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第三章 バーナムの街

第67話

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 「そろそろ見張りの交代を出した方がいいんじゃないか?アイツらも暇だろうし」

 「森の入り口の見張りからも連絡ないから、今日は終いか」

 洞穴の入り口には、2人の盗賊が見張りに立っています。2人とも短剣を手に革鎧を身に付けて、一見すると強そうな雰囲気がありました。まぁ関係ないけどね。

 「さっきと同じように水球で意識を刈り取るよ。マイラさん2人の拘束をして下さい。シアはネルをお願い。
 銀は配下達と、森の入り口に見張りがいるらしいから、そっちを片付けて?嚙み殺しちゃっていいから」

 僕はみんなに指示を出して、見張りの後ろに水球を作り出すと、2人同時に頭を包み込みます。
 2人とも地上で溺れるなんて、思わなかっただろうなぁ。
 しばらくもがいてから倒れた2人を、マイラさんが縛り上げます。一応声を出されないように猿轡を噛ませておきましょう。

 「銀達が向かった方に何人いるかわからないけど、中には少なくとも10人位は居ると思うんだ。だから安全策を取ろう」

 「どうするんだい?ユーマ君」

 「空気で攻撃するんです」

 正確には酸欠状態を作って、中の盗賊の意識を刈り取る作戦を取ろうと思います。
 洞穴に抜け穴がある事も考えて、岩山一帯を魔力の膜で覆うイメージをします。小動物を巻き込んだ様な感触がありましたが、そのまま固定しちゃいましょう。
 しばらくその状態を維持していても、一向に人が出て来る気配がありません。
 …まさか留守?

 30分程様子を見ましたが変化がありません。

 これ以上は待っても意味がなさそうなので、魔力の膜を解除して様子見に入ってみる事にしましょう。
 中は恐らく酸欠状態の筈なので、入り口に送風効果を持たせた魔力のリングを作ります。ダ◯ソンのアレを想像しながら魔力を発動。いい感じ。

 「なんだいそれは?見た事ない魔法みたいだけど…」

 「マイラ、いちいち気にしたらダメよ?ユーマなんだから」

 …ネルが酷いです。ちゃんと理屈もあるんだからねっ!

 ともあれ、中への空気供給は出来そうなので突入します。

 洞穴の中は暗く、灯りも見たあらなかったので、魔力眼を発動しながら奥に進みます。
 しばらく行くと地面に盗賊らしい男が3人倒れていました。
 まだ死んではいない様なので、狙い通り酸欠で意識を失ったみたいだね。これで一安心。
 今は空気を供給しているから意識を回復される前に拘束しておきます。
 一旦戻って再突入した方がいいよね。

 「大丈夫。上手くいってたみたい。
 一気に制圧するから、マイラさんは手伝って貰えますか?シアは見張りをお願い」

 「「了解よ(なのじゃ)」」

 マイラさんと再突入すると、なんとマイラさんは灯りの魔法が使えるそうでお願いしました。

 「光球ライトボール

 あ、これなら僕も作れそうかも。今度試してみよう。

 奥には小部屋の様に拡げられた空間があり、その床には盗賊らしい男が7人と、縛られた初老の男性が1人、そして服を破かれて色々と見えてしまっている若い女性が2人倒れていました。
 …面倒事の予感しかないです。

 予定通り盗賊は、拘束をした後洞穴の入り口横に集め、手足を拘束し直して放置しました。
 体格のいい凶悪な人相の男が恐らく盗賊頭ですね。そいつだけは全身をぐるぐる巻きにしておきましょう。

 捕まっていたらしい3人は、柔らかな草地に横にして、マイラさんに介抱をお願いしました。
 しばらく様子を見ていると、ぱっと見20代前半位に見える方の女性が、回復したのか小さく声をあげました。

 「う、うーん…ひっ!?」

 「大丈夫かい?」

 彼女を見つけた時の格好から予想出来た通り、気を失う直前まで凌辱されかかっていたようです。
 目を開けて瞬間身体を強張らせましたが、マイラさんの顔を見て状況を把握したみたい。

 「うぅ…。あぁ、助けていただいたんですね…って、お、お嬢様はっ!?お嬢様はご無事でしょうかっ?」

 「すまない。お嬢様というのがどなたかわからないが、一緒にいた女性ならば隣に」

 「お嬢様!良かった!ほんとに…」

 盗賊に襲われ自分の身も危なかったなか、連れの女性を案じてるこの女性はアイリスさんと言うそうだ。
 アイリスさんはお嬢様と呼んだ女性を優しく抱き締めて呼びかけました。

 「お嬢様。起きて下さい。もう大丈夫ですよ」

 「んっ…アイリス?…アイリス!あの連中はっ?」

 「この方々が助けて下さったんです!ジオさんもあちらにいらっしゃいます。ご無事ですよ」

 お嬢様は恐らく10代後半って感じだね。アイリスさんは茶髪だけど、お嬢様は銀色に近い薄い金髪の美少女です。
 彼女はマイラさんに顔を向けると、ちょっと驚いたような顔になりました。

 「エルフの方ですね…あなたが助けて下さったんですか?危険を押してありがとうございました」

 「いや、アタシは手伝っただけさね。あんたがたを救出したのは彼さ」

 お嬢様は僕を見て一瞬ビクッとして目を逸らしました。
 まじすか…地味に凹む反応じゃん。

 「あ、ごめんなさい!先の件がありますもので。恩人に対して大変失礼かと思いますが…」

 凹んだ僕に気付いたアイリスさんがフォローしてくれました。
 まぁ男性恐怖症になってもおかしくはないもんなぁ。
 でもこの先が不安です。



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