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第五章 フランカ市
第153話
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「いや、ユーマ殿、巡り合わせとは不思議な物ですね。
ハイネン男爵家のバロー殿は、私自身何度も面識がありましてね。幼い頃にはよく可愛がって頂いたものです。
それにエリーヌ嬢までご一緒されているとは」
「エリーヌ様とはご面識はなかったんですか?」
「えぇ、初めてお目にかかります。とはいえ、バロー様から聡明な方だと話だけは伺っておりました。
話に聞くよりもお美しゅうございますな」
僕が名乗り、パーティメンバーを紹介したところで、モーム隊長がエリーヌの名前に反応しました。
そこでエリーヌに直接話をさせた結果、僕達の疑いは晴れて、こうして平和的に交流する事が出来たんだよね。
こういう時はエリーヌも役に立つなぁ。
第二騎士団は、魔物に占拠されたフランカ市を偵察し可能であれば全部または一部を討伐する任務で、王都の駐屯地から急行してきたそうです。
魔物の気配がない事を不審に思い、慎重に市内に入ったところで僕達を発見したので、かなり怪しく思ったらしく…
「率直に言って、襲撃の黒幕の可能性もあるかと思いました」
「疑念が晴れて良かったです」
「ユーマ殿御一行はこの後王都に向かわれるんでしたね?でしたら道中、後発の第一隊、第二隊と出会うかと思いますので、その時にこれを渡して頂けないでしょうか?」
モーム隊長は従卒から紙とペンを受け取ると、何やら書き付けて手渡して来ました。
「現状の報告書です。フランカに魔物がいない事がわかれば、避難民の帰還や鉱山の再開も可能です。少しでも早く元に戻る助けになればと思いますので。
それから大変恐縮なのですが、先程のケイトを一緒に連れて行って頂けないでしょうか?
実は彼女は我が主家の縁者でして…」
え?マジですか?やだなぁ…
「そう嫌な顔をなさらないで下さい。ケイトがいれば後発組ともスムーズに事が運びますし。
彼女には後発組への伝令役を申し付けます。
勝手だとは思いますが、エリーヌ嬢のお話を伺う限り、ここに残すよりも安全でしょう?」
「ユーマ君、彼に恩を売っておくのも何かの助けになるかもしれないじゃないか。
引き受けるのも一考の価値があるんじゃないかい?」
「もちろんです!我がモーム家のみならず、主家の覚えも良くなりますから!」
ずいぶんゴリ押ししてくるなぁ…
ここまで来ると裏があるんじゃないかって気までしてきます。
「モーム隊長、ちょっと2人で話せますか?」
「え?あ、はい構いませんが…」
一応周りの目が無い場所まで移動してから、彼に問い掛けます。
「すいません。失礼を承知でお聞きします。神に誓って他言はしませんので教えて下さい。
ひょっとして、ケイトさんが目障りですか?」
「くっ…わかってしまいますか。言われる通りです。
ケイトはクレイドル侯爵閣下の外孫になります。つまり侯爵閣下のお嬢様の娘です。
彼女は正義感が強く、実直で、人懐こい性格の良い娘です。ウチの隊のマスコット的な立ち位置で、隊員達からも本気で可愛がられてます」
「そうなんですね。見た印象通りの方じゃないですか。でもだったらなぜ?」
そう問い返すと、モーム隊長はなんとも言えない微妙な表情で話してくれました。
「はっきり言って、武芸全般に才能がないんです。剣でも槍でも弓でもです。しかも非力で、比較的扱い易いはずのメイスなども全くダメなんです。
しかし、本人は本当に懸命に訓練しているもので…」
「はっきりと伝えられないんですね?かわいいし」
「ぐむっ…恥ずかしながらその通りです。王都の駐屯地であればそれでもよかった…あそこにいれば身の安全も保証されているようなものですから。
しかし、ここは違います。魔物は去ったとしても、恐らく野盗の類が隙を見てやって来る可能性もあります。
我々は寡兵です。正直、足手纏いを庇いながら戦う余裕はないでしょう」
なるほどなぁ…後続が来るまでは不安で仕方ないって事か。
「そんな子が、なんでこの任務について来てるんですか?
任務自体、魔物の討伐が目的だって…」
「任務に参加したのは彼女の意志です。それを侯爵閣下に直訴したらしくて…ですから、副隊長以上は全員死ぬ気で来ていました。
侯爵閣下からは、必ずケイトを守るようにと厳命されていますし、万が一にも死なせては、もはや帰る事も出来ません」
「言葉は悪いですが、ようは出来ない事をやれと命令されたって事ですかね…
クレイドル侯爵閣下にお会いした事はないんで、人柄も存じませんが、そういう無茶を平然と言う様な方なんですか?」
はっきり言って、そういうタイプなら知り合いにもなりたくないし、会っても面倒な事になる予感しかしないよね。
「いや、閣下は単なる孫バカなんです。私の父もそれには呆れてました。
幸いにもケイトの父母は常識的な躾をされていますので、ケイト自身はまだまともです。ただ、祖父には我儘を聞いて貰える事だけは、間違いなく理解してますね」
あー…なんか理解出来たわ。
要は正義漢面した子供が、領民の為なら命も惜しくないとか言って、討伐任務に参加させて貰える様に侯爵に泣きついたんだね。
で、孫バカ侯爵はきっと、孫娘を褒め称えた上で、騎士団に命令したんだな。連れて行け傷ひとつ付けるなって…
こりゃ協力してあげたいなぁ…流石に不憫だわ。
ハイネン男爵家のバロー殿は、私自身何度も面識がありましてね。幼い頃にはよく可愛がって頂いたものです。
それにエリーヌ嬢までご一緒されているとは」
「エリーヌ様とはご面識はなかったんですか?」
「えぇ、初めてお目にかかります。とはいえ、バロー様から聡明な方だと話だけは伺っておりました。
話に聞くよりもお美しゅうございますな」
僕が名乗り、パーティメンバーを紹介したところで、モーム隊長がエリーヌの名前に反応しました。
そこでエリーヌに直接話をさせた結果、僕達の疑いは晴れて、こうして平和的に交流する事が出来たんだよね。
こういう時はエリーヌも役に立つなぁ。
第二騎士団は、魔物に占拠されたフランカ市を偵察し可能であれば全部または一部を討伐する任務で、王都の駐屯地から急行してきたそうです。
魔物の気配がない事を不審に思い、慎重に市内に入ったところで僕達を発見したので、かなり怪しく思ったらしく…
「率直に言って、襲撃の黒幕の可能性もあるかと思いました」
「疑念が晴れて良かったです」
「ユーマ殿御一行はこの後王都に向かわれるんでしたね?でしたら道中、後発の第一隊、第二隊と出会うかと思いますので、その時にこれを渡して頂けないでしょうか?」
モーム隊長は従卒から紙とペンを受け取ると、何やら書き付けて手渡して来ました。
「現状の報告書です。フランカに魔物がいない事がわかれば、避難民の帰還や鉱山の再開も可能です。少しでも早く元に戻る助けになればと思いますので。
それから大変恐縮なのですが、先程のケイトを一緒に連れて行って頂けないでしょうか?
実は彼女は我が主家の縁者でして…」
え?マジですか?やだなぁ…
「そう嫌な顔をなさらないで下さい。ケイトがいれば後発組ともスムーズに事が運びますし。
彼女には後発組への伝令役を申し付けます。
勝手だとは思いますが、エリーヌ嬢のお話を伺う限り、ここに残すよりも安全でしょう?」
「ユーマ君、彼に恩を売っておくのも何かの助けになるかもしれないじゃないか。
引き受けるのも一考の価値があるんじゃないかい?」
「もちろんです!我がモーム家のみならず、主家の覚えも良くなりますから!」
ずいぶんゴリ押ししてくるなぁ…
ここまで来ると裏があるんじゃないかって気までしてきます。
「モーム隊長、ちょっと2人で話せますか?」
「え?あ、はい構いませんが…」
一応周りの目が無い場所まで移動してから、彼に問い掛けます。
「すいません。失礼を承知でお聞きします。神に誓って他言はしませんので教えて下さい。
ひょっとして、ケイトさんが目障りですか?」
「くっ…わかってしまいますか。言われる通りです。
ケイトはクレイドル侯爵閣下の外孫になります。つまり侯爵閣下のお嬢様の娘です。
彼女は正義感が強く、実直で、人懐こい性格の良い娘です。ウチの隊のマスコット的な立ち位置で、隊員達からも本気で可愛がられてます」
「そうなんですね。見た印象通りの方じゃないですか。でもだったらなぜ?」
そう問い返すと、モーム隊長はなんとも言えない微妙な表情で話してくれました。
「はっきり言って、武芸全般に才能がないんです。剣でも槍でも弓でもです。しかも非力で、比較的扱い易いはずのメイスなども全くダメなんです。
しかし、本人は本当に懸命に訓練しているもので…」
「はっきりと伝えられないんですね?かわいいし」
「ぐむっ…恥ずかしながらその通りです。王都の駐屯地であればそれでもよかった…あそこにいれば身の安全も保証されているようなものですから。
しかし、ここは違います。魔物は去ったとしても、恐らく野盗の類が隙を見てやって来る可能性もあります。
我々は寡兵です。正直、足手纏いを庇いながら戦う余裕はないでしょう」
なるほどなぁ…後続が来るまでは不安で仕方ないって事か。
「そんな子が、なんでこの任務について来てるんですか?
任務自体、魔物の討伐が目的だって…」
「任務に参加したのは彼女の意志です。それを侯爵閣下に直訴したらしくて…ですから、副隊長以上は全員死ぬ気で来ていました。
侯爵閣下からは、必ずケイトを守るようにと厳命されていますし、万が一にも死なせては、もはや帰る事も出来ません」
「言葉は悪いですが、ようは出来ない事をやれと命令されたって事ですかね…
クレイドル侯爵閣下にお会いした事はないんで、人柄も存じませんが、そういう無茶を平然と言う様な方なんですか?」
はっきり言って、そういうタイプなら知り合いにもなりたくないし、会っても面倒な事になる予感しかしないよね。
「いや、閣下は単なる孫バカなんです。私の父もそれには呆れてました。
幸いにもケイトの父母は常識的な躾をされていますので、ケイト自身はまだまともです。ただ、祖父には我儘を聞いて貰える事だけは、間違いなく理解してますね」
あー…なんか理解出来たわ。
要は正義漢面した子供が、領民の為なら命も惜しくないとか言って、討伐任務に参加させて貰える様に侯爵に泣きついたんだね。
で、孫バカ侯爵はきっと、孫娘を褒め称えた上で、騎士団に命令したんだな。連れて行け傷ひとつ付けるなって…
こりゃ協力してあげたいなぁ…流石に不憫だわ。
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