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エピローグ【解決編】

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 作中において、翼は深田の申し出を断っている。それは、彼女の強がりというわけではなく、そもそも腹痛の原因が他のところにあることを、彼女自身が知っていたからなのだ。じきに治ると彼女が断言しているのも、それが必ず周期の終わりを迎えるもの――生理痛であることを知っていたからなのである。

「でも、それだけでは断定できませんよね? もしかすると、陸士長の単なる強がりだった――なんて可能性もゼロではありませんから」

 仕掛けを施した側の人間からすれば、簡単にトリックを暴かれてしまうのは面白くない。笑ってはいるものの、当然のように反論してくる。

「確かに、断定することはできないな。しかし、陸士長が女性であると示唆する事柄は他にもある。例えば――彼女のあだ名となった【陸士長】というワードを作中では頻繁に使っているが、これも陸士長が女性であるがゆえの苦肉の策だったのだろう?」

 早速だがテーブル席のほうが盛り上がりを見せている。ムードメーカーの深田がいるから、なおさらなのかもしれない。いいや、あの場所にいた頃は、まさかみんなでこんな風に再会し、そして酒を飲み交わすことなんて考えもしなかった。それが実現されたことに誰もが気分が高揚してしまっているのかもしれない。彼らの姿から視線をアガサのほうに戻すと、春日は続けた。

「私はあまり小説のルールというものを知らないが、少なくとも君は登場人物の書き分けに姓名を使い分けているようだ。つまり、男性の登場人物は姓で明記し、女性の登場人物は名で明記されている。こうすることで、ただでさえ多い登場人物を分かりやすくしているのだと思う。さて、この法則で考えると、陸士長は姓の【池田】ではなく、名である【翼】で明記されなければならない。しかし、それをしてしまうと彼女が女性であると明言してしまうようなものだ。かと言って、姓を使うのは小説のルールに反する。だから苦肉の策として、彼女の名前は、当時あだ名となっていた【陸士長】と明記することにしたんだ」

 アガサはあえて首を縦には振らない。春日としては、手痛いところを突いているつもりなのではあるが、しかし彼女はまだ食い下がってくる。

「しかし【陸士長】という明記だけでは、やはり男性なのか女性なのか断定はできませんねぇ。春日さんのおっしゃる通り、男性は姓で、女性は名で書き分けてあります。ですから、地の分でも陸士長のことを【翼】と明記してあれば、それこそ陸士長が女性であるという証拠になったのかもしれません。でも、作中ではあくまでも【陸士長】で統一してあります。残念ですが、決定打にはなりませんね」
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