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第五章 フランカ市

第142話

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 小屋を収納から取り出して広場の隅に設営した後、夕食の準備に取り掛かろうとした時、ようやく気付きました。
 そういや山羊、解体してねぇし。

 食材変更の4文字が脳裏に浮かびます。
 一瞬の逡巡の後ネルの笑顔を思い出し、とりあえず一部だけ解体する事に。
 てゆーか、これでオークなんて出そうものなら、何を言われるかわかりません。

 幸いな事に広場のスペースは十分なので、以前飛龍ワイバーンの解体の際に作った解体台を設置出来そうです。

 「マイラさん!ちょっとお願いしたいんですけど!」

 「なんだい?またなんかやらかす気かい?」

 笑顔で言われても…

 「違いますから。泣きますよ?ほんと。
 山羊の解体してなかったじゃないですか。それで、全部は絶対無理なんで、とりあえず片脚の腿の辺りだけ肉にしたいんですよ。
 せっかく綺麗な全身なんで、上手いこと剥ぎ取りたいなと」

 「なるほどね。確かにその考えには賛成だよ。
 皮の剥ぎ取りの途中で止めて、肉を切り出せばいいんだね?」

 「はい、そうです。残りは収納しちゃうんで、続きは後日やりましょう」

 その辺のテクニックは、マイラさんには遠く及ばないので任せるに限ります。
 解体台を取り出すと、魔導給湯器を設置し表面を水洗いしてから暴君山羊タイラントゴートを置きます。
 やっぱデケェなぁ…

 「マイラさん、申し訳ないんですけど、ちょっとやっておかないといけない事が他にあるんで、任せてもいいですか?」

 「ん?あぁ、もちろんだよ。それにしても、改めて見るとほんと大きいねぇ…
 まぁ見てても仕方ない。さっさとやってしまうよ。
 おーい!エリーヌ!シア!ちょっと悪いんだけど手伝ってくれないかい?」

 この場をマイラさん達に任せて、僕は1人別行動です。

 小屋の近くに差し掛かると、グラルが巴をマッサージしてるところでした。

 「グラルも今日はお疲れ様!巴も頑張ってくれてありがとうね。
 2人とも、後でゆっくり休んで貰える様にするから」

 「旦那は何かご用事ですかい?」

 「うん。ちょっとね。後でわかるから。
 グラルには悪いんだけど、巴の世話が終わったら、ナディアとカマドの準備してくれるかな?
 今マイラさん達が、さっきの山羊を肉にしてくれてるからさ」

 そう伝えると、グラルは笑顔で頷いて巴のマッサージを再開しました。

 途中、小屋の横を通りながらチラリと中を覗くと、風羽花と銀がネルの前に座りながら、何やらトーク中の様です。
 2人ともなかなか真剣な様子。何を話してるのか気にはなるけど、割り込む訳にもいかないし、後でネルに聞いてみようかな。

 みんなの様子も見ながら移動し、小屋の横の斜面に着きました。結構な急斜面だけど、足元の瓦礫はかなりしっかりしてるようです。
 斜面の上にはかなりの大岩が見えます。
 どうやら岩というよりも、硬い岩盤の一部が張り出してきてるみたいだね。
 目的地はあの岩の上です。念のため足元の瓦礫を魔力で固定しながら斜面を登りますか。


 ほい到着。おぉ!こりゃ予想以上だね。
 丁度、棚状に張り出した岩は思ってたよりも広く、まさに展望台です。
 沈みきる寸前の陽が、遠くに見える山並みの端を薄っすらと照らし、最後の輝きを見せていました。
 程なく完全に陽は沈み、辺りの暗さが増すと共に、夜空には無数の星が煌めき始めます。今日は雲一つない快晴だったので、とにかく沢山の星。
 地球と同じ空じゃないのはわかってるけど、どっかに太陽があるのかね?ネルなら知ってるかもしれないなぁ…

 おっと、いつまでも感傷に浸ってるわけにはいかないか。さっさと作業を終わらせて戻らないと…


 もちろん、何の問題もなく作業は完了です。
 何を作ったのかは想像出来ると思いますけどねっ!
 念のため足元を綺麗に均してから、細かい石や砂を魔力で起こした風で吹き飛ばしておこう。
 よし、完了。急いで戻らなきゃね。



「おかえり、ユーマ君。丁度いいタイミングだよ。今左の後脚を剥ぎ取り終えたところさ。結構な量になったから、晩御飯には十分じゃないかね。
 それからさ、ちょっと耳を貸しておくれ…」

「…え!?そうなんですか?それはまた…」

「だろう?もちろん、売りに出したらちょっとした騒ぎになると思う。
 ただ、効果は凄いからねぇ…」

 …効果ゆうなし。

「まぁ、単純に考えても、あれだけ魔力が豊富に含まれてる肉だから、食べて損は無いと思うけどねぇ。
 どうするかはユーマ君の判断に任せるよ」

「わかりました。グラルと僕とエリーヌは少な目にしておいた方が無難かもしれませんね。
 普通の人にはちょっとキツ過ぎるかもしれないし」

「君は普通に含まれてないと思うんだ…」

 …聞こえない聞こえない。

「無駄な事をして…まぁ、色々関係なしに、高級品であることは間違いないから。
 腿の肉だって十分に高級品だけどねぇ」

「そういえばそうでしたね。
 じゃあ、残りは仕舞っておくんで、後片付けしちゃいましょうか」

 解体途中の山羊を収納し、腿肉は調理しやすい様に切り分けて収納。解体台の表面を水で洗い流してから、こちらも収納してしまいます。

 カマドに向かうと、グラルとナディアが既に熾し終えた火の番をしてくれていました。

「旦那、小屋の薪置場の在庫が少なくなりましたぜ。補充出来ますかい?」

「そう?ありがとう。後で補充しとくね」

 食事の後の予定が増えましたが、大した手間でもないからいいか。

 さぁ、暴君山羊の調理してしまいましょうかね!

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