上 下
46 / 170
第ニ章 ガルドの街

第44話

しおりを挟む
 「実際のところ、本気で、もう少し全体を底上げした方がいいと思うんだよね。ギルドはそういう考えとかないのかな?」

「危機意識がないのよ、きっと。
 少なくともここ100年以上、魔物の集団が街を襲った記録はないし。
 それにこの街の周りって、そんなに強力な敵もいないじゃない?
 必然的に最低限の能力だけでやっていけてるし、稀に強い相手が現れる位なら、それこそケビン達程度の実力でも十分だったんでしょうね」

 確かにネルの言う通りだとすれば、危機意識なんて芽生えないだろうし、実力だって伸びるはずがない。

 「ネルとしては、街一つ分の人族がやられちゃったとしたら、それは自然現象的に思うものなの?」

 「そんな事はないわ。一応魔物よりも生産力が高い分、人族はリソースの再生産に関しての貢献度合いが高いもの。
 その分消費も増えて行ってはいるけど、人族が減る事の方がマイナスの影響が大きいって事よ」

 「だとしたら、やっぱりそのリスクを減らす方向に動く方が、僕の存在理由により適うって事か…
 明日ギルドに行った時、ジークロフトさんにオークの群れの話してみるよ」

 「そうね。そうやって動いてみたら何か変わるかもしれないものね。
 明日はわたしも一緒に行くわよ?シアもいいわね?」

 「もちろんじゃよ。我ユーマ様の従魔じゃし、一応護衛って事になっておるからのぅ」

 『ふうかも!ふうかも行くです!』

 風羽花まで乗り気になってる。それなら銀も連れてみんなでいかないとね。

 「よし、じゃあ明日はみんなでギルド行こう。昼過ぎまでは街を散策するよ。お店巡りとかもしてみないとね」

 「そうね。じゃあ寝ましょ!ふーちゃんも眠たそうだし」



 そしてみんなが寝静まった頃

 「…ねぇ、ユーマ。ちゃんと覚えててくれてありがとう」

 「きいてないよー」

 「ばか…」

 なんて事があったんだよね。最近ネルがデレる事が増えてきたので、密かに喜んでいます。
 翌朝、目が醒めると何故かシアが一緒に寝てたりして、ネルがシアに噛み付いたりしました。

 「シア!あんたねー!弁えなさいよ!何こっそり潜り込んでんのよ!」

 「じゃってー」

 「まぁまぁ、ネル、許してあげよう?きっと寂しかったんだってば。
 シアもずっとぼっちだったんだからさ」

 「あのねぇ!精霊なんて基本ぼっちなのよっ!そもそもぼっちって言うなら、私だってぼっちだわっ!」

 ネルのぼっち発言…触れてはいけない予感。

 「ちょっと!なんで黙るのよっ!?やめて?ねぇ、流そうとしないで?」

 「ふふっ、ごめんごめん。焦るネルかわいいよ?」

 「んなっ!何言ってんのよーって無視すんなー!!!」

 なんてやりとりで朝からほっこりしつつ、食堂へ。

 「あらあら、おはようございます。
 朝食お召し上がりになりますでしょ?座ってお待ち下さいな」

 マーサさんが笑顔で迎えてくれました。
 メアリも朝から手伝いで忙しいみたいだね。あちこちのテーブルにプレートや飲み物を届けに動き回ってるし。
 席に着くとすぐにメアリが朝食を持って来てくれました。

 「おはよー!朝食はウチの焼き立てパンに角ウサギのベーコンソテーにサラダのセットでーす!」

 「ありがとうメアリ。頑張ってね」

 小さく手を振ってニコニコしながら戻って行くメアリの後ろ姿は、どことなく機嫌が良さそうに見えます。

 「てゆーか、私の分も用意してくれたのね。
 妖精だったらこんな食事摂れないから、マーサには何かしら気付かれてるのかも…」

 「まぁ、いいじゃん。あの人は何か仕掛けて来る様な人じゃないと思うしさ。それよりさっと済ませて街に出よう」

 朝食は昨日の晩よりもしっかり味わって食べられたからか、とても美味しかったです。




 「で、とりあえず何処行くつもり?」

 ネルが魔力で作った羽根をパタパタしながら聞いてきます。コレ絶対気に入ったやつだ。

 「えーとね、今は手持ちのお金が頼りないから素材の売却とかを考えてる。
 ギルドでも売るつもりだけど、ギルド以外の相場も知りたいし。後は物価的なやつも知っときたいかな」

 「じゃなくて、場所とか知らないでしょ?どうするのって意味できいたんだけど…」

 …あ、そうだ。宿出る前に言えって。

 「あんたがさっさと出たんでしょうが!考えなしとかやめてよね。
 いいかげんなんだから…」

 「ユーマさーん!待って待ってー!」

 と、メアリが追いかけててきました。

 「はぁ…よかった追いつけて!
 ママが、今日は花売りお休みにしていいからユーマさん達を街案内してきなさいって!」

 「そうなの?助かるよ!丁度、今ネルにつっこまれてたとこだったからさ」

 「うふふ、良かった!これでも街には詳しいと思うから任せて!」

 いやぁ、渡りに船っていうかマーサさんの読みには脱帽だね。案内賃弾まなきゃ。

 「昨日大銀貨貰っちゃったからさ。普通の案内料なら何十回分だよ?
 お花の代金だって全部売れても銀貨2枚だから貰いすぎって思ってたし」

 …まじか。物価知らないのはダメだね。今日のうちにある程度把握しとこう。

 「そっか、それなら遠慮なく案内してもらうよ。
 じゃあまずは、素材の買取してるお店とか商会とかから連れてってくれるかな?」

 「はーい!了解です!じゃあ、行こっ!あっちからね」

 メアリは僕の手を取ると、元気よく引っ張ってくれます。
 さぁ異世界初めての街探索を始めますか。




しおりを挟む

処理中です...