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第三章 バーナムの街

第76話

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 しばらくすると男爵の登場です。

 「お待たせしたね。早速なんだが昨日の返事を聞かせてはくれないだろうか?」

 「はい。エリーヌお嬢様をお預かりさせて頂きます。
 ただし、僕達について知り得た情報を、一切開示出来ない様に契約魔法を結ばせて頂けるのであればですが」

 「うむ、それについては了承しよう。なに無理を言っているのはこちらなのだ、よろしく頼む」

 隷属魔法だって知られたら怒るだろうなぁ…
 ともかく男爵から同意は引き出せたし、後はどうにかなるように祈るしかないか。

 「閣下、例の密書の件も承諾頂きましたぞ。この後詰所に向かってもらい、その足で回収に行って貰うという事でよろしいですかな?」

 「おぉ!そうか。それは重ね重ね感謝いたすぞ。
 では、後の事はバローに任せる。ユーマ君、必要な物はバローに言うとよい。支援は惜しまぬ」



 さて僕達は、密約書の探索に出る為に守衛隊詰所に来ています。
 今は、バローさんとレイバック隊長が、何やら打ち合わせをしているのを待っている状況です。

 「やぁユーマ殿、昨日ぶりだね。バロー殿から話は伝わっているみたいだから、詳細は省くよ。
 今から地下牢に同行してもらって、盗賊頭から場所を聞き出してくれるかな?その後必要な物を準備して出発して欲しい。
 昨日話した報奨金はこちらで用意しておくよ。帰ったら納めてくれ」

 「わかりました。じゃあ、シア達はちょっとここで待ってて。行ってくるから」
  


 僕はレイバック隊長に連れられて地下牢へとやって来ました。
 もっと辛気臭い場所かと思ってたけど、地下っていうか半地下って感じで、換気と明かり取りを兼ねた格子窓が設けてあって、それなりに整った環境かな。
 牢には流石に窓はなく、硬そうな岩壁に、堅牢な鉄格子で閉じられています。
 匂いもあんまりないけど、排泄物の処理とかはどうなってるんだろうね。

 盗賊頭は、手前から3枠目の独房に入っていました。

 「おい!貴様の要望通りユーマ殿を連れて来てやったぞ。
 密約書の隠し場所を聞かせて貰おうか」

 「おぉ!あんたに会いたかったんだ!俺たちみてぇな底辺のクズ野郎に、マトモな対応してくれたあんたに!
 ユーマさんって呼んでいいかい?」

 盗賊頭の発言に、レイドック隊長がキレそうになってます。

 「レイドック隊長、いいんですよ。大丈夫です。
 好きなように呼んでくれていい。話してくれるかな?」

 「ありがてぇ。俺はグラルってんだ。
 俺はユーマさんの器のデカさに惚れたんだって。
 嘘じゃねぇ、信じてくれ!だからこの一件もあんたの役に立てばいいって思ってよう」

「グラルだね、わかったよ。それで密約書はどこにあるか教えてくれるかな?ここから近い場所?」

 盗賊頭改めグラルに、密書の所在を確認してみます。
 グラルの説明によれば、バーナムからであれば、ルーアン方面の街道をおよそ半日ほど進んだ、草原の中にある小さな岩山の中に隠したそう。
 街道から岩山を直接見つけるのは、少し大変らしいけど。

 「なるほど…あちらの草原には何箇所か岩山があります。探すのも少し骨かもしれませんね…しらみつぶしに当たるしかないでしょう。
 とりあえず数日探索出来る様に準備します」

 「レイドック隊長。ちょっと提案なんですが、グラルを連れて行かせてもらえませんか?
 僕もそこまで時間をかけたくありませんし、逃亡させない手段もあります」

 「むぅ…私の独断ではなんとも。一旦バロー殿に相談してみます。
 確かにユーマ殿の時間を割いて頂くわけですからね」

 渋々ながらも、無事バローさんの了承を取り付けたとの事で、グラルを牢から連れ出し、道案内をさせる運びとなりました。
 こんな事で時間取られたくなかったので良かったです。



 「では、グラルの事はユーマ殿にお任せします。
 おい!逃げようなんて思うな?無事に事が運べば、少しは処分が軽くなる様に嘆願してやれるんだからな」

 「そんな事するかよ!ユーマさんに迷惑かかっちまうだろうが!
 俺もちっとは改心してんだ。過去は変えられねぇから罪は償うさ」

 グラルについては、銀と風羽花もいるし絶対に逃げられる事はないけどね。
 時間は既に昼前、急がないと日が暮れるらしいので、さっさと出発する事にしましょう。



 ルーアンへ向かう街道は、主要な道でもありよく整備されていました。
 馬車を引く馬も優秀なものを選んでくれたおかげもあり、快調なペースで進んで行けます。

 「この調子なら日が暮れる前に近くまで着けるはずでさぁ。岩山にはちょっと厳しいかもしれねぇけど」

 「大丈夫、街道外れで一泊して明日岩山に着けば問題ない。
 野営が苦手じゃないのは知ってるだろ?せっかく協力してくれるんだし、今は仲間として扱うつもりだから」

 そう聞いたグラルは嬉しげに頷きました。


 道中は極めて順調に進み、日が暮れる前にグラルから声がかかります。

 「ユーマさん、このあたりで間違いない。地形の位置が記憶の通りだ。
 あとは、街道を外れて3時間もいけば、隠し場所につくはずでさぁ」

 「了解。じゃあ日が暮れるまで進んで、そこで野営にしよう。
 銀達と風羽花は今のうちに晩御飯の材料探してくれるかな?角ウサギ何匹か取れたら充分だからね」


 草原に入ると流石に馬車の速度も落ち、馬にも疲労感が見えてきたので、そろそろ野営にしましょう。
 街道からはそこそこの距離が稼げたので遠慮なく拠点を設営してしまいます。

 「相変わらずユーマさんはとんでもねぇなぁ…
 こんな力があるなら、どこ行っても引っ張りだこ間違いなしだわ」

 そんなグラルも輪に加えて、初の草原キャンプといきますか。
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