場にとどまっていた。
しかしそれも終わりを告げ、空は元通りになった。
「危ないところでしたね……」
ムートに覆いかぶさるように伏せていたモモが、ゆっくりと体を起こす。そして目の前の光景に、目を大きく見開いた。
「ウルゴさん‼」
そこには体から煙を上げたウルゴの姿があった。白い稲妻は、ウルゴの棺桶を通電し、彼の体を焼いたのだ。
「おいおい。聖者とはいえ、あんな攻撃を食らったらもう……」
ムートが諦めたように言うと、それを否定するかのように、ウルゴの肩が大きく揺れた。
「はっ。今のはちとやばかったな……」
棺桶を持ち上げて、体の右側に持っていく。渾身の一撃を耐えたウルゴに、大悪魔はとどめを刺そうと右腕を繰り出した。
ウルゴは地面に唾を吐き、周りを確認する。周囲に大悪魔以外の悪魔の姿はない。先程の一撃が、全て一掃したのだ。
「いよいよこいつの出番だなぁ!」
棺桶に刻まれた紋章に、ウルゴが右手を触れた。
〈――認証を確認。戦闘兵装タナトス、起動〉
その声は、ウルゴの耳にだけ届いた。
棺桶がひとりでに展開し、中から黒い欠片が出現する。
欠片は立体パズルのように形を変えながら、ウルゴの元へと集まっていく。
頭部には兜を。胴には鎧を。腕には手甲を。足には具足を。
「あれは一体……」
「あれこそ、聖遺物の真の力です」
モモも詳細は知らない。ただ暁の門では、聖遺物を持つ聖者が、遺物より「天啓」を受け、その力を解放するとされていた。
「ウルゴさんの聖遺物は、使い手の身体機能を底上げし、鉄壁の盾と鋼鉄の腕を与えるという代物です」
モモが説明する目の前で、いよいよ大悪魔の右腕がウルゴの目前まで迫っていた。ウルゴの方は、まだ動かない。代わりに、展開された棺桶の平面が、彼の前に立ちはだかりその拳を防いだ。
それと同時に、兵装は完成した。
前方に向けて、立派な一角を携えた兜。大柄なウルゴをさらに際立たせる漆黒の鎧。両腕には棺桶にあった鎖が巻きついており、厳めしさを増したその姿は、元々聖者らしからぬ見た目のウルゴをより凶悪なものに見せた。ウルゴの前にあった平面は彼の背後に回り、それはまるで翼のようだった。
「さて、終わりにしようぜ」
宣言すると、ウルゴはすぐに行動に移した。左腕を大悪魔に向けると、鎖が伸びていき、大悪魔の体を拘束した。
「長引かせる趣味はねえからなぁ!」
ウルゴが右腕に力を込める。先程までの大悪魔の角と同じように、彼の右腕に強く、黒い光が纏い始める。
拘束された大悪魔は、それから逃れようともがきだす。だが鎖からは逃れられず、ならばウルゴを屠ろうと、再び角が光り始めた。
先に準備が整ったのはウルゴの方だった。右腕を前に突き出すと、巻きついていた鎖が周囲に漂う。螺旋状に漂ったそれは、腕の前へと移動を始めた。
腕と体が砲台。鎖が筒。腕の光は弾だった。
「喰らいやがれええええええ‼」
ウルゴの絶叫と共に、腕の光は鎖の中を通り、大悪魔へと放たれた。
直線状に伸びる黒の光線。それは大悪魔の胴をいともたやすく貫き、大穴を空ける。
ウルゴはそれだけに留めなかった。螺旋の鎖をわずかに上向かせ、射線を変える。それに従うように、光線は上へ上へと動き、大悪魔の頭部へ到達する。棺桶による一撃では破壊できなかったそれは、光線によって簡単に破壊された。
やがて黒い光が収縮すると、下半身以外を分断された大悪魔が崩壊を始めた。頭部からボロボロと崩れ落ち、それはすぐに下半身まで届き、全身が塵となって消え去った。
「……終わったのか?」ムートが訊ねる。
「はい。終わりました」
モモは答えると、ウルゴの元へと近づいた。
「ウルゴさん。お疲れ様でした」
「おう。お疲れ」
モモに返答すると、ウルゴが身に纏った鎧も、役目を終えたかのように彼から離れていく。彼の背後に佇む平面に集まると、それが閉じていき、再び棺桶の形となった。
「あんな超兵器があるなら、最初から使えばよかったんじゃないか?」
「そういう訳にもいかないんですよ。この聖遺物は、ウルゴさんに多大な負荷をかけますから」
「負荷?」
ムートはウルゴに視線を向ける。鎧を解放した彼は、突然その場に倒れ伏せた。
「お、おいっ⁉」
「気にすんな。しばらくすりゃあ起き上がれる……」
今までにない程か細い声のウルゴ。あの兵装は、彼の体力を大きく消耗する反動があった。たった数分の今ですらこの有り様で、より長い時間使えば痛みも襲ってくる。
「ったく護衛だっつうのに、こうなっちゃあ世話ねえよなぁ」
自虐するようなウルゴに、モモはしゃがみ込んで彼の腕をそっと撫でた。
「気にしないでください。ウルゴさんには色々助けられていますから。持ちつ持たれつ、です」
微笑みかける彼女に対し、ウルゴはどこか照れたように、帽子を被りなおした。
モモは大悪魔がいた場所に、祈りを捧げた。この森に入る前のものよりも長い祈りだった。
祈りを終えると、モモがウルゴを一瞥した。
「この様子だと、ウルゴさんが動ける頃には日が暮れてしまっていますね。今日はここで野宿としましょう」
そう言ってモモは、背負っていた鞄を降ろし、中から小瓶を取り出した。
「それはまさか⁉」
「はい。聖水です。ごく少量になりますが」
教えを広めるための修道士や修道女。また悪魔退治を行う天使は、外で一夜を過ごす可能性も加味して、少量の聖水を持ち歩いていた。
モモはムートにウルゴの傍に来るように促し、彼がそれに従うと、周囲に聖水を振りまいた。
「いいご身分だな。やはり教団の人間は特別か」
「そうでしょうか? 庇護すべき人々は常に聖水の庇護下にあるのですよ?」
「だが自由はない。それに、教団に与さない村や町にはその庇護もないのだろう?」
「そんな事はありませんよ。確かに教会を建立している所を優先されてしまいますが、私のような巡回者が把握できる範囲の村や町には聖水を届けるようにしております」
「ほらみろ。結局優先順位があるじゃないか」
「…………その通りです。弁解のしようもありません」
心底悔しそうに歯噛みしたモモは立ち上がると、「薪を集めてきます」と、鞄から鉈を取り出し、その場から離れていった。
「なんでそんな顔するんだよ……」
これではまるで、自分が悪いみたいではないか。拳を握りしめながら、モモの背中を見送るムートに、横になっていたウルゴがわずかに視線を向けると、浅く息を吐いた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる