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第ニ章 ガルドの街

第62話

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 「ユーマ君。コレはなかなかいい買物だよ。真銀ミスリルってのは魔力親和性が高いから貴重なんだ。
 確かに付与はないから、このままだとムダに高い装飾品でしかないんだけどねぇ。
 この先、王都やルフ王国に行けば付与術士もいるから、持ち込みで付与すれば、価値は倍以上だ」

 市場を歩きながらマイラさんが教えてくれました。
 付与術士ってのがいるんだね。そういえば僕も保冷庫用に石版に冷す効果とか付けてたから、多分そんな感じなんだろうね。

 「私の欲しいのはそれじゃなかったのに!」

 ネルから苦情が入りました。

 「ごめんネル。でもコレもネルには似合うと思うよ?元が美人さんだから何付けてもプラスにしかならないし」

 「あ、当たり前じゃない!女神様なんだから。
 ま、まぁ今回は我慢してあげるわっ」

 チョロいです。

 市場を進むとちょうど店並の終わりに、穀物なんかを扱っているお店がありました。店頭には小麦や乾燥豆などが袋で積み上げてあります。

 「いらっしゃい!何しましょ?」

 元気な声のおばちゃんが声をかけて来ます。

 「えーと、小麦とこの豆と…あ、アレもしかしてコーヒー?」

 「これかい?そうだよ。いい薫りしてるだろ?上物さ」

 どうやら先日のレストランで飲んだのはソレだったようです。知ってるコーヒー豆とは別物ですが香りは間違いなくコーヒーです。

 「そしたらそのコーヒーも下さい」

 「コレは安くないよ?一袋で金貨2枚だ。小麦と豆とあわせて全部で金貨3枚だね」

 胡椒なんかもそうだけど、嗜好品っていうのは高いんだね。でも買っちゃう。食生活が豊かになるんだからさ。
 というわけで全部購入。
 収納のおかげで荷物にもならないしね。

 とりあえず一通り眺めて見て、欲しいものは購入したし、思わぬ掘り出し物も、マイラさんのおかげで入手出来たって事で市場を後にします。

 もうそろそろ日が天頂に差し掛かる時間になってきました。
 最後は一応冒険者ギルドで、出発前の情報収集をして街を出ようと思います。



 ギルドに着くと、昼前という事もあってか人影も疎らです。
 受付カウンターにはソフィさんの姿があったので、彼女に声をかけてみましょう。

 「ユーマ様。冒険者ギルドへようこそ。ご用件を承りますね」

 「これから王都方面に出発するんですけど、注意情報とか、隣街の情報って教えて貰えますか?」

 「そうなんですね!ほんとその節はご迷惑をおかけした上に、大変お世話になった方ですから寂しく思います。
 この先の道中のご無事をお祈りいたしますわ。
 ご要望の資料をあちらのブースにお届けしますので、お座りになってお待ち下さい」

 ありがたいことに資料を見せて貰えるみたい。マイラさんの情報を補完するのにちょうどいいね。

 ほどなくソフィさんにより届けられた資料を、マイラさんが中心になって確認しました。
 王都方面は全体的に起伏の少ない平原となっており、途中森を抜ける部分があるものの、あまり脅威となる魔獣などは現在確認されていないようです。
 ここ半年ほどは盗賊などの出没情報もないようなので、気楽な道中になるかもしれないね。
 隣町までは歩きで3日。途中キャンプするのが基本で、街道も川に沿って延びているようなものなので、補給には特に問題もなさそうです。
 ただマイラさん曰く、途中の森には稀に大物が住み着いたりする事も過去あったそうなので油断だけはしないようにしないとね。ちょっと興味あるけど。

 ざっと把握したのでソフィさんを呼んで資料を返却しようとした時に、ジークロフトさんがホールに顔を出してこちらに気がついたようです。

 「ユーマ殿!考えなおさないか?ユーマ殿ならこのギルドのトップ冒険者としてやっていける!なんとか残…」

 「りませんってば!行かなくちゃいけないですって言ったじゃないですか…」

 「やっぱりそうだよなぁ…わかってはいたんだが。ともかく道中の無事を祈る。
 隣街のギルドにも寄ってみてくれ。あそこのギルマスは昔馴染みだ。俺の名前出せば少しはマシな話も聞けると思う」

 「わかりました。タイミング良ければ寄ってみます。ジークロフトさんとお会いできて良かったです」

 出口まで見送ってくれましたが、特に良い思い出はないんだよね、ここ。



 「これでこの街にはもう用事はないかな?マイラさんも大丈夫?」

 「あぁ問題ないよ。素材屋が閉まって困る冒険者は多少居るだろうけど、売り先はほかにもあるからね。
 そろそろ出発しないと、キャンプの場所が半端なところになりそうだ」

 「よし、じゃあ出発しよっか!」


 初めて来た時は東門から街に入って来たんだけど、王都方面は北門になるみたいです。
 外観はほぼ違いもなく、開けられた門にはやはり守衛が立ち、北から来る人を確認しています。
 流石に王都方面からとは言え、ここは辺境の街。それ程沢山の人が来るわけでもないらしく、行商人と護衛らしい集団の他には人影はありませんでした。


 石畳の敷かれた街道を歩き始めてしばらくすると、銀が良く通る声で一鳴き。すぐに草原から三匹の狼がやってきます。
 マイラさんは一瞬身構えちゃいましたが、配下とわかって落ち着いたみたいです。
 …伝えるの忘れてました。ごめんなさい。

 これで全員集団。数日ぶりの旅路につくのでした。
 この先には何が待ち構えているのか、楽しみでしかたありませんね!

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