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第一章 異世界に来ちゃいました

第30話

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 どうも!いつもの僕です。

 無事に桃のアイツのフラグは回収せずに済みました。

 滝壺を出発すると風羽花と配下狼達は、特に指示なく先行していきます。まじ優秀。

 今日も天気は晴れ。
 初めは沢だった流れも、ちょっとした川の様子に変わって来ました。
 以前は大きな岩でゴツゴツしてた川原も少しずつ丸い石の川原に変わり、歩き易くなるとともに視界も通り易くなっています。
 森の木々が張り出している部分以外は特に危なげなく、気分的にはピクニックしてる感じです。

 「ユーマ様、この感じじゃと昼過ぎには平地にまで到達するじゃろうと思う」

 「そっか。ってあれ?シアはこの辺りは良く知ってるの?」

 「うむ。もちろん歩いた事はないが我は飛べるゆえ。
 用事があればこの川の先にある湖や、奥の山などにも足を運んでおったのじゃ」

 「へぇ、そりゃいいね!地理がわかるなら色々教えてよ?」

 「もちろん!と言いたいところじゃが、なにぶん説明が難しいのぅ…空から眺めるだけじゃったし」

 「そっか、それなら仕方ないか。もし地図でも手に入ったらシアの知識とすり合わせすればいいかもね」

 シアの言う様に、陽が中天に来る頃には両岸の森も徐々に薄くなり始めました。

 『主人様!森終わるです!もう広いのです!』

 風羽花から森を抜けると報告が来ました。

 「ネル!もう少しみたいだよ!」

 …ん?
 返事がないネルの様子を覗くと、銀に揺られながらのこの陽気で、熟睡モード。よだれが…
 写真が撮れないのが残念でなりません。

 おっ!閃いた!
 念写とか出来ないかな?歩きながら考えます。
 紙はないからとりあえず木の皮の裏とか布にイメージを焼き付ける感じで…
 確か収納に回収したオークの身につけてた布で比較的綺麗なのがあったはず。よし発見。

 …おぉ!出来た!
 デジカメを知ってる僕からすれば、画質的には比較にもならないけど、見た映像を単色で転写出来ました。

 「ほぅ!ユーマ様、これは面白いのじゃ!こんなものは見た事がないが、写し絵としては素晴らしい出来じゃのぅ!」

 「色がないのが難点だけど。このネル見てよ?涎垂らしてるのまで写ってる!   
 あ、シア!この絵の事ネルには絶対に内緒だからね?今からシアのを作るから、それが最初って事にしてよ?」

 「ふふふっ!2人の秘密じゃな!わかったのじゃ!」

 これは工夫したら色々と役に立ちそうだね!世間的には秘密にするべきなんだろうなぁ。ネルが起きたら報告ついでに使い方とかも相談してみないと。

 「ネル!ネールー!起きて!」

 「ふわぁあ…どうしたのよ?なんか起きた?」

 「まずは報告ね!もうすぐ平地に抜けるってさ。風羽花から連絡があったよ」

 「あら?そうなの?やっとね!」

 「時間的にも昼だから、平地に出たら一度休憩しようか。
 その時にもう一つ報告するから楽しみにしといてね!」

 ネルはそれを聞くとジト目を向けてくる。

 「なによ?またなんかやらかした?」

 「害は無いって。絶対役に立つヤツだから」

 「…どうだか」

 やっぱりそういう扱いなのね…



 そうこうするうちに僕達は無事に平地まで到達しました。
 早速昼休憩を兼ねて、写真をお披露目します。

 「何よこれ?凄いじゃない!これは役に立ちそうね!…ただその分しっかり隠しておかないとダメよ?」

 「やっぱりそうだよね。完成して最初に思ったし。使い途が思いつき過ぎてさ」

 「まぁ注意しながら使えば役立つんだから、今回はそれでいいわよ」

 「良かった。じゃあさ、ネルを写していいかな?一番目じゃないけど…」

 「いいわよ!自分の顔なんてしばらくちゃんと見てないし」

 …実は一番目なんだけどね

 「もういいの?すぐ出来るのね」

 「そういうやつを意識したからね。
 おぉ!ちゃんと引伸ばせてる!やっぱり綺麗な顔立ちしてるねぇ…
 普段小さいのって勿体ない…いや、人目引きすぎるから今のままがいいか」

 実際引き伸ばした写真見てると、ネルのとんでもない美貌がはっきりわかる。
 こんな美人連れて歩いてたら、絶対なんか事件に巻き込まれるって思うぐらいに整ってるんだよなぁ。

 「…少しの間だけなら大きくなれるんだけどね」

 「え?ごめん、よく聞こえなかった。なんて言ったの?」

 「ん?なんにも?気のせいじゃない?」

 うーむ、なんか大切な事聞き逃した様な気がします。



 そんな感じで昼の休憩もひと段落して、僕達は再度街へ向けて足を進めます。

 午後の日差しは柔らかくて、草原を吹き抜ける風も穏やかに草葉を揺らしています。
 シアの説明によると、この辺りでは夜になればゴブリンや草原狼が歩き回るため、夜間に移動する人はまれらしい。
 ただし、こんな昼下がりはせいぜい角ウサギや跳びネズミがたまに見つかる位の長閑な地域なんだってさ。
 ウチの風羽花と銀達も移動しながら、そんな小動物を何匹か捕らえては、夕食の材料にと運んで来てくれるし。

 そうして川沿いを歩いていると、少し背の高い草の隙間から、石壁のようなものが姿を見せ始めました。

 「どうやら街についたようじゃ。ユーマ様よ、街におる間は我のことは従魔として扱わぬ様に気をつけた方が良い。
 またネル様にも姿を隠すか、人形のフリをして貰うべきじゃな」

 「なるほどね、注意するよ。銀達は大丈夫かな?」

 「それはユーマ様がテイミングしているわけじゃから問題ないのじゃ」

 僕は銀からネルを抱き上げると、一旦シャツの中に入って貰う事にしました。

 「ごめんね、ネル。窮屈だけどしばらく我慢してね」

 「仕方ないわよ。またいい方法考えましょ」

 こうして僕達は遂に初めての街に到着したんです。
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