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第五章 フランカ市

第140話

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 …どうも、僕です。

 冷や汗が背中を伝う感じって、初体験なう。

 「ユーマ君。ネル様じゃないけどアタシも最近、君の表情を見てると考えてる事がわかるような気がしてるんだ。
 まさかとは思うけど、何か有り得ない事をやらかしたんじゃないのかい?」

 「…えーと、あの…し、知らなかったんです…」

 「ほぅ?何をだい?ちょっと詳しく話を聞こうじゃないか」



 暴君山羊タイラントゴートの死体を収納した後、何故かマイラさんに連行されて馬車に戻りました。

 「それで?何がどうしたのか聞かせてくれるかい?」

 「いや、本当に知らなかったんですよ?あの…」

 ハイライトが消えた目で見つめる、マイラさんの圧力に負けた僕は、魔導給湯器を作った時の話をしました。

 「…うん。なんて言ったらいいのか。コメントに困るよ」

 「はい。すいません。ごめんなさい。以後気をつけます」

 「…なんて気持ちが入ってない言葉だろうねぇ」

 僕の話を聞いたマイラさんが、呆れながらも解説してくれた所によると、魔道具とは以下の様なモノをいうそうです。

 ・魔力が操れない人でも魔法由来の効果を得られる
 ・一つ以上の魔法陣や魔法式を組み込む事で効果を発揮する
 ・魔石から引き出す魔力を魔法陣などの動力にしている

 っていうのが魔道具の普通のイメージみたい。

 僕の作った魔導給湯器は、現状では一つも該当してませんでした。
 …やらかしたぁ。

 まず魔石そのものに水を集める能力や、水を温める能力が付与された事が常識ではあり得ないそうです。
 普通のお湯を出す魔道具は、魔石から魔力を引き出す魔法陣と水を生成する魔法陣、さらにそれを加熱する魔法陣を連動させるらしく、魔法陣にはそれぞれの効果が発動する場所などが書き込まれてるみたい。

 「アタシは、ユーマ君は魔法陣を使いこなせるんだと思い込んでたよ。
 アレを正確に描くのも魔道具職人の技術でね、単体の魔法陣を確実に発動させられるの様になって、ようやく一人前さ。
 その魔法陣を連動させるには、さらに技術を磨かないといけないんだ」

 「あっ…はい」

 マイラさんが教師みたいに話してます。メガネ・ブラウス・タイトスカートを装着したら似合いそうだなぁ…
 なんて事を考えてたら、睨まれました。

 「だから、若いのにそんな技術を持ってるのは大したものだと思ってたんだけどねぇ…
 まさかそんな話だなんて、一体誰が想像出来るんだい?」

 「なんか、すいません…」

 マイラさんによれば、魔石は内包する魔力の量が多い程価値が高く、また通常は無属性の純粋魔力が込められているので、属性を持つ魔石もまた希少価値が高いそうです。

 「その意味でも、その給湯器に使ってる魔石は属性魔石と言えない事はないんだけどねぇ。
 まさか付与で属性を持たせるとか、どれだけ斜め上の発想なんだろうかと思うよ」

 「いや、付与とかしたつもりはないんですけど…」

 「結果としてみたらしてるんじゃないかなっ!?全く…」

 ひぃっ!?マイラさんが怒ってる…

 水を集める方の魔石には水属性が、加熱する方の魔石には火属性があるとしか判断出来ないから、鑑定の結果としては属性魔石になるみたいです。

 「あっ!もしかして、魔石に効果を付けようとしたら、結構抵抗感があったのって…」

 「魔石に属性付与しようとしたからじゃないかねぇ。でも結局どうやったんだい?」

 「えーと…無理矢理?かな…?」

 マイラさんは驚きの表情で一瞬固まった後、呆れた様に声を上げました。

 「はぁ…力業かい?そりゃそうだよねぇ…それしか無いと思うよ。
 ユーマ君はそういうのが好きなんだねぇ?
 …まさか女性にもとかじゃないだろうねぇ!?」

「なんでそうなりますかっ!?」

 マイラさんの想像力も、十分斜め上じゃん…

 「あれ?そういえば、水を集める方の魔石に加熱の効果を付けようとしたら、全然受け付けなかったのって、もしかして水属性が付いてたから?」

 「そんな事までしようとしてたのかい?
 そりゃ無理が過ぎるだろうねぇ…
 魔石だって、正反対の属性を無理矢理押し付けられたら、さぞかし嫌だったろうよ」

 「なるほど、それで合点がいきました。どれだけやってもダメだったんで悔しかったんですよね」

 あの時は結構頑張ったんだよなぁ。
 まぁ、結果的に水もお湯も出せる様になってよかったんだけどさ。

 「それにしても、毎回の様にアレだけの量のお湯を作り続けてるにもかかわらず、交換はした事がないんだよねぇ?
 一体どれだけの量の魔力が込められてるのか…」

 「うーん…量はわかんないんですよね。とりあえず沢山込めたら長持ちするんじゃないかなって思ったんで、結構多いとは思います。
 魔石の真ん中が光ってきたから止めたんですけど」

 「なんだって!?魔石が光ったのかい?それはまた…」

 マイラさんがまたまたビックリしてます。

 「なんかあるんですか?まさか爆発する寸前とか…?」

 「いや、うーん…そのまま込め続けてたら爆発したのかもしれないけどねぇ。
 中心が光っている魔石っていうのはね、含有魔力量がとても多い魔石なんだよ。とても珍しくて価値が高いんだ。
 昔素材オークションで出品された事があってね、拳大の魔石だったんだけど、落札価格は光金貨10枚だったよ。金貨に直したら10000枚だね」

 …まじすか。

 「ちなみにその魔石の大きさはどんなもんだい?」

 「えーと、だいたい僕の拳2個分くらいですね」

 「それはまた…サイズは倍で光ってる属性魔石って事になるねぇ。
 はぁ…そんなもの出品されたらさっきの10倍位の値がついてもおかしくないだろうさ。買い手が付くかすらわからないよ。
 仮に売れるとしたら、王族でもなきゃ手が出せないね」

 …わぉ。気軽に使ってた魔導給湯器ですが、金貨10万枚以上の値段だったみたいです。

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