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第ニ章 ガルドの街

第36話

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 シアのコスプレはひとまず解除しました。

 「我似合っておったかの?どうじゃったかの?」

 …何アピールだよ。

 「シア?あんたなんてついでなんだから、どうでもいいに決まってるじゃない」

 「くはっ!」

 もしかして狙ってやってんじゃないのかって思うよ…

 「シアはほっといて、私は似合ってるでしょ?」

 「そりゃもちろん!そもそもネルの為に作ったんだから、似合ってるに決まってるって。
 美人が可憐になったっていうのかな」

 「な、なによ…照れるじゃない!」

 いや、ネルが振ってきたんじゃん。
 まぁ実際可愛らしい感じになってるから嘘ついてるわけじゃなくて、本気でそう思うくらいには似合ってる。

 「あとはそのまま外に出ても大丈夫かって事だよね」
 
 「そうね。妖精自体が貴重になってるから、目立たないように注意しておかなきゃいけないかも」

 確かに妖精がいるとなれば、狙ってくる輩がいる可能性の方が高いんじゃないかとは思うよね。
 それに、素材として以上にネル自身を鑑賞用にとか考えるヤツだっているかもしれない。

 「でも、ネルは僕が守るよ」

 「…ばか。何恥ずかしい事言ってんのよ!…ありがと」

 「なんともピンクな空気じゃのに…。我、放置…。くふぅっ!はぁぁん」

 …もはや安定感。



 ネルの問題もひとまずは対策出来たという事で、僕達は今、街に降りて初めてのお風呂タイムです。

 湯船用のお湯を頼むか迷ったんだけど、よく考えてみたら、ここには水を司る変態ことダメトカゲシアがいました。

 「ねぇ、シア?湯船に水を入れるとかは出来る?」

 「無論じゃ。我は水を司る精霊じゃからして、その程度であれば…ほれこの通り!」

 シアの手先が淡い青に光ると、瞬く間に大きな水球が出来てきます。
 水球はシアの手の動きにしたがって湯船へ

 「…おぉー。ぱちぱちぱち」

 「我いじけてもいい気がするのじゃ…」

 あまりイジってもシアがヘコむ未来しか見えないので、一旦放置して湯沸かししようと思います!
 勿論、森にいた時の様に焼き石を投入するのも考えたんだけど、まずは焼き石を作る場所が確保出来ない事に気付きました。
 あと、もし焼き石作りの過程で予想外のエラーでも出た日には、この宿を全焼させてしまうなんて事も…

 という訳でお湯を作る手段を考えてみました。

 「火弾の火力を上げて湯船に撃ち込むとか?」

 「貫通力があるから、失敗したら湯船の底と床に穴が開くわね」

 「うーむ… あっ!そうだ!」

 「何よ?また変な事思い付いた顔してるわよ?」

 …変な事いうなし

 「ネルは水とお湯の違いってわかるよね?温度が違う理由って事だけど」

 「あ、当たり前じゃない!私、女神様よ?まぁ大人気ないからユーマに説明させてあげるけど」

 …いや、それ絶対知らんやつじゃん。

 「こほん。簡単に言えば水の分子の振動の量だよね?」

 「そ、そうね!さすがユーマ、正解だわ」

 「…というわけで、今から魔力で水分子の振動を上げていこうと思います!」

 「へぇ…よくわかんないけど、やってみなさいよ。それくらいなら危険もなさそうだし」

 わかんないって言っちゃったよ…

 でもまぁ実は、前に砂鉄から鉄板を作った時にほぼ同じ事をやってたのを思い出しただけなんだけどね。
 あの時はわからんなりに魔力で砂鉄を包んで、溶かすイメージをしたんだけど、要するに溶かす=個体を液化する、つまり加熱したのと同じ結果って事。
 具体的に鉄分子まで意識してたわけじゃないけど理屈は同じだ。
 今度は溶かすわけではないから、もっと水分子の振動を意識したイメージでやってみようと思います。

 まずは魔力を水に浸透させるイメージ。湯船ごとだと湯船自体にも効果が出そうだったので、そこは手堅く。
 後は徐々に振動を増していく感じで様子をみながら…

 おぉ!バッチリ!

 湯船からは湯気が立ち昇り、湯になっているのがわかります。
 温度は自信ないので手を入れて…

「あっつ!熱すぎだっ!調整調整…」

 一度イメージ出来たら後は簡単。今度は逆に振動を抑えるイメージで…

 よし!成功!
 色々な事をやって来たおかげで、調整するのはかなり上手くなってるんじゃないかな?

 「へぇ…大したものね。本当にお湯になってる。ユーマがやってた事自体はいまいちピンとは来ないけど、あなたが今してた魔力の制御の細かさはわかったわ。
 その精度の制御が出来る存在は、多分この世界にはいないわよ?
 もうそこまで行くと、ある意味シア以上の変態ね」

 …褒められてる気がしない、って言うか、その表現はやめて下さい。

 「これって繊細でもないよ?あーでも振動数が急に上がらない様にするのはまぁまぁ細かいか…」

 「魔力の出力量は最初から変わってないでしょ?それを変化させずに魔力が生み出す効果だけを調整してたじゃない?
 普通の魔法は、魔力の出力量と効果は比例する関係なの。でもさっきのは元は同じで効果だけが増えたり減ったりしたわよね?」

 「えーとね…多分ちょっと違うと思う。お湯が沸いたり、冷ましたりは結果だから。
 魔力術の効果としては水分子の振動数を増やすか減らすかって仕事だけなんだよ。
 僕がやってたのはイキナリ激しく振動させない様に調整しただけで…ん?」

 「気付いたみたいね。もし、それが振動を変化させる魔法なら、振動数を変える効果を制御してるって事なの。魔力の出力量を変化させずにね。
 普通の魔法使いなら、こんなに効率良いやり方出来ないわよ。
 ユーマがやった事を、他の状態変化系の魔法に置き換えて考えたらわかるわ。例えば身体強化魔法ならどうかしら?」

 「そっか…使う魔力量は同じままで、強化度合いを変えることが出来るかもしれないって事だよね?魔力量に上限があるから…」

 「そういう事ね。仮に戦争してたとしたら、それだけで戦局を左右しかねない技術って話にもなるわ。
 もちろんユーマ以外にやれる存在はいないと思うけど、可能性を感じさせる事だけでもねぇ…」

 気軽に使ってたから、自分では気がつかなかった事をネルが教えてくれました。
 これからはもう少し意識して、使う場面を選ばなきゃいけないかも。やめないけどねっ!

 「自重はしなさいよね…いやほんと」

 …触れてないのにつっこまれたし。
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