聖邪の交進

悠理

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「これは……」

外の景色を見て、ムートは感嘆の声を漏らす。
大地に草木が生え渡り、空は町の中から覗くのと変わらぬ青が広がり、とても悪魔がいるとは思えない風景だった。
モモは首にかけたアミュレットを外し、その場で目の前で垂らす。アミュレットの先端がふわりと浮かび上がり、三人の位置から南西の方角を指し示した。

「悪魔の気配はあちらですね。行きましょう」

モモが先導し、ウルゴとムートがその後に続く。

「ところで君たちにいくつか確認してもいいか?」

歩きながら、ムートが話しかけてきた。

「確か教団には〝天使〟と呼ばれる、悪魔退治の専門家がいたな。察するに、ウルゴだったか。君はその天使の一人か?」

「残念。俺は天使じゃねえし、そもそも教徒ですらねぇ。あいつのジジイに恩があるだけの、ただの護衛だ」

「ただの護衛ね。そんなわけがないだろう? 町中での彼女の様子からして、護衛とはいえ、天使でも修道士でもないただの人間を外に連れ出すわけがない」

ムートはサラから昨日の話を聞いてはいるが、彼女はウルゴが聖者だと彼に話していなかった。隠したわけではなく、ただ自分の身に起きた事だけを話した結果、ウルゴの正体を話す流れに至らなかったのだ。

「つまり君はただの人間じゃあない。何かしら特殊な能力を持った何者かだと考えられる」

「俺は人間だよ。ただ普通より頑強な体を持ってるだけだ」

これ以上話すつもりはないというように、ウルゴは足を速めた。ムートは話を逸らされた事に不快に思いながら、離れないように彼の後に続いた。

「ではモモ。君に聞こう。悪魔を聖装具で退治する事は知っているが、君のそのアミュレットでどう退治する? そんな小さな鎖で縛りあげるわけでもないだろう? 祈りの言葉で浄化でもするつもりか?」

「悪魔や悪魔になった人間に浄化は効きません。悪魔には対悪魔用の聖装具があります。それがこちらです」

モモはブーツに手を伸ばして、リボルバーを取り出す。サラの魂の中で、邪気と対峙した時に使った物だ。あの世界では邪気の浄化に使用していたが、現実では悪魔に対抗する聖装具の役割を果たしていた。

「見たところ、ただの銃にしか見えないな。なかなか大口径のようだが、そんなもので悪魔が倒せるのか?」

「もちろん。聖装具はただの武具とは違い、主の加護を受けていますから。悪魔に対して強い力を発揮するのです」

「それは銃に対してのみか? それとも弾にも加護とやらがあるのか?」

「どちらにも、です。見た目でわかるとは思えませんが、弾の方も確認しますか?」

モモは弾薬盒から一つ弾丸を取り出して、ムートに手渡す。受け取ったムートがまじまじと観察するが、特に変わった所は見られなかった。

「揚げ足を取るようだが、悪魔に直接打ち込む弾に加護が付いていれば十分じゃあないか? わざわざ銃にまでつける意味がわからないな」

「逆ですね。はっきり言って、銃の方に加護があれば、弾は普通の物で問題ありません。この銃を介することで、弾に加護の効果が付与されますから」

「ならばなぜ加護が付いた弾をわざわざ用意する?」

「単純な話ですよ。教団では銃も弾も、同じ炉を使って作っています。結果、どちらにも加護が施されるのです」

モモの話を聞き、ムートはピンときた。

「なるほど。その炉によって加護が付与されるのか。君たち風に言うと、聖炎にくべることで主の加護を得るといったところか」

ムートの答えに、モモは黙って頷いた。

「ならばそれを使って民間人にも武器を手渡すべきだな。君たちはまるで悪魔と戦えるのは自分たちだけのように振舞っている。町の中でも言わせてもらったが、些か傲慢ではないか?」

「……これは主の教えではないのですが、我らが教皇様はむやみに武器を振るうべきではないとお考えなのです。武器とは凶器であり、狂気を孕んでいる。心の弱い人の手に渡れば、その狂気に飲まれてしまうと仰っております。故に、主を信仰し、主に恥じぬ働きをすると誓った天使や修道士、修道女にのみ渡しているのです」

「傲慢さは否定しないんだな。自分たち以外は心の弱い人間だと見くびっている」

「傲慢とは違いますよ。ただ武器という危険な物を、分別なく配ってはいけないという話です」

「その選別方法が傲慢だと言ってるんだ。結局は教団本位の考えなんだからな」

これ以上話したところで平行線のようだ。モモは押し黙り、ムートもそれ以上何も言わずに、モモから視線を外す。
その視線が、何気なくウルゴの方へと向いた。正確には、彼が背負う棺桶に、だ。
モモの悪魔に対する武器が銃ならば、この男の武器はあの棺桶の中にあるのだろうか。
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